第11話 子がクズなら親もクズ、†悔い改めて†



「な、なんだその口の利き方は?!それが目上の人間にいう事かね?!バーイント家は礼儀も教えていないのかっ、この無礼には金銭的並びに層の謝罪の詫びを―――」


 立ち上がり、震えながら俺を指さして怒鳴るターセッキ。だが俺がそんなシャバい喚き声に動揺するわけもないので遠慮せずズバズバ言い返していく。


「目上?だれが目上だって??

 信賞必罰。あとは礼儀には礼儀を、無礼には無礼を。これがうちの家訓だよ。

 というか娘が謀略に絡んでたんだぞ、よもや知らなかったとはいわないよな?

 そもそもがこっちの他責にしようとしても筋が通るわけないじゃん」


 ぎゃーぎゃーがなりたてるターセッキにおっさんの言葉を遮り、目を細めて睨みながら少し闘気を解放して威圧してみたらビクンッと跳ね上がって怯え始めた。

 わぁ、その程度の肝っ玉でよく乗り込んできたなぁ……まずは自分を知ろうねおじさん。


「まず最初に言っておくけれどうちはおたくとやり合う気でいる。

 ――――徹底的に潰す、これは家の総意だよ。婚前の姦通による婚約破棄はそっちの有責でまずひとつ。次にうちに冤罪ふっかけて取り潰そうとしたことがふたつめ。そしてこの間おたくの領内に行った時にエレノーラ本人が俺を殺そうとかかってきたことの3つめ。この落とし前を法的に糾弾するつもりだ」


「黙れ小僧!!

 そんなものは君がエレノーラをよく見てしっかり手綱を握っていればよかっただけの話だろう!!エレノーラがああなったのは、君の魅力不足だとか、君がエレノーラをきにかけていなかったからだとかそう言う理由があったのではないかね?

 そもそもうちの誠実で心の清い娘のエレノーラが蛮行に走ったのも君にも原因があるとしか思えない。

 不貞だとかこういう時には男が悪いと相場が決まっているのだ、素直に自分の非を認めたまえ。

 女子無罪という言葉を知らんのか?!本当に愛しているなら不貞など寛容な心で許すのが男の器だともいうだろう!!」


「はー?清い交際を続けながら一緒にテスト勉強したり放課後にカフェに言ったり休日に街にデートに出かけたり普通に恋人らしく接してましたけどね。成り上がるためにムーノにすり寄って利用したってエレノーラもゲロってましたけど?

 ……あー、万事休すで俺の他責に擦り付けないと首が飛ぶからってピーピー喚くしかないのはわかるけどどうにもならないと思うよ」


 このオッサンとしては俺の管理不行届も凶行の原因の一端がある、という主張に死体らしいけどどんなアンポンタンだよお前ェ~。そんな理屈が通用したら裁判はいりまへんわ。俺とエレノーラが他の人が見る限りはきちんと恋人同士していたことはジルクやシャーリー他共通の友人達から証言や言質がとれるだろうし、このオッサンの主張が通る道理はない。俺の情に訴えて譲歩や減刑の嘆願を引き出したかったのかもしれないけれど、それならこんな逆ギレじゃなくて誠心誠意の謝罪からはじめるべきだったんじゃないかなぁ、もう手遅れだけど。

 無理筋なのは理解しているのか、言い返す言葉もなく歯噛みするターセッキ。


「ふざけるなぁ!それが義理の親になる筈だった相手にいう物言いか!!」


「そうはならなかったんだから領地が隣の赤の他人でしょ」


「な、何だと?!その無礼、その傲慢、その態度。うちに戦でも売っているのか」


「ニコニコ笑って戦争はできませんよ。やるというならなら一戦仕るまで」


 ターセッキの言葉にやる気満々で前のめりに頷くとやり合う度胸はないのか腰が引けてる。やり合う気もないのに戦を引き合いに出すのは駆け引きとして三流だよ?


 ……ちなみに兄さんは平和なご時世なので目立たないが、凄腕の魔術師で広範囲破壊魔法のエキスパートなので対軍戦闘では俺よりも強い。

 俺の可愛い妹は他者への強力な強化魔法……最早狂化と言われる程の超強化バフを付与することができる俊才である。

 ちなみに父さんは総合的平均的に何やってもそれなりに強い。俺は言わずもがな、ダランソン一家とやれといわれたら遠慮はしないつもり。なのでダランソンの家とやり合っても被害0で完封勝利できると思う。家族の力をひとつに!いいですとも!


「な、な、そんな事がまかり通ると思っているのかぁ!!娘の婚約者にして目をかけてやった恩も忘れて恩知らずがぁ!!」


 唸るターセッキに、どうしようゲロリューゼ使わせようにもここに女神はいないしなぁと考えていると、コンコンというノックがして話が中断された。2人して扉の方を見ると、部屋に入ってきたのはジルクだった。


「はい、そこまで。見苦しい悪あがきは辞めて沙汰を待つべきですよダランソン卿」


「……何だね君は!部外者には関係のない話だ、子供はひっこんでいたまえ!!」


 突然の乱入に、八つ当たり気味にジルクに食って掛かるターセッキのおっさん。


「子供ですか。ええ、確かに私は子どもですね、クロス家の子供、その長男です。申し遅れました私はジルクハルト・クロス。中央政府の将軍でもあるクロス公爵家の嫡男です」


「おあああああああああああああああああああああ?!とんだご無礼をォー!!」


 ジルクの自己紹介にリトマス紙も真っ青の勢いで顔色を変えるおっさん。こうみえてジルクは将軍家の嫡男なので家格でいうと侯爵のさらに上。ジルクのお父さんはかつてあった人類側の一国の王家の一族なのだ。……といっても外道王子に滅ぼされた国とは違い、人魔連邦設立に際し吸収された国所縁の家なのだけれど。

 ……そう、ジルクとシャーリーの家は人魔連邦が作られてから作られた中央政府の中でも将軍の一人に数えられる、人類族最高峰の武家の家なのだ。ちなみに2人のお父さん将軍位にいるけど今世の俺の武芸の師匠で、東西南北大陸全土の猛者を集めた武道大会を不敗で連覇し続けて殿堂入りした拳法家で俺の尊敬する先生だったりもする。

 ターセッキのおっさんはジルクやシャーリーに直接の面識がなかったから仕方がないかもしれないけれど、これにはおっさんも真っ青。これも理解していて立ち振る舞ったな、ジルクゥ~!ハハハ、こやつめ。


「そうだダランソン殿。貴方の奥さんも不貞行為に励んでいますよ。こんな所で油を売っているべきではないのでは?」


 そういって、紙の束―――映写水晶が映した映像を紙に転写した写真のようなものの束をターセッキの前に放るジルク。その写真の数々を手に取り見た後、わなわなと震えるタ-セッキ。そこには他の若い男と遊ぶエレノーラによくにた中年の女性―――エレノーラの母の姿が映っていた。


「な、なん、これ、えっ、えっ??」


 哀れターセッキは初耳だったのか、情け無い声をあげながら出された不貞の証拠を呆然としながらめくっている。俺も初めて聞いたけどそうなのぉ?ダランソン家もう終わってるじゃん。親が親だから子も子か。


「先ほど貴方がが仰っていましたが不貞の原因は男にある、でしたね。いやぁお優しい。女子無罪ともいうとか。奥方も寛容な心で許して差し上げるのが男の器なのですよね」


 う、うわぁ。ジルク容赦なさ過ぎィ!ターセッキのおっさんの言葉が全部ブーメランになっとるやんけ!トゥー!トゥーッ!ヘァーッ!モウヤメルンダァッ!!


「あ……あのクソアマアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!おれのいないどごろでふりんしやがっでええええええええええええ!!ぢぐじょおおお、ぶっごろじでやるうううううううううううううううう!!ぜっだいにぶっごろじでやるうううううう!!」


 唐突に妻の不貞を暴露され、悔しさと怒りで地面を拳で殴りながら、泣きわめくターセッキ。そうかジルク、これを持ってきていたのか……二手三手先を読みすぎでやべーよ!さすが学園一の腹黒メガネの異名を誇っただけあるマジで頼りになりすぎて安心。

 しかしまぁ、地面に額をこすりつけるようにしながら泣き崩れるターセッキ、クッソ無様すぎんか。うちに責任の一端を求めに来たおっさんだったがそれどころではなく、失意に呆然としながら馬車に積められて追い返されて行った。うーん、俺なにもしてないけどなんか勝手に地雷が連鎖爆破しまくってる気がする。誰か罠カード伏せてた?合唱。

 失意のまま去ったターセッキを見送った後、ジルクが眼鏡をクイッとしながら和やかに言う。結局おっさんは女神にゲロリューゼを使うまでもなく自爆してったなぁ。なんか必死だったけど一周回って哀れだったな、まぁ別に減刑の嘆願とかはしないけど。


「取るに足らない小物だったな。もしやと思ってエレノーラの不貞を探すついでに母親についても調べたらリザードの親はリザードだったよ」


 窓越しに去りゆくターセッキの馬車をみながら何でもない事のようにいうジルクを見て、こいつが仲間で本当に良かったと思うのであった。今回の人生は味方に恵まれすぎている感じがする、ありがとうジェーン。降ってきた女神以外自陣が完璧な布陣すぎるんじゃよ。


 ちなみにその女神はというと、庭で「他愛ない」とか言いながら妙にキレのあるダンスみたいな動きをしていた。真面目にやってるのかふざけてるのかこれもうわかんねぁな。


 

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