第24話 対決
わたしが男爵家令嬢であることで、直接見下した態度をとるのではなくて、こうして礼儀作法のところで厳しく言ってくる。
モニクレットさんという人は、なかなかの策士というところだろう。
わたしたちの様子をうかがっているこのクラスの生徒の多くも、こうしやり取りにより、
「礼儀作法」
を教えられているのだろう。
このことは想定していたことなので、特に心が動揺することはなかった。
わたしは、
「この学校ではすべての人々を平等に扱うということが定められていると聞いております。したがって、わたしはそのようなあいさつをするつもりはありません。普通のあいさつをさせていただきます」
と応えた。
これは、このクラスで、モニクレットさんによる、
「礼儀作法」
を押し付けられている人たちにも向けた言葉だった。
モニクレットさんは、わたしに対して、
「あなたは、わたしというゴージャスで素敵な女性のことを尊敬することを知らないし。屈服するということも知らない。今までも礼儀を知らない人たちと出会い、その度に厳しい言葉をかけてきました。しかし、ここまで礼儀というものを知らない人間は初めてですわ。こうなると、より一層、厳しい言葉をかけなくてはなりませんね」
と言った。
それに対して、わたしは、
「厳しい言葉をかけるのは。遠慮させていただいてよろしいでしょうか?」
と応えた。
モニクレットさんは、わたしの言葉に対し、
「あなたは本当に礼儀というものを知らないのですね。全く。『遠慮させていただいてよろしいでしょうか?』という言葉を言える立場ではないでしょう? あなたはこの世でもまれをみる礼儀というものを知らない人間だと言っていいですわね。ここまでどうしょうもない人間だというのに、よく今まで平然と生きてくることができましたね。わたしからすると信じられませんわ」
という厳しい嫌味を言った。
モニクレットさんはわたしにだけではなく、他の人にもこうした厳しい言葉を言っているとは言っても、さすがに。
「この世でもまれをみる礼儀を知らない人間だと言っていいですわね」
とまでは言わないと思う。
しかし、それを考慮にいれないとしても、モニクレットさんの嫌味は厳しいものだ。
モニクレットさんに今まで言われた人たちは、こうした言葉に対して怒っているのだろう。
でも、爵位の差がある為、その怒りは飲み込まざるを得ず、苦悶の表情を浮かべてしまう。
今までのモニクレットさんはそうした苦悶の表情を見て、喜びに浸っていたようだ。
しかし、わたしは平気だ。
婚約破棄されて、家を追放された時のことを思えば、たいしたことではない。
わたしが微笑んでいるのを見て、モニクレットさんは、
「あなたは、わたしに嫌味を言われて悔しくないのですか?」
と苛立ちながら聞いてきた。
「特に何も思いませんが」
わたしがそう応えると、モニクレットさんは、
「なんでわたしの嫌味に対して、平然としていられるのよ。今まで、わたしに嫌味を言われて、平然としていられたのはマドレアリーヌさんだけなのに。ああ、何でゴージャスでない人が平然としているのよ」
と悔しそうにわたしに言った。
悔しそうなモニクレットさんの姿を見て、わたしはささやかではあるけれども、モニクレットさんに勝利をした気持ちになっていた。
まあ、こんなところで勝利した気持ちになっても、意味はないとも思っていたのだけれど。
ただ、その後、モニクレットさんやその取り巻きたちは、わたしのことを無視するようになった。
このクラスに来て最初の内、わたしに話しかけない人が多かったのは、この影響が大きい。
ただ、マドレアリーヌさんは、そんなわたしに対し、すぐに声をかけてくれたので、孤立無援の状態にはならなかった。
その意味でもマドレアリーヌさんには感謝している。
わたしがモニクレットさんに対して言った言葉は、今のところまだクラスの人たちを動かすまでにはなっていないのだけれど、それもその内、芽が出てくるだろうと思っていた。
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