第6話 初めての友達

 オーギュドステファ殿下。


 わたしはこの方のことをよく知らなかった。


 この舞踏会に参加するまでは、接点がなかったので、興味を持つこともなかった。

 

 わたしが知っていたのは、イケメンではあるが、評判が悪いということぐらい。


 その評判の悪さも、


「強引で人の気持ちなど全く考えないで行動する」


 くらいのものだった。


 実際、今日、少し話をしただけでもその強引さは伝わってくる。


 わたしも少し腹を立てたほどだ。


 しかし、


「わたしと付き合うことになったのだ!」


 と言われたということは、その言葉をわたしの方が受け入れるかどうかはともかくとして、オーギュドステファ殿下との距離が近くなったことは間違いないだろう。


 わたしはとにかくオーギュドステファ殿下のことをもっとよく知る必要があった。


 そうでなければ、これからの対応策を立てることはできない。


 わたしは舞踏会から帰ってきた翌日から、オーギュドステファ殿下についての情報取集を始めた。


 まず学校で、友達になったボワデフィス公爵家令嬢マドレアリーヌさんに話を聞いた。




 マドレアリーヌさんは、わたしがこの学校に来て初めて友達になった人だ。


 この学校は身分で人を差別しないという方針が取られている。


 差別的な言動をしたり、態度を示したりすると、学校側から注意をされることになっている。


 しかし、残念ながらそれでも生徒の中には差別意識が存在していた。


 わたしは男爵家の養女なので、貴族の中では身分的に一番下になる。


 このクラスの中でも身分は一番下だった。


 その為、わたしがこのクラスに来た初日から、このクラスの中で、わたしを見下す雰囲気が生じることになってしまった。


 その雰囲気をやわらげるという意味もあり、わたしはその日の放課後、クラスの人たちにあいさつとして、


「ごきげんよう」


 と声をかけていったのだが、ほとんどの人たちに無視された。


 マドレアリーヌさんだけが、


「ごきげんよう、ルデナティーヌさん」


 と笑顔で応えてくれたのだ。


 わたしはマドレアリーヌさんとこの時初めて向き合ったのだけれど、初めて会った気がしなかった。


 そこで、わたしは、


「マドレアリーヌさんですよね。わたし、マドレアリーヌさんとは、初めて会った気がしないのでございます。どこかでお会いしたような気がしています」


 と言った。


 すると、マドレアリーヌさんは、


「わたしもルデナティーヌさんとどこかでお会いしたような気がしていますの」


 と応えてくれた。


「ただ、わたし、マドレアリーヌさんといつお会いしたのかがわからなくて」


「わたしもなのですの」


 しばらくの間、わたしたちは二人とも、会った時のことを思い出そうとする。


「思い出すのは無理そうですね。残念です」


「わたしも思い出すのは無理そうです。でも、どこかでルデナティーヌさんにはお会いしていると思いますので、思い出すことができないのは残念です」


 マドレアリーヌさんは少し沈痛な表情になってそう言った後、すぐに切り替えて、


「思い出すことができなくても、これから友達になっていけばいいと思っています。ルデナティーヌさん、わたしと友達になってくれませんか?」


 と微笑みながら言った。


 友達。


 この学校に来てからその日の内にそうした申し出が来るとは思わなかった。


 このクラスの雰囲気からすると、友達一人を作ることさえ時間がかかりそうだったからだ。


 この人は公爵家令嬢で、わたしとはかなりの身分差があるにも関わらず、そういったことを気にせずに、友達になりたいと言ってきてくれている。


 わたしは、


「そう言っていただけるとありがたいです。涙が出るほどうれしいです。わたしこそマドレアリーヌさんと友達になっていきたいと思っています」


 と応えた。


 マドレアリーヌさんは、


「これからよろしくお願いしますね、ルデナティーヌさん」


 と微笑みながら、わたしに手を差し伸べてくる。


 わたしは、


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 と言って頭を下げた後、マドレアリーヌさんの手をつかんだ。


 こうして、わたしたちは友達どうしになった。

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