第16話 幼い頃の記憶

 マドレアリーヌさんの言う通りだと思う。


 わたしは、オーギュドステファ殿下のことを純粋に考えていかなくてはならないのだ。


 ただ、わたしはオーギュドステファ殿下のことについて、もう一つマドレアリーヌさんと話をしたいと思っていたことがあった。


 場合によっては、荒唐無稽な話だと思われてしまうので、今までは話をする気はなかったが、マドレアリーヌさんと今日話をしている内に、マドレアリーヌさんならば聞いてくれそうな気がしたので、話をすることにした。


「あの、マドレアリーヌさん、もう一つ話をさせていただきたいのですが?」


「どうぞ、お願いします」


「オーギュドステファ殿下は、初めてお会いした舞踏会の時、『お前とわたしは今回、初めて会ったわけではないよ。以前、会ったことがあるんだよ』とおっしゃっていました。恐らくは、その点も含めて、わたしのことを『運命の人』だと認識したのだと思います。でも、わたしは舞踏会以前において、オーギュドステファ殿下とお会いした記憶はありません。ただ、そこで思ったことがあったのです。わたしはマドレアリーヌさんと初めてお会いした時に、初めて会った方だとは思えなかったのですが、マドレアリーヌさんも同じ認識をされていました。残念ながら、わたしはマドレアリーヌさんとどこでお会いしたのか、その記憶もありませんが、もしかしたら、マドレアリーヌさんの方は、幼い頃、わたしと会った記憶があるのではないかと思いました。もしそうでありますならば、オーギュドステファ殿下とマドレアリーヌさんは幼馴染ということですから、マドレアリーヌさんの紹介で、一度くらいはオーギュドステファ殿下とマドレアリーヌさんとわたしの三人で会ったことがあるのではないかと思ったのでございます。そういうことであれば、オーギュドステファ殿下がわたしと会ったことがあるというのも理解ができます。もし、そのような記憶がありましたら、教えていただくことができれば、と思ったのでございます。もちろん、これはわたしのただの想像に過ぎません。荒唐無稽なことを言っているのかもしれないと思っています。気を悪くされたら申し訳ありません」


 わたしはそう言った。


 マドレアリーヌさんはどういう反応を示すのであろうか?


 わたしが心配していると、マドレアリーヌさんは、


「全然荒唐無稽なことではないわよ。オーギュドステファ殿下からそういう話があり、また、わたしもルデナティーヌさんと初めてあった気がしなかったので、ルデナティーヌさんがそういうことを思うのもよく理解できるわ」


 と応えた。


「そう言ってくださるとありがたいです」


「ただ、わたしの方も、ルデナティーヌさんについては、幼い頃の記憶がないの。ですから、オーギュドステファ殿下とルデナティーヌさんとわたしの三人であった記憶もないわ」


「そうですか……。もし、マドレアリーヌさんがこの三人で会っていた記憶をお持ちでしたら、幼い頃にオーギュドステファ殿下と会っていたということになって、その時の記憶を思い出すきっかけになったと思ったのですが……」


 ガッカリするわたし。


 すると、マドレアリーヌさんは、


「わたし、少し考えていることがあるの。もしかすると、荒唐無稽なことかもしれないけど」


 と言った。


「荒唐無稽なことですか?」


 驚くわたし。


「話をしてもいい?」


 マドレアリーヌさんが荒唐無稽な話と思っているだけかもしれない。


 わたしは、


「お願いいたします」


 と応えた。


 すると、マドレアリーヌさんは、


「もしかすると、前世のどこかで、オーギュドステファ殿下とルデナティーヌさんが会っていたのかもしれない。そして、わたしはその時二人と一緒だったかどうかはわからない。でも、そうであったらその時に、わたしはルデナティーヌさんと仲良くしていたと思うし、そうでなければ、別の過去世で、わたしとルデナティーヌさんは仲良くしていたと思う。この世で会った記憶がなければ、まずは前世で会っていたと考えるべきだと思うけど、ルデナティーヌさんはどう思うかしら?」


 と言ってきた。

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