第2話 家庭内でのわたし

 ギュールボファテール王国の冬はボドルノール王国よりも寒い。


 このギュールボファテール王国の中にあるジナーノリックス男爵家領も例外ではない。


 雪の量もボドルノール王国よりも多く、交通もままならないほど降ることもある。


 春が来るのがブルトール侯爵家にいた時よりも、より待ち遠しいものになる。


 わたしは冬一月、正式にギュールボファテール王国のジナーノリックス男爵家の養子となった。


 新しい両親には実子がいないので、わたしがこの家の後継者となる。


 わたしは今まで、ボドルノール王国の王立学校に通っていた。


 成績はいつも学年で五番以内。


 この一月からは、このギュールボファテール王国の王都にある王立学校に通い始めた。


 王都には規模が小さいながらもジナーノリックス男爵家の屋敷があり、そこから学校に通っていた。


 どちらの王国の王立学校も、身分に関係なく優秀な人間が選抜されている。


 学校内では、身分差にとらわれない教育方針が示されている。


 ただ、今まで通っていた王立学校でも、生徒の間では身分差別がないとまでは言えなかった。


 わたしは身分差別をするような人間ではなかった。


 そして、身分差別をされるような人間でもなかったのだけれど、それは侯爵家の令嬢だからということころが大きかったのだと思う。


 今は男爵家の令嬢になったので、爵位が上の令嬢からの身分差別を受ける可能性があることは、ある程度覚悟をしなければならないだろう。




 わたしの養親は、想像していたよりもはるかにいい人たちだった。


 実子がいない為、わたしを養子にしたのだが、わたしの境遇に同情してくれたのだ。


 このことは涙が出るほどうれしいことだった。


 二人とわたしとの関係は、養父・養母ということになるのだけれど、わたしのことを実の子供のように思ってくれる。


 そこで、わたしは実の父親。実の母親以上の存在だと思うようになったので、お父様・お母様と呼ぶことにした


 ジナーノリックス男爵家は狭いとはいいつつも領地を持っている。


 わたしは領主であるお父様から、領地経営を補佐してくれるように依頼された。


 補佐とは言っても、かなりの権限を委譲される形となる。


 もともとわたしは、ブルトール侯爵家では、父親である当主の後継者と最初は思われていた。


 その為、幼い頃から領地経営の為の教育を受けていた。


 しかし、継母は、自分の子が産まれた頃から、わたしが後継者になることに難色を示すようになったので、この教育を受け続けることに対しても難色を示し始めていた。


 もし、実の父親が継母の意見に従っていたら、わたしが受けていた教育も途中でストップすることになったに違いない。


 実際にもその危機は訪れていた。


 というのも、実の父親とも継母の影響で、既に二・三年ほど前からわたしとの関係は悪化していたからだ。


 そこで、実の父親も、今から二年ほど前にこの教育を止めようとした。


 しかし、その時、わたしの担当の女教師ソフィリディ先生が、


「ルデナティーヌ様は優秀でございます。わたしが今まで担当した中でも、五本の指に入るほどでございます。今、この教育を止めるのは、この侯爵家だけでなく、この王国全体の損失になります。どうか考えなおしてくださいませ」


 と強く言ってくれたので、やむなく実の父親はつい最近までわたしがこの教育を受けるのを認めていたのだ。


 もし、その時点で教育を止められていたら、中途半端な形の領地経営の知識しか持つことができなかったと思う。


 その場合、わたしはジナーノリックス男爵家からの養子の話もこなかったかもしれない。


 わたしを養子に迎い入れた大きな理由として、領地経営の教育を受けていたことをジナーノリックス男爵家ではあげていたからだ。


 わたしに教育をしてくれたソフィリディ先生との別れのあいさつもすることはでききなかった。


 わたしが婚約破棄されて以降、ブルトール侯爵家の屋敷に来ることを止められたからだ。


 あいさつができなかったことは残念で仕方がない。


 わたしはソフィリディ先生に手紙を書いて、感謝の念を伝えた。


 すると、ソフィリディ先生は、


「ルデナティーヌ様ならば、きっといい領地経営をされることでしょう。いつまでも元気で」


 と返信してくれた。


 ソフィリディ先生は、他の家で教師を続けている。


 元気そうで安心した。


 わたしは改めてソフィリディ先生に感謝した。

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