第18話 お茶会に向けて

 わたしはマドレアリーヌさんから、オーギュドステファ殿下の話をたくさん聞くことができた。


 もし、わたしがマドレアリーヌさんと出会っていなかったら、オーギュドステファ殿下のここまでの詳しい情報は入ってこなかったと思う。


 ありがたいことだった。


 この情報をもとに、オーギュドステファ殿下とどう向き合っていくかということを決めていく。


 わたしは、今回、マドレアリーヌさんが、オーギュドステファ殿下のことで親身になってくれたので、マドレアリーヌさんのことをますます尊敬をするようになった。


 マドレアリーヌさんとは、これからもっと仲良くなっていきたいと思う。


 わたしはその後、執事や侍女にもオーギュドステファ殿下についての話を聞いた。


 そして、舞踏会から三日後に領地からこの王都の屋敷に戻ってきた両親にも、王宮へ招待されたことをまず話した後、オーギュドステファ殿下についての話を聞いた。


 いずれもマドレアリーヌさんほどオーギュドステファ殿下についての情報を持っているわけではなかった。


 しかし、オーギュドステファ殿下に対して、どのような印象を持っているかということについて知ることができたのは、収穫だったと思っている。


 わたしがオーギュドステファ殿下のことについて聞いた全員、いい印象は持っていなかった。


 わたしのお父様も、


「本来、王太子殿下に好意をもってもらえることは光栄なことだと思う。そして、お茶会に誘っていただいたことも光栄なことだ。王室と男爵家の間は、通常は身分差があるので、結婚どころか、お茶会に王太子殿下が誘うことすら、全くありえないという話ではないのだが、難しいことなのだ。その点ではありがたいことだと思う。でも。オーギュドステファ殿下はとにかく評判が悪い。わたしたちが特に気にしているのは、『女性に声をかけまくっている』という点だ。他のことはともかく、このことは、わたしたちも嫌に思うことだが、お前の方が多分一番嫌がるだろう。もちろんわたしたちは、お前の判断に従うが、熟慮して決めるべきことだと思う」


 と言っていた。


 お母様も。


「オーギュドステファ殿下の評判が悪いことは、心配の種なのよ。でも、オーギュドステファ殿下の悪い評判は誤解によるものかもしれない。いや、そうであってほしいという気持ちが強いの。いずれにしても、わたしたちはお前の判断に従うわ。たしたちは。とにかくお前には幸せになってほしいといつも思っているの。そして、オーギュドステファ殿下と結婚まで進むというのであれば、オーギュドステファ殿下と一緒に幸せになることを願っているの」


 と言っていた。


 わたしのことを思ってくれて、ありがたいことだ。


 ただ、わたしは、お父様の言った、


「王室と男爵家の身分差」


 ということを考えざるをえなかった。


 男爵は、貴族の一員であるものの、爵位の中では一番。


 この王国にいる貴族令嬢であれば誰もが王太子殿下との結婚にあこがれるものだ。


 もちろん、わたしだってあこがれている。


 しかし、残念ながら、わたしには爵位的に難しい話。


 王太子殿下との結婚ともなると、普通は政略結婚。


 王室と家どうしの間柄の結婚ということになる。


 王室はこれによりその家の力を得ることができるようになるし、その家の方も王室の力を得ることができるようになれる。


 両方にとってメリットがある関係だ。


 しかし、その家の爵位が低ければ、その家の力も弱くなってしまうので、メリットはないと言っていい。


 男爵といえども貴族なので、王太子殿下の結婚相手になることはできるのだけれど、このメリットがないという点が大きく、結婚相手の対象となることは今までなかった。


 ここ百年ほどの王太子殿下の結婚相手は、すべて侯爵家以上の貴族令嬢だった。


 ただ、それ以前になると、男爵令嬢を結婚相手にした例もあるとのこと。


 したがって、わたしがオーギュドステファ殿下の結婚相手になっても大丈夫だということになる。


 そうしたことを頭に入れていたので、マドレアリーヌさんも、この身分差のことは言わなかったのだろう。


 身分差のことはどうしても気にせざるをえないのだけれど、オーギュドステファ殿下自身が気にしていないのだから、わたしが気にしていても意味がないと少しずつ思うようになっていった。


 わたしはこうしたオーギュドステファ殿下の情報を心の中で整理し、お茶会に備えていくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る