第7話 初めてのSP稼ぎ
客間でメイド親子との契約を済ませたあと、誠司は早速SPを稼ぎに出掛けることを考えた。
「オリビアさん、この辺りでSPが稼げそうな魔物が出るポイントをご存知ないですか?」
「SP稼ぎでしたら、祐介様が深淵の底に住むアビスレイジドレイクですとか、死火山の奥に住むヴォルカニックオーガ、永久の闇に住むダークファングレイスなどが効率的と仰っていたかと記憶しておりますが……」
誠司は苦笑いした。
「……できれば、この街の周辺でお願いします」
「申し訳ございません。祐介様は転移魔法を得意とされておりましたので、少し距離感が麻痺しておりました」
「転移魔法ですか。そんな便利な魔法が……って、そういえば俺もここへは魔法陣で来たんでした」
「もちろん魔法陣以外の方法もありますよ。例えば誠司様がお持ちの鍵を用いた方法ですね。その鍵は持ち手の宝石部分が記録媒体になっておりまして、数カ所の転移地点を登録しておくことが可能です。あとは使用時に移動距離に応じた魔力を消費することでいつでも登録した地点に転移することができるようになります」
「便利すぎて魔法陣の意味がないですね」
「たしかに魔法陣による転移魔法は定点を繋ぐのみですが、代わりに転移者に魔力を要求せず、長期間の継続利用に長けているというメリットがありますね」
「なるほど」
「ほかには魔力のみで好きな場所に転移するノレーラなる魔法がありましたが、こちらは祐介様以外に使用できる方を知りません」
「もしかして親父、相当凄かったのか……」
オリビアの目が光る。
「はい! それはもう凄いのひと言ではとてもとても……コホン。失礼いたしました」
「もしかしてオリビアさんも親父のSP稼ぎに同行されたことがあるんですか? もしかして相当お強いとか」
「いえ、そんな。何度か同行させていただきましたが、私など戦闘はメイドの嗜み程度で……まだ幼い娘たちを抱えてでは、普通のドラゴン程度で精一杯でした」
「あ……そうなんですねー」
誠司は聞くのを止めた。
「俺はまだレベルが低いし技術もないから、ゴブリンとか小さなスライムとかを想定していましたよ」
「うふふ。それでしたら街を南に出て、少ししたところにある宝石の森が良いですね。浅いところにはまったく魔物はいませんが、奥のほうへ向かいますと山脈から時折降りてくるゴブリンと遭遇することがあります」
「それはおあつらえ向きですね」
「ええ。新人の冒険者たちが経験を積むために良く向かわれると聞きます」
「では、今日はそこへ行ってみたいと思います」
「はい。……それから、旦那様であれば心配は無用かとは思いますが、もしものことがありましたら大きな声でソフィア、ニーナの名をお呼びくださいませ。本日はちょうど娘たちに宝石の森での素材採取を任せておりますので、万が一のときには加勢に入れるかと存じます」
「わかりました、ありがとうございます」
「では、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
それから誠司は言われたとおりに宝石の森に足を踏み入れた。
森の入り口に立つと日が木々の間から差し込んできて、小鳥たちのさえずりが森の中に響き渡っていた。
湿った土の匂いが漂い、風が葉っぱをそよがせながら、心地よさと森の恵みを餌として、来る者を奥へ奥へと誘うようであった。
道は狭く、まだあまり足跡のついていない草むらに覆われている。そこを進めば、やがて枝や葉っぱが道を覆うようになり、太陽の光が森の中で遊び始めた。
奥深くへ進むにつれて森は少しずつ暗くなり、密集した木々が視界を遮りだす。気づけばまだ夜の残り香が漂うような暗がりへと踏み込んでいるが、時としてはまだ日の光を感じる頃だ。
「教えてもらったとおり森の入り口は穏やかで心地いい場所だったが、この辺りから空気が変わった感じがする」
誠司は周囲への警戒を強めて奥へと進んだ。するとさらに奥のほうから森の中に似つかわしくない金属音が風に乗って響き始める。
――なんだこの音、誰かが戦っているのか?
誠司は息を潜め、音を殺して木々に姿を隠しながら金属音のするほうへと向かった。
するとそこで戦っていたのは。
――ソフィアとニーナだ。
相対する魔物は一見して本に記載されていたゴブリンに見えるが、泥に塗れているのか全身がやけに黒ずんで見える印象だった。
戦況は2対1。
ニーナが目まぐるしく戦場を駆け回ってゴブリンに斬りかかり、ゴブリンをその場に釘付けにする。その間にソフィアが杖を構えて魔法の詠唱をしている。息のあったコンビネーションだ。
「ニーナ!」
「オッケー!」
ソフィアの合図でニーナがゴブリンから距離を取る。
「アクアスプラッシュ!」
ソフィアの放った水魔法はゴブリンに直撃し、その身体を吹き飛ばして木の幹に打ちつけた。
「やったニャ!」
すかさずニーナがガッツポーズを取るも、倒れたゴブリンは再び起き上がろうと身体を震わせながら起こし始めた。
「ニャニャッ!?」
「うそ……信じられない……このゴブリン、頑丈すぎる」
ニーナは驚き、ソフィアは一歩あとずさった。
その間にゴブリンは完全に立ち上がるも、姿勢の制御もままならず少しふらついてその背を木にもたれかけた。
「こなくそ~っ!」
その一瞬の隙にニーナは一気に距離を詰め、剣を一振りしてゴブリンの首を跳ね飛ばした。
「どうだぁ!」
流石に頭を失ってはこと絶えたか、ゴブリンの胴体はそのまま地にずり落ちて倒れたのだった。
――凄い戦闘だったな。勉強になる。
誠司はそこでようやく息を止めて戦闘に魅入っていたことに気づいた。
――おっと、隠れているのも変だな。ふたりにひと声かけておこう。
そう思って木の影から姿を出した誠司は心臓が止まるような思いに襲われた。
「ニーナ! 後ろっ!」
ソフィアの叫びと、ニーナの背後に立ち上がった影が誠司に混乱をもたらす。
――ありえない!
首のないゴブリンが立ち上がり、背後を見せたニーナに剣をを振り被っていたのだ。
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