第13話 友達の恋人

 わたしは、


「オーギュドステファ殿下とマドレアリーヌさんの仲はそれでどうなっていったのでしょうか? 差し支えがなさそうでしたら、教えていただけないでしょうか?」

 

 と言った。


「わたしとオーギュドステファ殿下はその後も仲は良かったの。他の人たちには一切本音言わなくなったオーギュドステファ殿下も、わたしには本音で話をしてくれたの」


「それだけ信頼してくれたということですね」


「そうだと信じたい。ただ、オーギュドステファ殿下もわたしも。結婚するのはお互い別の人になるという意識は、幼い頃からなんとかなく持っていた気がするわ。だから、思春期に入っても、好意はお互いにだんだん強く持つようになっていたのだけれど、それ以上の進展はなく。恋というところには進んではいかなかったの。そして、十五歳の時だったわ。ある日、わたしはオーギュドステファ殿下に、『ごめん。わたしはお前のことを恋する対象にしたかった。しかし、わたしの心の中では、このところ『理想の人』が大きな勢力となりつつあるんだ。残念ながらその人は、お前ではなさそうだ。もそ、お前がわたしに対し、恋をしているのであれば、その想いは応えられない。許してくれ』と言われたの。わたしは、ついにこの時が来てしまったか、と思わったわ。わたしの方も、オーギュドステファ殿下と同じで、『理想の人』が心の中で大きな勢力となりつつあった。でも、そのことをオーギュドステファ殿下に伝える勇気はなかったの。それをわたしが言った途端、幼馴染としての関係が壊れてしまうような気がして。それで、わたしたちは、お互いの気持ちを確認して。これからは、仲の良い幼馴染として過ごして行きましょうということになったの。だから、その後も、オーギュドステファ殿下の二人だけのお茶会に呼ばれて話はしているわ。先程、ルデナティーヌさんにしたオーギュドステファ殿下が言っていた話も、オーギュドステファ殿下がお茶会の時にわたしにだけ話をしてくれたことだったの。でも、『理想の人』がお互い違っていたのは、寂しいことではたと思うわ」


 マドレアリーヌさんはそう言った後、少し寂しい表情をした。


「そういうことだったんですね」


「まあ、これも運命ということなのだと思うの。それで、その後、わたしの方は、今から一年ほど前に、その『理想の人』に出会うことになったの」


 マドレアリーヌさんは少し恥ずかしそうにそう言った。


「理想の人に出会ったんですか?」


 わたしはまた驚かされた。


「そうなの。今から約一年前にこの王国の舞踏会でね」


「相手はどういうお方だったんでしょうか?」


 わたしがそう言うと、マドレアリーヌさんは恥ずかしそうに、


「この王国の隣国であるフィスヴィヤール王国の王太子グレゴフィリップ殿下。『理想の人』で『運命の人』なのよ」


 と応えた。


「グレゴフィリップ殿下ですか……。わたしもそのお方の名前は聞いたことがありまして、素敵な方だという話を伺っております。マドレアリーヌさんとそのお方ということでしたら、良縁だと思います」


「ありがとう。そう言ってくれるとうれしいわ」


 マドレアリーヌさんはそう言うと、微笑んだ。


「マドレアリーヌさんは、グレゴフィリップ殿下と舞踏会で初めてお会いした時、すぐに『運命の人』だと認識されたのですか?」


「そうなのよ。グレゴフィリップ殿下を一目見た時から、このお方はわたしの『理想の人』であると同時に、『運命の人』だということがすぐにわかったの。それで、オーギュドステファ殿下のそばに行ったのだけれど。さすがにすぐには、こちらから声をかけることはできなかったわ。でも、せっかくのチャンスやってきたのだからと思い、勇気を振り絞って、グレゴフィリップ殿下に話しかけたの。そうしたら、グレゴフィリップ殿下は一瞬驚いた表情はしたのだけれど、すぐに、『わたしはあなたのような方を待っていました』と言ってくれた。グレゴフィリップ殿下の方でもわたしのことを『理想の人』『運命の人』と認識してくれていたということね。そして、その後は、まだ踊る相手が決まっていなかったグレゴフィリップ殿下が、わたしを踊る相手に選んでくれて……。ダンスもこの二人で踊ったのは初めてだったんだけれど、息がピッタリ合っていたわ。ダンスが終わった後、おしゃべりを楽しんだのだけれど、こちらの方も楽しかったわ。そして、お互い、その日から恋人どうしになっていったの」

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