第25話 緊張

 今までは、わたしのことを無視してきたモニクレットさん。


 そのモニクレットさんがわたしたちに声をかけてきた。


 ただ、マドレアリーヌさんとは時々やり取りをしているので、わたしにではなくマドレアリーヌさんに声をかけてきたのだろうと思っていた。


 すると、モニクレットさんは、


「マドレアリーヌさん、あなたに聞きたいことがあってここに来たの」


 と言ってきた。


「聞きたいこと?」


 マドレアリーヌさんが首を傾げていると、モニクレットさんは、


「マドレアリーヌさん、わたし、この間の舞踏会でオーギュドステファ殿下とダンスを踊ったのよ」


 と言った。


「それは聞いておりますわ」


 わたしは二人のダンスを見ていて、素敵なダンスだと思っていた。


 ただ、オーギュドステファ殿下と踊っていた相手がモニクレットさんだということは、忘れていた。


 あの時のオーギュドステファ殿下の相手がモニクレットさんだったのだ。


「オーギュドステファ殿下と踊って、参加者の方々にも大きな拍手を受けたのですよ。オーギュドステファ殿下も、わたしとダンスを踊ることができてうれしそうでしたわ。これでオーギュドステファ殿下の恋人になり、婚約者になれると思ったのに、それからわたしには何の連絡もないの。わたしのように魅力のなる人間であれば、オーギュドステファ殿下も心を奪われると思ったのに……。これではあんまりですわ。一体、オーギュドステファ殿下は何を考えておられるのでしょう?」


 モニクレットさんは沈痛な表情で話をする。


「あの、わたしはこの場所からいなくなった方がよろしいですよね。お二人で話をしたいようですし」


 わたしがそう申し出ると、モニクレットさんは、


「あなたはあの生意気なルデナティーヌさんなのね」


 と言った。


 それに対し、わたしは、


「生意気ではないんですけど」


 と苦笑いをしながら応えた。


 モニクレットさんが、


「まあ、あなたがここに居続けようと、ここからいなくなろうと、わたしには関係ないからどうでもいいわ。それにあなたはマドレアリーヌさんの友達なんでしょう? 友達と一緒にいた方がいいと思うけど」


 と言ったのに対し、わたしは、


「わたしもマドレアリーヌさんと一緒にいたいんですけど、わたしがここにいたら迷惑になってしまうのではないかと思ったのです」


 と応えた。


「わたしにとって、あなたはここにいてもいなくても同じ存在なの。友達と一緒にいたいのならいればいいだけよ」


 モニクレットさんがそう言うと、マドレアリーヌさんも、


「わたしもルデナティーヌさんにはここにいてほしい」


 と言ってくれた。


 モニクレットさんは、本心から、わたしがここにいることをどうでもいいことだと思っているようだ。


 マドレアリーヌさんの方は、今、モニクレットさんからオーギュドステファ殿下の話が出ているので、聞いておいた方がいいと思っているのだと思う。


 モニクレットさんは、


「では続けるわ」


 と言って話を続けていく。


「マドレアリーヌさん、あなたはオーギュドステファ殿下の幼馴染だよね」


「そうですよ」


「だとすれば、オーギュドステファ殿下の好きな人を知っていたりしない?」


 その言葉を聞いて、わたしは少し緊張する。


「その人の存在がわたしを遠ざけているかもしれないの。それで、もしかして、と思ったんだけれど、その好きな人って、マドレアリーヌさんではないかと思ったの」


 わたしのことをいきなり言われるかもしれないと思ったので、その点はホッとしたのだけれど、今度はマドレアリーヌさんに矛先が行っている。


 しかも、表情には怒りさえもまじっている。


 さすがに公爵家の体面があるので、マドレアリーヌさんに危害を加えることはないとは思うが、万一ということもある。


 その場合は、マドレアリーヌさんの楯にならなければならないので、緊張は続く。

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