第3話 舞踏会でのわたし

 わたしは領地経営の仕事にやりがいをもつようになってきている。


 ただ、ここは全体的に貧しい土地柄。


 お父様は、長年その改善に取り組んできた。


 わたしもお父様の改善のお手伝いをして、このジナーノリックス男爵家領を少しでも豊かなところにしていかなければならないと思っていた。


 冬の間は寒いので、学校に行く以外は、屋敷にこもらなければならないことが多い。


 その時間を利用して対策案を練っているところだ。




 そんな冬一月下旬のある日のこと。


 わたしは王宮で行われる舞踏会に参加することになった。


 舞踏会に参加するのはこれが初めてではない。


 既にボドルノール王国の王室の舞踏会で婚約者だったレノーシャルド様と一緒にデビューは果たし、その後も一度だけではあるものの参加している。


 ただ、今回はギュールボファテール王国の王室主催の舞踏会。


 しかも、パートナーがいない。


 舞踏会というのは、パートナーたちがそのダンスを披露するというだけではない。

 

 パートナーのいない参加者が、その場で気に入ったパートナーを見つけ、一緒にダンスをするという場でもある。


 ジナーノリックス男爵家の両親は、わたしに素敵なパートナーと出会って、一緒に幸せになってほしいと願っていた。


 わたしの心の中には、まだ婚約破棄をされたことによる打撃が残っている。


 その為、そこまで舞踏会に行きたいとは思っていなかった。


 しかし、両親のわたしに対する想いに応えたいという強い気持ちがあり、そして、わたし自身、素敵な男性と出会い、一緒に幸せになってきたいという気持ちを持っていたので、この舞踏会に参加することにした。




 そして、王宮にある舞踏会の会場にやって来た。


 たくさんの人たちがここに参集してきている。


 この日の為にダンスの練習もしてきたし、ドレスも新調してきた。


 ただ、今日の参加者の多くがパートナー持ちのようだ。


 わたしが今通っている学校は、男女別校舎の為、男女が知り合える機会はあまりないと言っていい。


 しかも、わたしはこの地に来てからそれほど経ってはいない。


 その為、わたしにパートナーがいないのは仕方のないことだと思う。


 しかし、わたしのようにパートナーが決まっていない人は少ない。


 そして、その決まっていない人たちも次々に相手が決まっていく。


 結局、相手が決まらなかったわたしは、参加者が踊るダンスをただ見ていることしかできなかった。


 王室楽団が演奏する音楽に合わせ、次々と参加者たちは踊っていく。


 やがて、ひときわ大きい拍手が聞えてきた。


 これからダンスを踊るのは、ギュールボファテール王国のオーギュドステファ王太子殿下。


 相手は、ブルザシャルー公爵家令嬢モニクレットさん。


 オーギュドステファ殿下の結婚相手に一番近いとされている女性だ。


 周囲からは、小さな声ではあるものの、


「オーギュドステファ殿下の評判はこれでますます落ちる一方。あんな性格の悪い人と踊るなんて……」


 という言葉が聞こえてくる。


 オーギュドステファ殿下の評判は、決して良いものだとは言えない。


 モニクレットさんの方の評判については、聞いたことはなく、興味もない。


 この調子だと決して良いものではないだろう。


 しかし、二人がどうであれ、ジナーノリックス男爵家のわたしには、雲の上のような話でしかない。


 二人の評判が良い方が、この王国にとっては良いことだとは思っていた。


 ただ、二人のダンスは素敵なものだった。


 二人に対して批判的な言葉を発していた人たちは黙り込んでしまっている。


 ダンスが終わると、参加者から、二人を祝福する大きな拍手が贈られた。


 わたしも素敵なダンスだったと思い、心を込めて拍手をした。


 そして、拍手をしている内に、


「わたしも一度でいいからオーギュドステファ殿下と踊りたい」


 という気持ちが湧いてきた。


 とはいうものの、わたしはオーギュドステファ殿下と話をしたことさえもまだない。


 王太子殿下と男爵家令嬢で、身分が違い過ぎる。


 そして、オーギュドステファ殿下の評判は決して良くはない。


 オーギュドステファ殿下と踊った場合、後で批判されることも覚悟しなければならないかもしれない。


 しかし、それでも一緒に踊りたいと思う。


 今はこうして遠くから見ていることしかできない。


 これから舞踏会に参加し続けたとしても、今日と同じ状況が続くだろう。


 でも、わたしはそれでいいと思う。


 これからも舞踏会では、心を込めた拍手をオーギュドステファ殿下に贈ろう!


 わたしはそう思うのだった。


 そして、ダンスが終わり、家路につこうとしていた時……。

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