第14話 ギルド
その日も誠司は宝石の森を彷徨っていた。
「SP……SP……」
その様子はSPを求めて彷徨うグールのようである。それもそのはず、宝石の森は冒険者のなかでも初心者が訪れるような森だ。
「駄目だ。エンカウント率が悪くて効率が悪い。貴重なSPを使ってサーチスキルを取得してみたものの、徘徊する魔物の数自体が少ないから倒すのは容易でも探すのがひと苦労だ」
誠司は自分のステータス画面を開いて方針転換を図っていた。
「レベルも若干上がったが、そもそもステータス的には装備補正が圧倒的すぎて、この森ではもう話にならない。それでも戦闘経験が圧倒的に不足しているからゴブリンで慣らしてきた訳だが……そろそろ次の段階に移ってもいいのかも知れない」
誠司はステータス画面を注視しながらも脇から襲い掛かってきたゴブリンを剣の一太刀のもとに斬り伏せ、街の方角に振り返った。
「よし、一度街に戻るか」
クリスタリアの街並みは花と緑に溢れ、風にそよぐ木々の葉が優雅に舞っていた。川のせせらぎが街を包み込み、清らかな空気が心地よく感じられる。
高い塔や華やかな宮殿が空に向かって誇らしげにそびえ立ち、太陽の光を受けてキラキラと輝いていた。
市場では色とりどりの鮮やかな花々や新鮮な果物が並び人々の笑顔が溢れている。
街角では音楽が響き、出店で焼かれた肉料理の小腹を刺激する匂いが漂う活気ある街だ。
もちろん道を一本外せば薄暗い影の落ちる通りもある。そこで暮らす人々の顔つきはガラリと変わり、スネに傷のある者が溜まる場所もあるが、それもまた街の活気の一部だった。
そんな街の明暗の境にその建物は存在した。
「ここが冒険者ギルドか」
そこは古き良き冒険の雰囲気が漂っていた。
建物は大きな木材で作られ、屋根は茅葺きで覆われている。入り口にはギルドの紋章が掲げられ、勇壮な冒険者たちの歴史が刻まれた扉が待ち構える。
「これぞ異世界って感じだな」
中に入ると活気溢れる賑やかな雰囲気が広がってた。
冒険者たちが交流し、任務や依頼について情報交換をしている姿が見受けられる。
――本当はオリビアさんたちに聞けばいいんだろうけど、そうするとすごく悲しげな顔をされるからな……さすがにそういう顔は見たくないし、ひとりでできるようにならなくては。
壁には地図のほかに依頼内容が掲げられ、それぞれ自分たちに合った依頼を探して引き受ける仕組みであることがわかる。
ギルドの中心には受付のカウンターがあり、冒険者たちが依頼を引き受けるための列をなしていた。
「取り敢えず依頼を探すのか? ……それとも冒険者登録みたいのがあるのか?」
誠司は勝手もわからずに取り敢えず受付の列に並んだ。やがて順番が回ってくる。
「お待たせしました。本日のご要件をお伺いします」
対応する受付嬢は優しげな微笑みを持つ美しい女性だった。髪は桃色で、左右にそれぞれ軽やかな輪を作る特徴的な髪型をしていた。
肌は白い花びらのように柔らかく清らかな雰囲気をまとい、制服も彼女の美しさを引き立てるような白を貴重とするデザインだ。
その上品な仕草と相まって周囲の冒険者の視線を集め、その人気ぶりが良くわかる、まさにギルドの象徴とも言える存在だった。
――取り敢えず日本とは違うし、ここでは冒険者風の口調でいこうか。
「強いモンスターと戦うために冒険者になりたいと思って来たんだが勝手がわからない。まずは何をすれば良いだろうか?」
「初めての方ですね。それではまず冒険者登録からお願いします。まずはこちらの申込書に必要事項を記入してください」
「わかった」
誠司は受付嬢から申込書とペンを受け取った。
――文字は書こうと思えば勝手に変換して書いてくれるから便利なもんだよな。
スラスラと必要事項を書いて受付嬢に返す。
「セージ・ブラックさんですね」
――下手に黒沢の姓を名乗ると親父との繋がりを疑われて大変なことになりそうだからな。
「どこか別の町などで登録歴はありますか?」
「いや、本当に初めてだ」
「では実績がありませんのでランクはF級からのスタートとなりますがよろしいですか?」
「ランクには興味がないからな、強いモンスターと戦えればそれでいい」
「残念ですが、強いモンスターとなりますと依頼を受けるのにも相応のランクが必要になりますが……」
「構わない。そこの依頼書に書かれた内容を見て、勝手に出没地点に向かうだけだからな」
誠司はそう言って依頼板のほうを親指で指し示した。
「ですが依頼を受けられないことには報酬をお支払いするうえで問題が……」
「報酬はいらん」
「え? では生活はどのように?」
「冒険者ギルドってのは余計な詮索をするのか?」
「あ、いえ。そうでしたね、失礼いたしました」
受付嬢は申し訳なさげに頭を下げた。
「ですが、その……大変失礼なのは承知なのですが……登録されたばかりの方を引き留めもせずに無謀な挑戦に行かせてしまうのは……」
「なるほど、気を遣わせてしまって申し訳ない。だが、これはあくまで俺が自分の意思で勝手にやることだ、放っておいてほしい」
「ですが……そう仰るからにはそれなりのレベルをお持ちなのですよね?」
「レベル? レベルなら今、15くらいだが」
そこでギルドの中に笑いが起こった。
「聞いたかよ。報酬はいらねぇわ、自分の実力はわかってねぇわ、とんでもねぇ新人が入ってきたもんだなぁオイ」
「言ってやるなよ。まともな防具も持ってないんだ、ありゃ自殺志願者だろ」
――賢いな、ある意味合ってるよ。ま、防具については普段着に見えるだけのチート防具だがな。
「できれば
誠司は嘲笑を気にせず真顔で問う。
ギルド内はさらなる爆笑の渦に飲み込まれる。
「ダァーハッハ! これは強烈な爆笑魔法の使い手がきたもんだ!」
「ひ、ひぃー! 腹をネジ切られちまうぜー!」
誠司はまったく興味を示さず受付嬢に対して言葉を続ける。
「気にしないでほしい。飛竜なら素手でも討伐経験があるんだ」
ギルド内では腹を抱えて床に倒れ込む輩もいるほどだった。
「す、素手で飛竜ときたもんだー!」
「く、苦しいー! 死ぬー!」
誠司はさすがに背後がうるさくてため息をついた。
――なんなら前に仕留めた飛竜の死骸でも出すか? いや、どうせ信じないだろうな。
誠司は笑う連中を一瞥したあと、受付嬢に一礼する。
「……騒がせてすまない。どうやら出直して来たほうが良さそうだな」
「こちらこそ。お役に立てず申し訳ありません」
受付嬢も丁寧に頭を下げていた。
「また来る」
誠司は踵を返してカウンターをあとにする。
「待ちなって兄ちゃん」
しかしこう注目も集めたあとともなれば黙って立ち去ることを憚る連中も存在する。
誠司は三人組の冒険者たちに囲まれた。
「なぁ。その飛竜を素手で倒すって腕を見込んで頼むんだが、ちぃっと俺たちに稽古をつけてもらえないもんかねぇ?」
「モンスターじゃねぇけど、強い俺たちとも戦ってみたいだろう?」
「ま、ここで揉め事も起こせんのでな……ちょっと裏まで付き合ってくれよ」
冒険者たちは完全に誠司を侮っている様子であったが、誠司はその隙に彼らの能力鑑定を済ませていた。
たしかに純粋な身体能力値であれば誠司はその中の誰にも及ばない。だが装備を身に着けた状態であれば話は別だ。
誠司は改めてため息をひとつついた。
――時間がもったいない。
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