第19話 お茶会の日

 今日はお茶会の日。


 ここ数日は雪が断続的に降っていたが、その雪はようやく止んでいた。


 しかし、曇天なので、晴れた朝を迎えるというところまでにはなってはいなかった。


 そして、底冷えのする寒さにこの地全体が覆われていた。


 わたしの心の方も、目覚めた後、オーギュドステファ殿下と会う時が近づくに従って、憂色が少しずつ濃くなっていく。


 マドレアリーヌさんは、昨日も昼休みにわたしのことを励ましてくれた。


 マドレアリーヌさんとオーギュドステファ殿下の話をして、マドレアリーヌさんにその度に励まされて気力を充実していったわたし。


 それが、今日、朝目覚めてみると、せっかく得た気力が少しずつ失われてなくような気がしてしまう。


 オーギュドステファ殿下と二人だけで会うということで、どうしてもその対応に悩んでしまう。


 対応の方針方自体は、ここ数日で考え抜いて定めていた。


「オーギュドステファ殿下の想いをしっかり聞き、受け止められるものであればしっかり受け止める。そして、婚約破棄による打撃を乗り越え、オーギュドステファ殿下が『運命の人』であるかどうかの判断をきちんとしていく」


 オーギュドステファ殿下はわたしのことを『運命の人』だと想っているという、マドレアリーヌさんの意見がここに反映されている。


 ただ、今日の朝になり、わたしの心の中では急速に、オーギュドステファ殿下がそこまでわたしのことを想ってくれているのだろうかという気持ちが湧き出してきていた。


 そして、わたしのことをただ揶揄しているだけかもしれず、もし、そうであれば、わたしはただのピエロにすぎず、苦しみを味わってしまうことになるという思いに発展していく。


 その苦しみは、婚約破棄をされた時に匹敵するものになるかもしれない。


 あの時の苦しみはもう二度と味わいたくはなかったが、今回も場合によってはそこまでいってしまう可能性はあるのだ。


 そう思うと、オーギュドステファ殿下と会う意味があるのだろうかと思ってしまう。


 なんでこんな時に、そんなことを思ってしまうのだろう……。


 わたしはそう思うのだけれど、一度思い出すとその勢いはなかなかおさまらない。


 そうしたことによる悩みが、わたしの気力を少しずつ奪っていく。


 それとともに。緊張もしてくる。


 こういう心の状態になってしまうのは、わたしの精進が足りないからなのだと思う。


 精進していれば、こういうことで悩むこともなくなるだろう。


 わたしはまだまだ精進して、心を鍛えていかなければならない。


 マドレアリーヌさん、申し訳ありません。


 せっかくいろいろな話をして下さり、わたしを励まして下ったのに、これから出発というところで悩むことになってしまいました。


 でも、なんとかこれから心を立て直し、オーギュドステファ殿下とのお茶会に向かっていこうと思います。


 そして、マドレアリーヌさんのご期待に応えていきます。


 そう思うわたしだった。


 とにかく心を立て直さなければならない。


 この後すぐに。両親と朝食をとることになっていた。


 悩んでいる様子を見せるわけにはいかないので、両親にはその席で、


「今日のお茶会が楽しみでございます。きっといいお茶会になると思っています」


 と微笑みながら言った。


 両親は心配そうにしていたが、その一言で救われたようだった。


「わたしたちもいいお茶会になることを願っている」


 そうわたしに言ってくれた。


 しかし、わたしの心はまだ立ち直ってはいない。


 朝食をとった後、入浴して体を清めることにより、心を立て直していく。


 そして、ドレスに着替えていくことにより、先程よりは心の状態は良くなってきた。


 とにかく、もう悩んでいても仕方がない。


 ここは前に進んでいくだけ!


 わたしがそう思っていると、オーギュドステファ殿下のところから迎えの馬車がやってきた。


 わたしはその馬車に乗り込み、オーギュドステファ殿下のところへ向かって行くのだった。

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