第4話 イケメンな方
舞踏会が終っても、その後の歓談は続くので、参加者の多くは会場に残ったままなのだけれど、わたしにはパートナーもいないし、特にあいさつをするべき人たちはいないので、歓談に参加し続ける意味はないと思い、自分の屋敷に戻ろうとしていた。
今日は、パートナーとなる人と出会うことはできなかったが、それは仕方がないこと。
自分の馬車の周囲には誰もいない。
わたしのそばには執事がいて、一緒に馬車に向かって歩いている。
わたしは、次の舞踏会でパートナーと出会うことができればいいなあと思っていると、
「待ってくれ! お前に話をしたいことがあるんだ!」
と叫ぶ声が聞こえてくる。
わたしがその声の方に振り向くと、そこには……。
礼服に身を包んだ王子様。
オーギュドステファ王太子殿下がそこにはいた。
護衛を一人だけ連れてきている。
これほどの近い距離で見たのは初めてだ。
なんというイケメンな方なんだろう……。
思わずうっとりしてしまう。
しかし、わたしはすぐにわれに帰る。
オーギュドステファ殿下とわたしには接点が今まで全くない。
一体何の用だろう?
何か知らない間に気分を害することでもしてしまったのだろうか?
もしそうであれば、内容を聞き、謝るべきことだったら謝り、そうでないならば毅然と対応しなければならないわ……。
そう思っていると、オーギュドステファ殿下は、そばにいた執事に対し、
「わたしは少しの間、この人と二人だけで話をしたい。きみはここから少し離れたところに行ってほしい」
と言った。
有無を言わせない口調、そして強引な態度だ。
しかし、執事はそれに対し、怒ることはなく、
「お嬢様、オーギュドステファ殿下がわたしに、『ここから少し離れたところにいてほしい』とおっしゃられております。いかがいたしましょう?」
と冷静さを保ちながら聞いてきた。
わたしはオーギュドステファ殿下のことを少し強引な人だと思い、少し腹の立つところはあった。
しかし、一方では、そのイケメンな容貌にはうっとりしていたので、話をしてみたいという気持ちもあったのだ。
わたしは、執事に、
「申し訳ありませんが、馬車のところで、待っていていただけますか」
と言った。
わたしの馬車は、ここからほんの少し歩いたところにある。
執事は、
「お一人でよろしいのですか?」
と聞いてきたが、わたしは、
「オーギュドステファ殿下が二人だけで話をしたいとおっしゃっているので、それに従います、大丈夫です。よろしくお願いします」
と応えた。
それに対し、執事は、
「承知いたしました」
と言った後、馬車へ向かって歩いていった。
こうしてオーギュドステファ殿下と向かい合ったわたし。
一体何を言ってくるのだろうか?
だんだん緊張してくる。
すると、オーギュドステファ殿下は、
「わたしはお前に一目惚れした。今日からお前はわたしと付き合うことになったのだ!」
と言ってきた。
わたしは最初、その言葉の意味がわからなかった。
やがて、その言葉の意味は理解したが、今度はなぜわたしにそういう話をしてくるのだろうということで困惑せざるをえない。
わたしが、
「い、いきなり、そんなことを言われても……。オーギュドステファ殿下とわたしは今初めて話をしたばかりだというのに『付き合うことになったのだ!』というのは……。それに、オーギュドステファ殿下とわたしでは身分が違いすぎますし、どのように考えましても、オーギュドステファ殿下がわたしのことを『一目惚れ』というほど好きになり、そして、『付き合うことになったのだ!』とわたしに言いたくなる理由がわからないのでございます。もちろん、そのようにおっしゃっていただくことは、大変光栄なことだと思っておりますが……」
と言うと、オーギュドステファ殿下は、
「お前はわたしのことを覚えていないのかな? わたしはお前のことをよく覚えている。親しい間柄だったからね。今思い出しても、お前とは楽しくていい思い出を作ることができてよかったと思っているんだ」
と言ってきた。
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