第27話 切れない関係
その後、古賀の行いは社内で厳しく追及され、厳正な処分が下される予定であったが、その決定前の自宅謹慎中に彼は職を辞していった。
そして誠司と里緒の関係とやらは社内でまことしやかにウワサされることとなっていた。
「黒沢ぁ~。聞いたぞお前、新人の女の子と付き合ってるんだって!?」
社内で帰り支度をしている誠司に向かって同僚男性が声を掛けた。
「いいよなぁ……あの事務の子、めっちゃ可愛いもんなぁ~……どうやって口説いたんだよ?」
誠司は呆れた顔で同僚を一瞥した。
「口説いてないし、付き合ってもいない……噂話が勝手に一人歩きしてるだけさ」
「じゃあなんでこんなにも話題になってるんだ?」
「例の古賀くんが度を越してしつこく付きまとってたからさ、俺の名前を出して断っていいって言ってあったからだと思う」
「なるほどねぇ~……黒沢もやるなぁ」
「ま、古賀くんも退職したし、これで俺の役割も終了かな。あまりウワサを広められると、今度は俺がセクハラでヤバいから遠慮してくれよ?」
「へいへい、わかったよ……面白い話だと思ったんだがなぁ……」
そんな雑談をしているところに里緒が微笑みながら手を上げてやって来る。
「誠司さ~ん、今日ちょっとご飯でも一緒にどうですか~?」
同僚の目はたちまち疑惑の目に変わった。
誠司が里緒に誘われるのは二度や三度ではなかった。それも社内で堂々と誘ってくるから断りにくい。
さらにそれがウワサに拍車を掛けることすら計算済みであるかのような影のある里緒の笑み。そんな里緒に誠司はため息をつくばかりだった。
――俺、一刻も早くイースに戻ってSPを稼ぎたいのになぁ。
そう思いつつ誘いに乗ってしまう誠司であったが、さすがにいつまでも続ける訳にもいかないと最近は牛丼チェーン店などで済ますようにし、遠回しに見限ってもらう作戦にシフトしていた。
牛丼屋のカウンター席に二人並んで座り、誠司は店員に得意げに言った。
「三色チーズ牛丼の特盛温玉付きで」
――どうだ! 世間ではキモがられると話題の注文で幻滅させる作戦は!
「へぇ~。意外と誠司さんてお茶目ぇ~」
――なぬ!?
「オタクっぽい注文でキモくないかな?」
「全っ然? 誠司さんなら平気ですよ~?」
「そ、そう……?」
「逆に、突き放そうとされると燃えるタイプかもしれません、私」
――しかもなんと逆効果!?
「えっと……率直に聞いていいかな?」
誠司は観念して真面目に言った。
「はい! なんでも聞いてくださいね!」
里緒は笑顔で答える。
「……古賀くんの件が片づいた以上、別に俺たちって仲いいふりをする意味はなくない?」
「ん~。でも、別に遠ざける必要もないじゃないですか」
「それはそうだけど」
「私は誠司さんといるのけっこう好きだし、そういうの、あまり気にしなくってもいいんじゃないですか?」
「そんなものかなぁ」
「ほら、私も誠司さんが本当は色々諦めちゃってることは理解してるし、私にあんまり興味もないんだろうな~ってのはわかってるんですけど、案外そういう理解者が近くにいたほうが誠司さんにとってもいいことがあると思うんですよね」
「里緒ちゃんて、たまに現実主義者みたいに言うよなぁ」
「そりゃあ死にたがりの誠司さんに夢物語を語って嫌われたくないですもん」
「……マジで俺、おっさんのくせに新人の女の子になんてこと言わせてんだろうな……」
「なんなら責任取ってもらっても構わないですよ?」
「いや、遠慮しておく」
「誠司さん、とことん普通じゃないなぁ……そんなに私、可愛くないですか……?」
「いや、すごく可愛いとは思うよ?」
「それなのに普通、断るかなぁ……?」
「こちとら色々と都合があるんだよ」
「……ま、でも気が変わったらいつでも言ってくださいね~? 私、待ってますから。いや、待ってるだけじゃないかもですけど」
「はぁ~……これがチーズ牛丼を注文しながらする会話とはなぁ……」
誠司はさらにため息をついたのだった。
そして里緒との夕食を終えてイースのお屋敷に帰宅すれば。
「わ~! 旦那様、おかえりなさいニャ!」
「あ……ニーナだけ旦那様に抱きついてズルいですぅ」
「うふふ。おかえりなさいませ、旦那様」
猫耳の美人メイド親子に飛び付くように迎えられたばかりか。
「やっほ~。お邪魔してま~す」
赤髪のシーフ、エマの姿もあった。
「なんだエマも来ていたのか」
「今日もまた情報持ってきたよ~。ついでにオリビアさんの美味しい夕食にもあやかろうかと……」
「ったくお前は、またガセ情報じゃないだろうな? 最近お前の情報はウソ臭いからな……いい加減テキトーな情報が続くようなら付き合いを切るぞ」
あれから誠司は何度かエマのガセ情報を掴まされていた。
「いやいやいや! ちょっと待ってくださいよダンナ! 今度はホント、今度はホント……」
そう言って慌てた顔で誠司にすり寄るエマ。
信用がまるで表に出ていない誠司の疑いの目。
「今度こそ確実な情報だから……って、あれ? セージあんた……」
そこで何か思い当たったかのように声をひそめて誠司に耳打ちするエマ。
「なんかまた女の匂いがしない?」
――マジでなんでわかるんだエマのやつ……里緒のちゃんの香水か何かか……?
「ねぇセージ? オリビアさんとか、一途にセージの帰りを待ってたんじゃないの……? お夕飯も用意してさぁ……かわいそうだなぁ……」
「ぐ、ぐぅ……。エ、エマさん、それは認めますからこの場は黙っていてくださいますか……」
小声でエマに耳打ちで返す誠司。それを聞いたエマは嬉しそうに笑顔を振りまくのだった。
「うん! 当然だよ~! アタシたち、『仲間』、だもんね~?」
「そ、そうだな……」
「きっとセージとアタシはもう、切っても切れない間柄なんだよ~!」
「く、くそ……」
誠司は顔が歪みそうになりがらも、無理に笑顔を作ろうと必死なのだった。
――なんでだろう。こっちは興味ないって言ってるのに、最近どこに行っても女に懐かれてる気がするんだが……。
誠司の苦難は日に日に増えていくようである。
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