第14話 その名は不敗将軍!マスター・クロス見参


 馬車にゆられて10日程、中央都市へも近づき実家からの旅も終わりに近づいてきた。

 貴族学園があるこの中央都市へは数年間通っていたので、1年もたたずのとんぼ返りだけれど懐かしい気持ちになりながら馬車の窓から外を見ていると、馬車の街道沿いにある今は無人となった廃墟都市で別の馬車が襲われている模様。

 ワァッ、これは放っておけない助けにいくぞ女神ィ!と隣に座る女神をみれば酒瓶握りしめたまま座席で横になっていびきかいて寝ていた。こいつ危機感ないというか色々舐めてるよなぁと思いつつも寝てる女神はこのまま馬車に放置することにして、とりあえず馬車から飛び降りてダッシュ。足の裏から闘気を噴射しての高速移動でスイーッと襲われている馬車の方へと向かった。


 廃墟の中に入り近づいてみると、人を模した住宅ほどの背丈はある大きさのストーンゴーレムが2体、暴走して馬車を襲っている。厄介な事に耐物理魔法が施されているようなので必殺の“山羊手刀(ゴートチョップ)”でスパスパ切るのはどうも時間がかかりそう。こうなったら闘気の噴出で吹き飛ばすかー。

 よし、いっちょやるぞうと拳に闘気を籠めて噴射する構えを取ったところで、低くて渋いとってもダンディな紳士の声が聞こえたので動きを止める。


「待てェい!廃墟とはいえこんな場所でむやみやたらに闘気を噴射するでない!そこでみておれ!」


 そんな声に制止され、声のする方向を見ると外套を纏った何者かが廃墟の角の上に立ち俺を見下ろしていた。うむ、高いところの角にたって見下ろすとかっこよさ割増でみえるのなんなんだろうね?


「ンぬぁぁぁぁぁぁぁッ、でやぁっ!!」


 その外套の人物は叫びながら跳躍し、ゴーレムの頭部に向かって飛び蹴りを与えてその頭部を粉砕した。

 もう一体のストーンゴーレムが廃墟の瓦礫を手で拾い上げ、外套の人影に向かって投擲するがその人物は飛来した瓦礫を手で受け止め、それを抱えたまま残像も残らぬような高速移動でゴーレムの周囲を走り回り攪乱した後で投げ返す。死角から瓦礫の剛速球をモロに受けたゴーレムの胴体に大穴が開く。


「フンッ!はぁぁぁぁぁぁっ!」


 崩れ落ちるゴーレムの残骸を背後に、拳法の構えをとる外套の人物。いやー、どう考えても普通の人間の動きではありませんね!っていうか俺はあの人を知っている気がするぞう。


「あ、貴方は……不敗将軍!!」


 俺が叫んでる間にその人物の姿が消え、その場には外套だけが宙を舞っていた。あれ、どこだろうとキョロキョロと視線を動かすと廃墟の中でもひときわ高い教会の鐘楼の天辺に腕を組みながら立つ初老の男が居た。


「何処を見ておる。ワシはここだ!」


修道士や武僧が切るような薄紫色をしたどこか中華風味を感じる胴着姿に、オールバックでととのえられた襟足で束ねられた白髪。……息子のジルクと同じ髪型なのでもしかしたらおしゃれポイントなのかもしれない。

 あの人はジルクの父であり、大陸全土の猛者が集まる武道大会を連覇し続け、不敗将軍として尊敬を集めた稀代の傑物クロス将軍だ!すでに50代を迎えようとしている筈だがその身体は遠目に見てもわかるほど鍛えられており、若者と変わらないようにみえる。そして何より俺にとって流派・衝撃拳を教え鍛えてくれた師匠、武道家マスター・クロスでもある。


「師匠!!」


「久しいなトール。応えい!」


 そんな師匠の声に応えて流派・衝撃拳の名乗りを上げて師匠と拳をぶつけて挨拶をしてから、何でこんな所に師匠が居るのかと聞いてみる。みたところ1人でいるみたいだけど仮にも将軍位にいる御方がこんな所をウロウロするのってよくないと思うけどなぁ。


「フッ、ジルクからお前が妙な事に巻き込まれていると聞いてな。お前が修行を怠けていないかこの目で確かめに来たのよ。その様子だとどうやら日々の鍛錬は怠ってはおらぬようだな」


 あっぶねー、日々体を鍛えることはサボらず続けていてよかった。生まれ変わった今の人生で、闘気の噴射を使った拳法についてだけではなく武道家としての心構えや人としての在り方についても教えてもらった恩人でもあるので素直に感謝と尊敬をしているのよ。


「はい、おかげさまで。師匠こそ壮健そうで何よりです。ですが将軍でもある師匠がこんな所に供も連れずに出歩いてよいのですか?」


「フッ、ワシ見くびる出ないわ。それとな、将軍の位と家督はジルクに引き継がせた。今のワシは一人の武芸者にすぎんわ」


 あ、そうなんだー、正式にクロス家は代替わりしたのね、そうかジルクが将軍かぁ。まぁ何でもできるし頭良くて強い天然産のチートスペックだから将軍位についてもなんやかんや、そつなくこなしそう。


「こうしてここでお前を待っていたのは、お前を罠に嵌めようとしたムーノが処刑されるのを教えてやろうと思ってな。先ほどゴーレムに襲われていた馬車がムーノの護送車なのだ。

 処刑場は此処から近い、最期を見届けてやるのもまたお前の役目ではないのか?」


 そんな師匠の提案に、そうかムーノの首がボディにバイバイする時が来たのかー、あばよムーノ達者でな程度の感情が湧く。別に同情はしないけどね?まぁ斬ネックされるなら最後ぐらいみてやるかと、師匠に同行して処刑場に向かうすることにする。

 馬車に戻ってみてみれば女神は酒瓶を抱えて爆睡したままなのでコイツはもう放っておこう。……まったく、糞の蓋にもならん女神だな!!


 馬車は御者に任せて安全第一で処刑場に来てもらうように指示をして、師匠と共に徒歩の高速移動で護送車と並走しながら話に花を咲かせながら、ムーノの護送馬車を処刑場へと送り届けた。通常の馬車よりも早い護送馬車だけどそれより俺や師匠が自分の足で走る方がもっと早いのでペースを合わせるのも一苦労。

 道中師匠がゴホゴホと咳き込むことがあったけと風邪気味らしいので、無理せず安静にして欲しいところ。


 いざ処刑場についてみると人で一杯だったけれど、これは悪人の処刑は見世物にもなっているからである。

 この場合の観客は、今回はゴクドーの被害に遭ったものばかり。

 被害者や遺族たちの溜飲を下げるためにみせしめにするのである。

 護送車から降ろされたムーノは焦点が定まらず、よくわあからないことをブツブツといいながら繋がれた鎖で引きずられながら処刑場の中央へと運ばれて行く。


「俺は世界の王っ!になる存在なのじぇぇ、皆俺にひれ伏すのじぇぇ~。俺のエレノーラはどこにいるのぜ?エレノーラどこなのぜ~??」


 そんなわけのわからない事を幼児みたいなしたったらずな口調で喋るムーノはもう完全に廃人という様子で、あまりにも哀れすぎる有様にさっさと首を刎ねてやった方が慈悲深そう。

 拷問官に入念に拷問うけてブッ壊されたのが見て取れる、おぉこわいこわい。

 まぁ悪人の末路なんてそんなもんだ、悪い事する奴には罰が当たる、人間真面目にコツコツ生きるのが大事なんだよね。


「や、やめろぉぉぉっ!はなせっ、はなすのじぇえええっ!こんな事を赦されるとおもっているのかぜぇぇぇぇっ?はなしてねっ、やめてねっ、じぇああああああああああっ?!」


 罵声と罵詈雑言の飛び交う中をひきずられたムーノが処刑台にセットされ、自分の首が落とされようとしていることを理解したムーノが必死に命乞いを始めた。

 だがそんな情けない叫びは無視され、首切り役人のお姉さんが身に着けた鈴の音が鳴り、刃を落とす呪文ギーロウ・テインを唱えようとした時だった。処刑場の中央付近に、大地から汚泥のようなものが間欠泉のように噴き出した。臭い!キモい!!これはエレノーラの館に行ったときのやーつー!


「あっ!あれは例の淀んだやつ!なんであれがこんな所に?!」


「何?!するとあれがジルクから伝え聞いた負の穢れというやつか!!」


 俺の言葉に師匠が険しい顔を浮かべる。うっわ、マジかよ!!!女神、女神は……まだ馬車辿り着いてないよなーそういえばー!!俺と師匠だけ先についてるんだよ。肝心な時にいねーなあのポンコツウウウウウウ!!!!あとここでアレが湧いてきたって事はターゲットって今まさに首を落とされようとしているカスしかいないじゃんね。


「首切り役人、その汚泥をムーノに近づけさせるな!!はやくそいつの首を叩き落せー!!」


 俺の声を聴いたのか、首切り役人が慌てて首を刎ねようとするが一足遅かった。


「ギャボボボボボボくっせ、マジくっせ、げぼぼぼぼぼるああああああ!!!!は、なんだこれえええええええっ!!ごぼおっ、ちからがわきでりゅうううううう!!漲る勇気、溢れる希望!!俺様ムテキュアーッ!パワーッ!!!!ヒャッハーッ!!」


 いつぞやのエレノーラと同じように、汚物の中に取り込まれ汚物団子のようになるムーノ。そしてその汚物がムーノの口の中に入っていき、ムーノに吸収されていき、やがて全てを飲み込んだムーノがイキってなんかわめきちらしてるけどムーノがパワーアップした模様。

 しかも処刑場の周囲が騒がしいなと思ったら、兵士たちの言葉からどうやら暴走したストーンゴーレムの集団がこちらに向かってきているらしい。


「いかんな。お前達はすぐさま観客を非難させい」


 師匠がテキパキと手近にいた兵士たちに指示を出し、上着を脱ぎ捨て胴着姿になる。


「往くぞトール。あんなものを捨て置くわけにはいかん。外の魔物共とあの罪人をなんとかせねばな」


 そう言って俺に声をかけた後、迷うことなく先を歩く師匠の背に、―――50数年前に何度も拳を交えた好敵手の姿が重なった。


「―――はい、不肖ヘクトールお供させていただきます!!」


 うん、よく考えたらゴーレムが何体何十体いてムーノがパワーアップしてもこの人が居るし俺もいるので割と普通に余裕だよな、一瞬焦ったけど師匠が居るし全然大丈夫でしょ。むしろ久しぶりに師匠の闘う姿が見えてお得まであるな!!!!ヨシッ!!!ムーノ君は汚物でパワーアップしてウキウキっぽいけど、君の前にはラスボスが2人いるよ、大丈夫??君、本当に俺たちに勝てる??

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