第12話 幼馴染家が無事滅びたようです

 ターセッキが居なくなった後、改めてジルクとシャーリーを部屋に迎え入れて、中断された話の続きをすることにした。


「なぁトール。連行されてきたエレノーラの状態をみたが酷いなんてもんじゃない。なんだあれは?体中から精気がなくなって、水を絞った雑巾みたいな搾りカス、ボロ雑巾みたいになっていた。回復の術をかけてもあの干からびた老婆みたいな状態までしか回復しない、何をどうやったら人間があんな風になるんだ?」


 そのことについては俺もジルクに話そうとしていたので、どこから話そうか思案していたところでノックもせずにポンコツが入ってきた。礼儀とかマナーはこの女神にはないようですよ。


「はー!いい運動したー。ねーねートール暑いんだけどお菓子とかないのー?つめたぁい果実ジュースとか欲しいんだけど出して!はやくしてね、すぐでいいよ!!グズはきらいだよっ!」


 礼儀もマナーもモラルもない謎の女の乱入にジルクがポカーンとしている。おっとジルクが呆けている顔はレアだ、じっくり網膜に焼けつけておくぜ!!


「トール、この子は?お姉さんとかいなかったわよね」


 シャーリーが不思議そうに様子を見ていると、女神がドヤ顔しながら胸を張って勝手に自己紹介を始める。


「よくぞきいてくれました!この私こそがこの世界の窮地に舞い降りた女神ラヴィエルその人よ!!敬ってくれてもいいんだからね?」


 問題の起こしすぎで同僚にケツを蹴り飛ばされて現世に叩き落されたとは思えない態度、ものは言い様かよ。

 ジルクとシャーリーがいつぞやのうちの妹みたいな反応をして、なんともいえない顔でウッツワァ……と困惑の目で見てきた。

 ここで俺が取るべき行動は前回と同じく、可哀想な子を見るような沈痛な表情で首を左右に振るだけの簡単なお仕事です。。すごく便利なのでこういうリアクションすると嘘はついてないまま、皆に女神を自分を女神ラヴィエルだと思い込んでいる可哀想な子と認識してもらえるので便利だ。どうせこの女神の尊厳とかあってないようなものだし勘違いして痛い子扱いでスルーされるならその方が話は早い。


「そ、そうか。俺はジルクハルト、ヘクトールとは学生時代からので旧友だ」


 必要であれば相手が気を遣わなくていいようにさりげなく家名を伏せるあたり、やっぱり出来る男である。


「私はシャーリー、こっちのジルクとは双子の妹なの。よろしくね、ラヴィエル」


 切り替えてにこやかに接するシャーリーは純粋に優しさからか。うんうん、シャーリーはこうだよね。何故か感じる実家のような安心感。

 

「話は聞かせてもらったわ。あの腹黒浮気外道女に宿った負の煮凝りを浄化したのも、この私の聖なる女神の力のおかげなのよ!!そしてあの尻軽女はその力の使い過ぎであんなしおしおのしなびた野菜みたいな姿になったってワケ!」


「なんだって、それは本当かい?」


 割とガチ目に驚いた様子を見せるジルクだけど、思わず『それは女神ラヴィエルってやつの仕業なんだ』ってツッコミをいれたくなる……そもそもこの女神が原因でそう言う事態が起きて、自分で解決してるんだからマッチポンプなんだよなぁ。話がややこしくなるから黙ってるけど。

 そこからは女神が世界に貯まった淀みというかそういうものが発生していて、それは悪意がある人間に取り付いて人のみに過ぎた力を与えるがその反動でああなってしまう、というように説明をはじめた。取り付いた人間に対してはぶっとばすか浄化するかでなんとかなることを大まかに説明する。

 ここで便利なのは女神の頭がデフォルトでポンコツなのでその説明が大分かなりいい加減でスカポンタンな事。肝心の要点がフワフワした物言いなのでジルクをして何言ってるんだコイツという真顔になりながらおおざっぱな物言いから意図をくみ取っている。

 シャーリーも難しい顔をして頷いているけれどこっちは多分わかってませんね。でもシャーリーを巻き込むつもりはないので気にしなくていいのよ、そのままの君でいてね。

 女神の説明が終わると、問題の厄介さにジルクも腕を組みながら天井を見上げて思案している、そらそうよね。


「―――とまぁ、そういう事らしい。俺は成り行きで関わったけれど、この(自称)女神ラヴィエルは本当に浄化の力を持っているので今は客人として遇しながら異変対応に同行して俺が対応しているよ」


「ふーむ、なるほどなぁ。一応帰ったら親父にも報告しておくけれど、放置しておけない由々しき事態じゃないか。流石にお前ひとりに全部を任せるわけにはいかなくないか?俺も手伝うぞ」


「……いや、大軍を動かしてどうにかなるようなものでもないし俺がなんとかするよ。異変をみつけしだい浄化するか吹き飛ばしさえすればいいしな。でもジルクの知恵は借りたくなるかもだから相談するかも」


 そんな俺の頼みにジルクは2つ返事で頷いてくれた、やはり持つべきものは頼りになる友人。それからジルクのすすめで、旧王国のあった跡地でもある中央都市に滞在することを勧められた。異変の浄化で大陸内のどこに移動するにしてもほぼ等しい距離で移動できる大陸の中央都市にいる方がよくないか?との事だった。

 言われてみれば確かにそうかと一週間ほどかけて出立の準備と段取りを整え、女神を連れて中央都市に向かう旅に出ることにした。出立の際では可愛い妹が泣きながら抱き着いて名残惜しむように匂いを嗅いできたので、なぁにすぐ戻ると落ち着かせるまで中々に大変だった。


 中央都市に向かう旅の道中の楽しみは空中から配達される新聞くらいなんだけれど、それを読んでいるとダランソン家の取り潰しが正式に決まった事が描かれていた。

 どうも新聞によると、ダランソン家の領主が、妻と壮絶な魔法戦を始めて領主の館が吹き飛んだらしい。

 妻の不貞行為を糾弾する領主に対して、妻が逆切れして攻撃魔法を連射、館の使用人を巻き込んだ壮絶な魔法戦の末死者重軽傷者多数、そこに追い打ちをかけるようにエレノーラの犯した罪も加算され、お家に存続の価値無しとして家は取り潰されたようだ。ちなみにエレノーラの母であるダランソン夫人の不貞相手も巻き添え食って領地没収、平民へ格下げになったらしい。まぁ不倫はよくないよね、うん。


 そんなターセッキのおっさんはどうもうちを追い返されて家に帰ったその足で奥さんと殺し合いをおっぱじめたらしく、あれだけ俺にはエレノーラを赦せと言っていたのに自分は妻の不貞に即座に殺しにかかるあたりあのおっさんも結構アレな人だったのかもしれないね。まぁエレノーラの親だしな、こう考えるとダランソン家と家族に成らずに済んだのは結構幸運だったのかもしれない。

 そんな元ダランソン領は今回の被害者でもあるうちのバーイント家への賠償を兼ねて合併・吸収されるらしく、なんかうちの領地が倍以上に膨れ上がって草。よくよく考えると特に何かを能動的にしたわけじゃないけどなぁ。

 ダランソンの領地で暮らしている領民に関してはマジで何の非も落ち度もないとばっちりで右往左往させられていて可哀想だなぁと思うけれど多分父さんや兄さんが良きに計らうから大丈夫だと思う事にする。

 なんやかんやうちの家族皆できる人ばかりだしね、今回の人生味方が強すぎるんだわ。

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