第21話 思い出すことができない
わたしは。
「オーギュドステファ殿下。わたしがボドルノール王国のブルトール侯爵家に生まれ、婚約を破棄されてしまったことはご存じでしょうか?」
とオーギュドステファ殿下に言った。
すると、オーギュドステファ殿下は、
「話は聞いてはいるよ」
を応えた。
わたしは、それを受けて、オーギュドステファ殿下に、
「わたしは、それにより、侯爵家を追われることになってしまいました。そして、心にも大きな打撃を受けることになってしまいました。その為、男性そのものにも恐れを抱くようになってしまったのでございます。オーギュドステファ殿下がわたしに対して、強い想いを寄せていただいているということは、理解をさせていただきましたが、でも、それが本心かどうか、わたしにはわからなくて……。わたしをただ揶揄しているだけではないかと思ってしまうのです。そして、その内、わたしに飽きたら、婚約破棄をした方と同様、わたしに見向きもしなくなるのではないかと思ってしまうのです」
と言った。
オーギュドステファ殿下は、驚いた表情はしたものの、わたしの話はじっと聞いていた。
わたしは、話を終えた後、
「オーギュドステファ殿下には失礼なことを申してしまったと思っております。申し訳ありません」
と言って頭を下げた。
結局のところ、わたしは婚約破棄されたことを乗り越えられてはいない。
心の中で、そのことをマドレアリーヌさんに詫びた。
それに対し、オーギュドステファ殿下は、
「なるほど、そういうことだったんだね」
と言った。
「婚約破棄された心の痛手を乗り越えようと努力はしているのですが、なかなかうまくいきません。恥ずかしい限りです」
「まあ、それは仕方のないことだと思うよ。お前もわたしの噂は聞いているだろう。女性に声をかけまくっているという話を。だからなおさら、その心の傷がうずくことになったのだろう。でも、心配することはない。わたしはその方とは違う。お前一筋でわたしは生きているのだよ。お前しかわたしにはいない。それほどお前のことが好きなのだ。この気持ちは理解をしてほしいよな」
そう言うと、オーギュドステファ殿下は微笑んだ。
「オーギュドステファ殿下、また失礼なことを申し上げるかもしれませんが、なぜわたしのようなものをそこまで好きになっていただけるのでしょうか? それがわたしにはよくわからないのでございます」
「うーん。ここまでわたしがいろいろ話をしているというのに、まだ思い出すことができないようだね」
オーギュドステファ殿下はちょっと困ったような表情をする。
わたしは、舞踏会の時もそうだったのだが、オーギュドステファ殿下の言葉の意味が理解できない。
あの時は、わたしの聞き間違いかもしれないと思ったのだけれど、今回も同じようなことを言っている。
オーギュドステファ殿下が、わたしに対して、
「まだ思い出すことができないようだね」
と言うということは、以前、オーギュドステファ殿下とわたしがどこかで会っていたことが前提となっていることになる。
でも、わたしにはその記憶がない。
思い出そうとしても思い出すことができないでいる。
舞踏会の時が初対面だったとしか思えない。
わたしが、
「どういうことでございましょう?」
と言うと、オーギュドステファ殿下は、
「昔、わたしとお前がした約束のことだよ。これだけわたしが話をしても、まだ思い出せないのかな? まあ、気長に待つしかなさそうだね」
と言って、苦笑いした。
「わたしがオーギュドステファ殿下と約束をしたとなると、重要なことだと思います。しかし、思い出すことができないのです」
わたしが申し訳なさそうに言うと、オーギュドステファ殿下は、
「まあ、それはその内、思い出すと思っている。だから、そこで悩むことはないよ。それよりもはるかに大切なことは、今のおまえの気持ちだよ。どうだ、俺のことを好きになってきたか? そうなってくれるとうれしいんだがね」
と言って笑った。
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