第13話 閑話:リィヨの日記~トールパーティーに増援おかわり~
私の名前はリィヨ。世界を見守る女神様の補佐として、日々そのお仕事をお手伝いしている女神見習いです。
生前はとある世界の平凡な村娘だったのですが、死後に私の死を不憫に思った転生の神様の計らいで世界を見守る女神様の補佐として、世界を見守るそのお手伝いをさせていただいています。
女神様の部屋で、朝起きたらご飯を食べて、世界を管理するお仕事をして、お昼ご飯を食べて、お仕事をして、午後のティータイムには集まってお茶会をして、夕方までお仕事をして、ご飯を食べて、寝る。そんな毎日です。
女神様は失敗が多い方なのですが、村娘だった私にもいつも優しい方です。書類仕事や事務的な処理でよくミスをされるので、またミスですかと目で訴えかけるときちんと失敗をなおそうとしてくれるので偉いと思います。
転生を司る神様のジェーン様は、女神様の失敗を叱責しながらも気にかけているとてもしっかりした方です。ジェーン様の従者のジョンさんは、私にも優しくて日々のご飯の準備や毎日ティータイムになるとお菓子をだしてくれたりします。
私も生前は、弟や妹たちにご飯を作っていたのでジョンさんのお手伝いをさせてもらおうと何度もお願いしましたが、ジョンさんは子どもは食べる方が仕事と中々お手伝いをさせて頂けません。でも、大きくなったらジョンさんのお手伝いもしたいです!
……ですが今は、女神様がご不在なので私一人で女神様のお仕事をさせていただいています。
毎日量が多くて大変ですが、仕事の合間にジェーン様やジョンさんが手伝ってくださいます。でも、申し訳ないので早く自分一人で出来るようになりたいなと思います。
なぜ女神様がご不在なのかというと、女神様の管理する世界の中で生前に私が暮らしていた世界で、トラブルが起きてしまったからです。女神様はこの世界で2度ほど問題を起こしてしまっていて、そして今回のトラブルで3度目なのでジェーン様が怒って、女神様を世界に落っことされたのです。……お尻を蹴られて泣きながら世界に墜落していく女神様にはびっくりしてしまいました。
私は日々、女神様の仕事を代行しながら、ジェーン様に言われて女神様の同行をチェックしています。
でも世界に落ちた女神様はトラブルの解決をせず、何か、どこかをめざして一直線に進んでいました。なんだかおかしいなぁと思っていると、女神様はヘクトールさん―――前世で世界を救った勇者の仲間、そして私の憧れの人のトールさんの生まれ変わった姿のところに向かって行っていたのです!
最初から自分で何とかすることを放棄して、トールさんのところに向かっていたなんて、びっくりしました。丁度私の様子を見に来たジェーン様もその様子を見て、頭を抱えていました。ジョンさんだけはやれやれと首を振っていました。
「三つ子の魂百までといいますが、あの女神は徹頭徹尾人に頼り助けてもらう事に特化していますね。呆れればよいのか、褒めればよいのか」
「言わないで、あの子は昔からそうなのよ……まさか最初から助けてくれそうなトールに一直線とは迂闊だったわ」
ジェーン様もジョンさんも、たどり着いたトールさんの元で泣きわめいたりコメツキバッタみたいに土下座する女神様の様子をみながらため息を零していましたが……ヘクトールさん、もといトールさんはそんな女神様にため息をついたり怒ったり文句を言いながらも、やっぱり手伝いを承諾していました。……不謹慎かもしれないけれども、トールさんは生まれ変わってもトールさんで、変わらないなぁという事に少しだけ笑みが零れて、なんだかあったかい気持ちになります。
私の前世は、ただの村娘でしかなかった私を助けてくれたトールさんに憧れて、その手伝いがしたいという気持ちを悪い人たちに利用されて命を落としてしまいました。
生まれ変わった後のトールさんも、前世と同じようにあいかわらず面白くて時々お調子者で、でも面倒見が良くて人を放っておけないみたいです。姿は少し変わっても、変わらないその在り方をみていると、なんだかドキドキします。
そんな風に思っている間も、ジェーン様とジョンさんは2人で思案顔を浮かべながらこの後の事を話していました。
「しかしあのポンコツ女神は本当にどうしようもないですね、他力本願というか人に寄生することに特化しすぎている」
「そうね。……でもアレでもあの子は女神の中でもかなりまともな方なのよ。
他の女神はもうちょっとアクが強くて……お気に入りの勇者が謀殺されたら世界を吹き飛ばしてリセットしようとしたりとか、そういうエゴ全開の子ばかりでそんな女神たち比べたらあの子はまだ良心的というか有情な方だから」
苦虫をかみつぶしたようなジェーン様の言葉に、ジョンさんが額に手を当ててやれやれと首を振っています。
「女神ロクなのがいませんね!ですが、これでは折角お嬢様が今回の人生は躓くことが無いように万全の布陣で固めたトール君の転生人生が滅茶苦茶にされてしまいますよ」
「そうなのよねぇぇぇ、アアアアもうあの子ってば!!
何度も何度もぉ、どうせ魔法無効だし女神の守りもあってそう簡単に死なないんだから痛い思いしてでも自分で何とかしなさいっての!!これじゃ折角充実した平和なトールさんの人生が台無しだわ!!」
キーッ!!と頭を抱えてジェーン様が叫んでいます。いつも穏やかで優雅なジェーンお嬢様にしては珍しいご様子です。
「ふむ。ちなみにお嬢様の見立てで現状の人員配置で問題は何とかなりそうですか??トール君に命の危険はありませんか?」
「一応、縁深かった子は何人か近くに配置しているし99%は大丈夫だと思うけれど」
「――――つまり1%の確率で命を落とすという訳ですか」
ジョンさんのそんな言葉に、ジェーンさんが息を呑む音が聞こえました。
「……この世界に完璧は無いわ。だからどうしても……100%とは……」
「そうですか。でもシュミレーションRPGで必中使ってない命中率99%は数字以上に外れる事がありますしトレーニングの失敗確率1%はしれっと失敗したりしますよ?なので私で補って100%というのはいかがでしょうか、勇気で補えば100%といいますし」
「えっ、貴方が増援に行ってくれるの?!」
驚く様子のジェーン様に、優雅な一礼で返すジョンさん。……えっ?!ジョンさんそんな事も出来るんですか。
「元大英雄にその縁者、あとはもう少し前世の関係者が合流できたとして異世界転生管理人、一応女神の回復もあるって僕の考えた最強のパーティみたいね。……でも私たちみたいな天上の存在が安易に顕現してもいいのかしら?」
「慢心して失敗をする可能性を残す位なら過剰戦力で挑む方が良いと思いますが。あと、私が顕現したことで後々ペナルティが発生する場合は女神がトール君に助けを求めたことが原因なので、全て女神自身に背負っていただくつもりですよ、何か問題でも?」
そんなジョンさんの言葉に、うーんうーんと唸っていたジェーン様が、ゆっくり、深く頷きます。
「……そう、それなら問題ないわね!!ジョン、お願い出来るかしら?貴方が行ってくれるなら安心だわ。
最優先はトールさんを死なせない事、業腹だけど女神の後始末の手伝いもすることになるけど」
「私としても彼には今世の人生を出来る限り平穏に暮らしてほしいですからね。女神の後始末を手伝わざるを得ない事については仕方ありません。トール君に助けを求めに行ったあの駄目な女神の作戦勝ちです、本人は意識してないでしょうけどね」
そういってジョンさんはどこから取り出したのか、右横にいくつかの札のようなものが入ったいれものがついまついる腰巻のようなものを巻いています。あれがジョンさんの装備なのでしょうか?剣や盾、杖といった武器はお持ちではないようです。
「それでは行ってまいりますお嬢様、リィヨさん」
そういってジェーン様が開いた異世界行のゲートをくぐりトールさんたちの世界へ向かったジョンさんの背中を見送り、行ってらっしゃい、気を付けてくださいと声を駆けます。
……少しだけ、トールさんの所にいって傍にいれるジョンさんの事を羨ましく思いながら。いいなぁ。
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