婚約破棄されたわたしは、新たな人生を始めていく。婚約破棄した方はみじめな状態。そして、わたしは強引で傲慢な態度をとる殿下に溺愛されていく。

のんびりとゆっくり

第1話 寝取られて、婚約を破棄されたわたし

 わたしはルデナティーヌ。金髪碧眼。ボドルノール王国のブルトール侯爵家令嬢。


 リックステール侯爵家令息のレノーシャルド様と婚約していたのだけれど……。


 冬十二月のある日。


 リックステール侯爵家の屋敷に呼び出されたわたしは、レノーシャルド様により、


「ルデナティーヌとの婚約を破棄する!」


 と宣言されてしまったのだ。


 レノーシャルド様の隣には、仲睦まじく寄り添う女性。


 レノーシャルド様は続けて、


「わたしはボドルテール公爵家令嬢ジゼディと婚約する!」


 と宣言した。


 わたしに対して、あざけるように笑うジゼディさん。


 そう。


 わたしはこのジゼディという女性に、婚約者だったレノーシャルド様を寝取られてしまったのだ……。


 わたしは悲嘆にくれた。




 自分の屋敷に帰ってきたわたしは、涙を流し続けた。


 婚約破棄をされただけでもつらいのに、婚約者を寝取られてしまっていたのだ。


 普通だったら、こういう場合、両親が慰めてくれるものだろう。


 しかし、わたしの実の母親は、わたしが五歳の時にこの世を去っていた。


 継母は、この家に来てからわたしのことを嫌っていて、自分に娘が生まれると、さらにわたしのことを嫌うようになった。


 侯爵家当主である実の父親も、継母に影響されて、わたしのことが嫌いになっていった。


 それだけではなく、異母妹までもが継母に影響され、わたしのことを嫌いになっていて、家族の中では四面楚歌とも言える状況だった。


 そして、継母と異母妹は、わたしのことをイジメる。


 継母の言いなりになってしまった父親は、それを止めるどころか、


「ルデナティーヌが二人にイジメられてしまうのは当然のこと」


 という立場を取るようになってしまった。


 そうした状況の中、わたしが婚約を破棄されてきたので、


「ブルトール侯爵家の恥」


 とされ、この家から追放されることが決まった。


 わたしはこの家の屋敷でずっと暮らしてきた。


 世の中のことをほとんどと言っていいほど知らないので、追放されてしまったら、生きていくことは難しい。


 生命の危機が訪れたと言ってよかった。


 絶体絶命!


 そして何のあてもなく、追放されようとした時……。


 わたしを救けてくれる人たちが現れた。


 わたしの父の遠縁にあたるジナーノリックス男爵家が、わたしを養子にしたいと申し出てきたのだ。


 わたしの実の両親は、わたしを養子にしたいという家を、縁者の家を中心に募っていた。


 さすがに行くところがない人間を、そのまま家から追放するということは、体面上できなかったのだろう。


 とはいっても形式的なものでしかなく、やる気があるは言えなかった。


 そういった家が現れなくても、


「自分たちはやるだけのことをした」


 という大義名分が立つので、家から追放するのは容易になると両親は思っていたのだ。


 そして、わたしを養子にしたいという家が現れない確率は極めて高いと思っていた。


 そういう状況だったので、ジナーノリックス男爵家がわたしを養子にしたいと申し出てきたことを知った時は、夢ではないかと思ったほどだ。


 ただ、このジナーノリックス男爵家は、ボドルノール王国の所属ではなく、ここから離れた国であるギュールボファテール王国の所属。


 したがって、わたしはこの王国を去ることになる。


 ボドルノール王国よりも北に位置するギュールボファテール王国は、冬はより寒くて長く、その他の季節は短い。


 寒さが苦手な方のわたしにはつらい環境であることが想定された。


 また、男爵家の為、今までの侯爵家よりも爵位は低くなる。


 このことも、プライドが高いわたしにとってはつらいことだった。


 しかし、わたしには選択肢はない。




 まもなく新年を迎えようとするある日、ジナーノリックス男爵家からわたしを迎える使者が来た。


 その使者に連れられて、わたしはジナーノリックス男爵家に向かうことになった。


 わたしは特にブルトール侯爵家では嫌われたという印象はなかった、


 しかし、わたしの両親に遠慮したのか、家の屋敷を出る時には、誰もわたしを見送る人たちはいなかった。


 それなりにいい関係を築いていたと思っていた侍女も、見送りはしてくれなかった。


 それが特に残念でならない。


「ああ、どうしてわたしはこんなつらい思いはしなければならないのだろう……」


 わたしは、さすがに悲しくなり、馬車の中で涙をこぼす。


 冷たい雨の降る中、わたしの乗った馬車は、一路ジナーノリックス男爵家の屋敷へと向かうのだった。

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