第20話 わたしの愛しい人
わたしは王宮の中にあるオーギュドステファ殿下の住んでいる屋敷の中に入った。
そして、オーギュドステファ殿下の執事に案内される。
歩いている内に緊張はだんだん高まっていかざるをえない。
でも、ここまで来ている以上、戻ることはありえなかった。
そして、応接室のドアの前まで来た。
執事は、ドアをノックした後、オーギュドステファ殿下に、
「ジナーノリックス男爵家のお嬢様をこちらまで案内いたしました。入ってもよろしいでしょうか?
と聞いた。
「どうぞ」
「それでは失礼します」
ドアが開くと、そこには礼服を着たオーギュドステファ殿下がいた。
イケメン。
わたしの心は急激に沸き立っていく。
今まで持っていた緊張と合わせ、心のコントロールが難しくなってくる。
そうだ。
舞踏会の時に初めて会った時も、こういう気持ちになっていたのだった。
しかし、その後、オーギュドステファ殿下のわたしに対しての対応で、心が複雑に動き、「運命の人」だと思うどころではなくなってしまった。
今回は冷静にいかなくてはならない。
とは思いつつも、この容姿の凛々しさに、心を奪われてしまう。
オーギュドステファ殿下は、
「ようこそ。わたしの愛しい人、さあ、こちらにきて」
と言った後、わたしを席へと案内していく。
わたしは冷静になる為、努力する。
しかし、
「わたしの愛しい人」
と言われて、さらに心が沸き立っていく。
わたしは一体どうしたのだろう……。
困惑しながら、紅茶とお菓子がセットされたテーブルの前の席に座る。
オーギュドステファ殿下はわたしの席の隣に座った。
そして、
「さあ、お茶会を始めよう」
と言い、紅茶を一口飲んだ。
「本日は、ご招待ありがとうございます」
わたしはなんとかその言葉を言った。
すると、オーギュドステファ殿下は、
「かしこまらなくていいよ。わたしとお前は既に付き合っているのだから。わたしはおまのことが、好きで、好きでたまらない。愛してる。お前は、世界の中の誰よりも美しい。わたしはお前さえいれば、他に何もいらない。ああ、ルデナティーヌよ、大好きだ!」
と微笑みながらわたしに言った。
わたしはそう言われて、恥ずかしくなってくる。
この方は、本気でわたしに言っているのだろうか?
そうは思いつつも、胸のドキドキは大きくなっていく。
しかし、それは始まりに過ぎなかった。
それからオーギュドステファ殿下は、歯が浮くような言葉を、それこそ休むことなくわたしに対して言い続けたのだった。
「ルデナティーヌよ、好きだ、大好きだ。ああ、この気持ちは、あまりにも大きすぎて、お前に伝えきることができない……」
オーギュドステファ殿下はそう言うと、ようやく少し休む気になったようで、紅茶を飲み、くつろぐ態勢になった。
わたしに対して、
「好き」
と言う言葉をこの間に何回言ったかわからない。
わたしはその度に、心が沸騰しそうになった。
ここまで言うのだから、わたしのことが好きなのは間違いなさそうだ。
いや、わたし自身、相当オーギュドステファ殿下に心が動かされてしまっている。
わたし好みの容姿。
そして、わたしに対する熱い気持ち。
普通だったら、すっかりオーギュドステファ殿下の虜になってしまうだろう。
しかし……。
わたしの心は、まだ婚約破棄された時の打撃が残っている。
その時の心の傷が。ここにきて急激にうずいてきている。
なんでこんな時に、と思わざるをえない。
その影響は大きく、わたしは最後の一線のところで、オーギュドステファ殿下の虜になることが抑えられることになっていた。
それだけではなく。わたしがオーギュドステファ殿下を「運命の人」と認識しようとするところまでも抑えられることになっていた。
わたしの心の奥底では既にオーギュドステファ殿下を受け入れようとしているはずなのに……。
これではいけない。
今日は婚約破棄の時の打撃を乗り越え、オーギュドステファ殿下が「運命の人」であるかどうかということをきちんと認識しなければならないのだ。
わたしは、なんとか心を切り替え始める。
そして、
「オーギュドステファ殿下、おたずねしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
と言った。
オーギュドステファ殿下は少し首を傾げるような表情をした。
でも、すぐに微笑んで。
「なんでも言ってかまわないよ」
と言うのだった。
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