第17話 オーギュドステファ殿下と向き合う

 マドレアリーヌさんは、わたしたちがまずは前世で会っていたということを考えるべきだと言っている。


 そのことを考えなかったわけではのだけれど……。


「前世というものが、全くないとは思いませんが、今までそういうことは考えたことがないものですから、戸惑っております」


「まあ、わたし自身、前世や過去世や来世があることを全面的に信じられているわけではないのだけれど、もし、そうした世界がないとすると、オーギュドステファ殿下のおっしゃっていることは理解できなくなるし。ルデナティーヌさんとわたしがお互いに、初めて会う気がしなかったことも説明できなくなると思うわ。そして、わたしとしては、オーギュドステファ殿下とわたしが前世もしくはその他の過去世でも会っていて、そこで何らかの約束をしているとロマンティックでいいと思うんだけれど、残念ながら、会っていた記憶がないのよね……」


 少し残念そうなマドレアリーヌさん。


「とにかくわたしは、オーギュドステファ殿下とルデナティーヌさん、そして、ルデナティーヌさんとわたしは、前世で会っているものと信じていきたいの」


「わたしもそう信じたいと思っています」


「もし、オーギュドステファ殿下とルデナティーヌさんが前世で会っていて、そこでも仲が良かったのであれば、今世でもその仲の良さの素地はあるはずだから、オーギュドステファ殿下との仲を急速に深めていけそうね」


 マドレアリーヌさんはそう言った後、紅茶を少し飲み、お菓子を少し食べた。


 わたしも少し紅茶を飲み、お菓子を食べる。


 マドレアリーヌさんは、


「ただ、前世のことの方に心が集中してしまったら、今のオーギュドステファ殿下の対応に集中できないかもしれないわ。そうなってしまうと、オーギュドステファ殿下と仲を深めていくことの妨げになるかもしれない」


 と言った後、しばらくの間、考え込んだ。


 そして、マドレアリーヌさんは、


「ルデナティーヌさん、申し訳ない。わたしは思い直したのだけれど、オーギュドステファ殿下とのお茶会においては、今、わたしたちが話をした前世や過去世のことは、一旦、心の奥底に置いた方がいいと思うわ。ルデナティーヌさんは、今のオーギュドステファ殿下ときちんと向き合うべきだと思ったの」


 と言った。


「今のオーギュドステファ殿下ときちんと向き合う……」


「わたしがそう思った理由を話すことにするわね。わたしが前世やそれ以外の過去世のことを思い出せれば、そういう世界があるということが百パーセントの自信を持って言える。過去世とは言ったけれど、昔になればなるほど思い出しにくくなると思うから、まずは、今世に一番近い前世のことを思い出せることができれば、百パーセントの自信を持って言うことができると思っていたの。でも、残念ながら思い出せない。その為、そこまでの自信を持って言うことができないの。ルデナティーヌさんが思い出せればいいんだけれど、それも無理みたいだし…」


「申し訳ないのですが、前世以外の過去世だけではなく、前世のことも思い出すことができないのです」


「それが仕方のないことだと思うの。謝ることではないわ。そこでわたしは、百パーセントあったかどうかわからない前世において、オーギュドステファ殿下と会った時のことを思い出すよりは、今のオーギュドステファ殿下ときちんと向き合い、その関係をどうしていくかを決めていく方が、大切だと思い直したの。また、さっきも言ったのだけれど、もし、オーギュドステファ殿下と前世で会っていて、そこでも仲が良かったのであれば、思い出せなかったとしても、急速に仲を深めていけると思うので、その点からしても、思い出すこと自体については、それほど重要なことではないと思うようになったの。ようするに、ルデナティーヌさんが、今のオーギュドステファ殿下のことを好きになることができるかどうかが大切だと言うことね。わたしとしては、二人に相思相愛になってほしいと思っているわ」


 わたしはマドレアリーヌさんのこの言葉を聞いて、なかなか難しいことだと思った。


 わたしはまだまだオーギュドステファ殿下のことがよくわかっていない。


 知識としては今日、かなり入ってきてはいるものの、心の底から理解しているとは到底言えないだろう。


 心の底からオーギュドステファ殿下のことを理解するには、なかなか難しいことではあると言っても、マドレアリーヌさんの言う通り、まずは今のオーギュドステファ殿下ときちんと向き合う必要がある。


 そう思ったわたしは、マドレアリーヌさんに、


「マドレアリーヌさん、いろいろアドバイスをしていだだきまして、ありがとうございます。ただ、わたしにとっては、なかなか難しいことではございます。しかし、それでもわたしは、今のオーギュドステファ殿下ときちんと向き合うことを心に刻んで、お茶会にのぞみたいと思います」


 と言った。


 それに対して、マドレアリーヌさんは、


「オーギュドステファ殿下のことを受け入れられる態勢にはなれそう?」


 と言ってきた。


「まだまだオーギュドステファ殿下のことを受け入れえる態勢にはなっていません。この点は、申し訳なく思っています。ただ、今日、オーギュドステファ殿下のことについて。いろいろ教えていただいたことで、少しずつ前に進んでいけそうな気はいたします」


「あせることはないと思う。ただ、わたしは、オーギュドステファ殿下とルデナティーヌさんは、『運命の人』どうしだと思っているのよ。ルデナティーヌさんが今のオーギュドステファ殿下ときちんと向き合い、お互いにその心を合わせていけば、きっと結婚まで進むことができてお互いに幸せになっていけると思っているのよ」


「そう言っていただきまして、ありがとうございます。マドレアリーヌさんのご期待に応えられるようにしていきたいと思います」


 わたしはマドレアリーヌさんにそう言うと、頭を下げた。

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