第15話 裏切り聖女の置き土産
汚物を取り込んだムーノは全身から力を漲らせてイキっていたので向かってくるかと思ったら空中に浮遊してそのまま処刑場からの逃走を図った。あ、こら逃げるなこのゴミ野郎!!即座に俺と師匠が跳躍しておいかける。
「うおおおおっ、こんなところで死ぬわけにはいかないのじぇっ!俺にはエレノーラを助けて栄光と祝福の中で結ばれる未来がまっているのじぇええええっ!!待ってろエレノーラ、すぐに助けてやるのじぇぇぇぇぇっ!!そして激しく愛し合うのじぇえええっ!じぇあああああっ!!」
「うるせーっ!さっさと死ねバカ!!」
向かってくるかと思いきや躊躇なく逃げをうったのはエレノーラのためか。へぇ、そういう判断もできるんだな、いい台詞だ、感動的だなぁ。だが無意味なので死んでね、すぐでいいよ!
すかさず師匠と一緒に追撃を仕掛けるが、ムーノは真っすぐに暴走ゴーレムの方に向かっている。そいつらを俺達にぶつけて逃げようとする当たり賢しいけれど呆れるほどに有効な戦術だぜ全く!どのみちゴーレムの群れは破壊しないと逃げる観客たちにも被害が出るので、すべて破壊する以外に選択肢はない。やぁってやるぜ!
「ええい、こざかしいやつらめ!」
師匠が手近なゴーレムの身体を走って駆け上がり、頭部に掌底を当てて粉みじんに吹き飛ばせば、頭を失ったゴーレムが崩れ落ちた。さっきはせき込んでいたりしたので大丈夫かなと心配もしたけれど杞憂だったようだ、相変わらずの動きとキレ、やっぱり人間辞めてる御仁だなぁ。
「ゆくぞぉ、攻撃開始ィ!」
「はいっ!……おりゃぁぁぁぁっ!」
師匠に倣ってゴーレムに突貫し、胴体に闘気噴射を籠めたパンチをお見舞いするとゴーレムが爆散した。
さらにどさくさにまぎれて森から雪崩れて来た魔物達を、自慢の手刀―――“山羊手刀(ゴートチョップ)”でスパスパと切り捨ててやる。闘気噴射と手刀の合わせ技で消耗を抑えながら蹴散らしていくが、一体一体は魔物も簡単に倒せるけれど、処刑場を囲む森の奥からまだまだゴーレムがわいてきて数十体はいる。何機の敵が居るんだよぉ?!
「くそっ、なんでこんなにゴーレムが?!キリがない!」
「トール!一体一体に構っていてもしょうがない。……うぅむ、あれをやるか!!」
丁度一直線に固まってこちらに向かってくるゴーレムと師匠の言葉にピンときた俺は、大きく頷く。
「はいっ!!」
師匠が俺の前に移動してきたので、、俺が後ろにつけるように位置取りを取る。
「衝撃ツ!」
「魔将ッ!」
「「蹂躙弾ーッ!!」」
俺と師匠で交互に掛け合いながら、叫んだ技の何に合わせて師匠が闘気を解放して球状の弾丸のような形態をとる。その先端からは師匠の顔が出ており、振り向きながら俺に声をかけてきた。一見するとシュールだけどれっきとした流派・衝撃拳“衝撃魔将蹂躙弾”という必殺の技だよ本当だよ!
「よぅしっ、撃ていッ、トール!!」
「往きます!ハァーッ!!」
弾丸となった師匠の指示に従い。押し出すようにして射撃すると衝撃波を産みながら師匠(弾丸のすがた)が魔物の群れを蹂躙していく。
「ぬぅん、でやぁぁぁーっ!!」
そんな師匠の雄たけびと共に弾丸に触れたゴーレムや魔物だけでなく、近づいたゴーレムの身体さえも魔物の群れがバラバラに吹き飛んでいく。これが高濃度に圧縮された闘気の衝撃の威力である。
「掠めただけで?!」
あまりにも頭の可笑しい威力に逃走中のムーノが振り返って驚愕の表情を浮かべているが、撃ちだす威力が足りなかったのでムーノの所までは届かなかったようで残念。舞籠めればあいつも一緒に爆殺できたんだけどなぁ~。
「―――爆散ッ!!」
と、そんな思考を巡らせていた俺を師匠の声が現実へ引き戻す。
最後尾のゴーレムまでをも貫いた師匠が弾丸形態を解除し、空中で構えを取る師匠の声に合わせてゴーレム達が次々と爆発していった。
「ゆんやぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
蹂躙弾の距離こそ届かなかったけれど爆発のモロ余波を受けたムーノが墜落してきたので、その隙を逃がさず追いついて攻撃の射程に捕らえた。よし、念仏唱えていいぞ!逝っていいよ!
「老いたとてこの不敗将軍、これしきの雑魚に後れをとる者ではない!数を集めたところでワシに届くと思うたかっ!」
「な、なんだおまえらぁ?!化け物めぇっ!」
規格外の超戦闘力に(ムーノの怯える声)ってテロップが出てそう。へいへいムーノビビッてるー?
「く、くそっ!今はお前らに構ってる場合じゃねぇってのに!見逃してやろうと思ったのにおいかけてくるとは、お前らを殺さなきゃいけなくなっただろこのバカめがぁーっ!」
ムーノがいつぞや見せた螺旋を描くように収束させた魔力を飛ばしてきた。剣先に纏わせるだけでなく飛ばすこともできるのか、あるいは強化されたことで出来るようになったのかな?流石にまともにくらうと大ダメージを受けるので回避しつつ、闘気を噴射しかえす。
「ギャアアアアアアアア?!痛いのじぇえええええええええええええっ?!?!」
防御力自体は強化されていないのか、闘気噴射で右半身が消し飛ぶムーノ。瞬殺、ヨシッ!と片足を挙げながら指さし確認して死亡確認をしたのでこれはもう死んだね、間違いない。……と思ったら半分になったムーノの身体が凄い勢いで修復していく。死亡確認すると生きてるのなんでなんだよ?!チクショーッ!
「お、おおおおおっ!これはしゅごいのじぇえええっ!傷があっという間に治る!!俺は不死身で無敵になったのぜっ?!」
感動に打ち震えているが、あの能力には心当たりがある。聖女の超回復魔法か……!俺自身も前世ではあの魔法に助けられたが、喪われた魔力や闘気までは復活せず身体だけしか再生しないので弱体化する筈だが、ムーノの様子を伺う限りどうやらそういうわけでもなさそうだ。ノーリスクで即座に全回復するのかぁ、聖女の困った置き土産じゃねぇか!!
「死なないとか最強っ!すぎるのじぇええええっ!無敵のムーノ様に怖いものは無いのじぇ!これならお前達を一方的に嬲り殺しにすることもできるのじぇっ!覚悟するのじぇええええええええっ!!」
有頂天でイキりまくっているムーノをみながらどうやって地獄送りにするか悩んでいると、師匠が話しかけてくる。
「ふむ。トールよ、あの回復力は厄介だぞ。ワシの衝撃波やお前の闘気噴射で瞬間的に吹き飛ばしてもすぐに再生されてしまう。……であれば、最終奥義を使うしかあるまい。トールよ、よく見ておくのだ!」
そんな言葉の後に、師匠が胸の高さに両掌を持ち上げ胸の位置で球体を抱えるような構えを取った。そして胸の前に衝撃波を発生させながら闘気で練り込み、圧縮して衝撃の弾丸を作りあげる。
「これが流派衝撃拳・最終奥義―――戦輝絶衝拳(せんきぜっしょうけん)!!」
身体をひねりながら溜めてから掌を正面に突き出すようにして弾丸を撃ちだした。衝撃を纏って俺自身が弾丸になることだとする蹂躙弾と違い、蹂躙弾以上の衝撃波を砲丸サイズにまで圧縮して撃ちだしているので威力はケタ違いだろう。
撃ちだされた衝撃弾は真っすぐ飛んでいき、慢心するムーノを吹き飛ばす―――かと思いきや、その狙いはわずかに下にそれていた。
「ゴホッ、ゴホッ、ぐぅっ、こんな時に……!!」
……最終奥義を繰り出したその瞬間、師匠がせき込んだため不発になったようだ。そのせいで未完成の衝撃弾がそれて、ムーノの下半身を吹き飛ばすにとどまったのだ。
「じぇあああああ?!下半身がなーいなーいじゅええええ?!ゆわわぁっ、こ、ここは戦略的撤退なのじぇえええええ!」
下半身を消し飛ばされたムーノが吹き飛ばされながら痛みに号泣しながらそのまま逃げの一手を取った。追いかけるか迷ったけれど師匠のせき込む様子がちょっとおかしいので、その身体を支えるとその間にムーノは遠くへと飛んでいった。クソッ、みすみす逃がしたけど……あいつの狙いはエレノーラなら監獄か、始末はそこでつけるしかないな
「……師匠、まさかお身体が?」
「この身体さえ病に侵されておらねば……それが悔しいわ!」
ゴホゴホとせき込みながら悔しそうに呻く師匠の身体を支えながら、宣言をするように告げる。
「大丈夫です師匠、始末は俺がきっちりつけます。どうせエレノーラの所に現れますから、流派衝撃拳・最終奥義“戦輝絶衝拳”で、俺があのゴミカスを処分しますよ」
待ってろムーノ、師匠に代わって―――爆殺(おしおき)よ!!
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