第10話 開き直る汚馴染家……よし潰そう
―――こうしてムーノとエレノーラの冤罪内乱未遂は無事に防がれ、ついでに世界に貯まった負の遺物の浄化も一か所完了しひとまず日常が戻ってきた。
ゴミルカス家とダランソン家には軽くない罪が待っている。
良くて家の取り潰し、悪ければ一族連座で公開処刑のどちらかが待っていると思うけれど、そこはもう俺には関係ないので法の下粛々と裁きが下ればよいかなと思う。人魔連邦になってからこの手の罰則はかなり厳しいのだ。
女神はというと次の異常発生箇所の特定を探すべく、日がな一日庭で珍妙なポーズをとったり祈ったり踊ったりしている。曰く、一応その行動にもがあってマナの流れを感じ取ったり自然の精霊たちと対話したりだとかなのだが、事情を知らないうちの家族や使用人からしたら奇怪な言動をしている可哀想な人にしかみられていない。
なので使用人たちからも気をつかわれていて、きっと何か酷い目に遭って心が壊れてしまったに違いない等と憐れみの目で見られているのは此処だけの秘密。
女神本人は優しく接してもらって上機嫌なので、知らぬが華ってあるんだなぁと思った。
それから一旦避難させてきたダランソン領の住人を送り返したりとバタバタ働いていたある日の事、学生時代の友人達から連絡があったあと、一組の男女が揃って家を訪ねてきた。
「よう、久しぶり。無事始末がついたみたいで何よりだ」
「久しぶり、トール!あれっ、背伸びた?」
そういって並んで声をかけてきたの学園生活を一緒に過ごした大切な友人達だ。
栗色の髪を伸ばして首の後ろで結んでいるメガネの男子はジルクハルト・クロス。ジルクハルトと同じ色をした髪をストレートに伸ばした可愛らしい女子はシャーリー・クロス。貴族学園で出会った双子の友人達で、兄のジルクハルト―――ジルクはいかにもインテリな見た目で頭も切れるけれど手が早く無茶をするタイプだったので一緒になって騒動を起こしたり逆にトラブルを解決したりと、学生生活の中で良い事も悪い事も一緒になって乗り切った悪友だ。
妹のシャーリーはジルクとは反対に明るく優しいしっかりした子で、俺達を諫めたり後始末に走り回ったり巻き添えにして迷惑をかけたりもしたけれど呆れず親切にしてくれるので俺にとってもありがたい存在だだた。特に試験前なんかはシャーリーのノートに何度助けられたものか。……本人は真面目に授業を受けている自分よりも遊んだり企んだりハジケてるジルクの方が成績が良い事に不満そうだったけど。
そういえばシャーリーが俺の事をトールと名前を短くした愛称で呼んできたので、ジルクも俺の事をトールと呼ぶようになったんだよな。何で俺をそう呼ぶかはシャーリー自身にもわからないみたいだけど、俺もなんとなくシャーリーには親近感とか親しみを感じるのだ、
特に深い理由は無いけど名前から嫌なフラグを感じたりしたりしなかったりしたので悪い事に巻き込まれて命を落としてしまわないように留意してるよ。
「学園卒業振りだから半年と少しぶりくらいか?何もないところだけどゆっくりしていってくれよな」
館を訪れた2人と再会の喜びと挨拶もほどほどに、執務室へと通す。ある程度綺麗にはしたけれど、部屋に入って早々にジルクがかつて命だったものが散らばっていた個所を目でカウントしていたので、この場所でムーノの騎士とやり合った事には気づいたようだ。まぁジルクも気を抜くと俺がやられちゃいそうな位には強いから当然か。
……この2人が訪ねてくる、という事はまぁ十中八九ムーノとエレノーラの事だろうと察しはついている。役人を派遣したりあれこれと根回しをしてくれたのもジルクだからね。
侍女がいれてくれた紅茶をのみながらしばしの歓談や近況の交流を話した後、話が途切れ静かになり、そのタイミングでジルクが眼鏡をクイッとした後で語り始めた。インテリヤクザにしか見えない貫禄とスゴ味を感じますが頼りになる友人ですよ?
「さて、此処に来た理由はいくつかあるけど、一つは報告だ。
ムーノとエレノーラについてだが、ムーノは処刑が決まったよ。冤罪婚約破棄内乱、まででも充分に処刑相当だが、ムーノの方は特にヤバイ。昔からいた王子と魔女の残党……”究極覇道(ゴクドー)”とのつながりが発覚した」
うわっ、ゴクドーの連中まだこの時代でも活動していたのかよ!!勇者エリオットの時代で、外道王子ネトリックと魔女マルールが中心になって運営された外道の組織。誘拐、恐喝、人身売買、児童臓物販売、エトセトラエトセトラ。ありとあらゆる犯罪を行う外法の総合商社みたいな胸糞悪くなる組織だ。
どんな世の中であっても犯罪者たちは一定は発生するけれど、ゴクドーどもは別格。外道王子も魔女も死んで50年以上たつのにまだ存在しているとか、これもうわかんねえな。
前世の俺達が根絶したかと思っていたけれどまだ生き延びてるとかしぶとすぎる。
「ムーノはゴクドーとの繋がりを自白した。
ムーノに繋がるゴクドーの拠点を人魔の治安維持部隊が襲撃したがもぬけの殻だったそうだ。ムーノ本人は魔族の拷問官に徹底的に、入念に拷問にかけられて持っている情報を全て吐かされて廃人になってる。後はゴクドーと関与した者はこうなるという見せしめでの公開処刑で死ぬ前に再利用ってところだ」
エレノーラと組んでうちを始末しようとしてるだけならともかく、犯罪組織とつながりがあったらそりゃそうなるかー。ムーノ、いいとこの貴族だったはずなのに坂を転がるみたいに人生転落してんなぁ。なんつーか、雉も鳴かずば撃たれまい、というやつすぎる。
「……なんだか悲しいよね。エレノーラも、あんなにトールの事好きだって言ってたのに裏ではあんな女たらしと浮気して、揚げ句にトールの命を狙うなんて」
シャーリーは沈痛な、やりきれない顔をしている。
エレノーラとシャーリーは友人だったのでとても残念そうだ。悪党であっても友人を悼めるシャーリーのこういう優しいところは俺にはない美点だなと、と素直に尊敬する。まぁ、まだエレノーラ死んでないけど。
「……人間色々あるって事だろ。あいつの事は済んだことだから切り替えていくさ」
そういって苦笑するとジルクがニヤニヤと俺の方を見て愉快そうにしていた。
「だが良かったじゃないかシャーリー、これでトールは婚約者がいなくなってフリーってわけだ。トール、早速だが新しい婚約者にシャーリーはどうだ?」
「ウェェ?!ちょっと何言ってるのよジルク!!」
顔を真っ赤にして声をあげるシャーリーを可愛らしく思いながら、そうだなぁと前置きをしてから答える。
「―――アリだな」
「って、トールも何いってるのよ!?わ、私って変装魔法が得意なだけでジルクみたいに凄くないんだよ?!」
「でもシャーリーと一緒にいると元気がもらえるしなんだか懐かしいようなあったかい気持ちになるから俺は望むところだよ」
そんな俺とシャーリーのやり取りに、ジルクがへぇ……と眼鏡を輝かせる。
ジルクが突拍子も無いことをいいだして俺が乗っかり、シャーリーが慌てふためくのは学生時代よくある光景だった。……本当はそこにエレノーラもいたんだけど。
こういうやり取りもなんだか学生時代みたいな空気で懐かしいな、なんて思っていたがそんな幸せな気分をぶち壊すように、控えめなノックの後に侍女が申し訳なさそうに部屋に入ってきて、招かれざる客の来訪を告げた。
「ダランソン家の領主、ターセッキ・ダランソン様がお見えになりました。ヘクトール様との面会をご希望されています」
ハァッ?事前連絡もなくこのタイミングでかぁ。父さんと兄上が公務で不在の時を狙ってきたな、これ。
そもそも連絡のない訪問もどうかと思うけど、元婚約者の家同士だと言われたらまぁそこまでか。
どうしたもんかなーと思ったところでジルクの視線を感じる。……お前、まさかこれ読んでこのタイミングでうちに来たの?まっさかぁ……だがそんな俺の心の中の言葉を読んでか、にやりと笑ってから頷くジルク。foo!これだから天才ってやつは頼りになるなぁ。
ということでジルクとシャーリーは隣の部屋に移動してもらいつつ、隣の部屋からこの部屋の様子が視えるように投影機をスイッチオン。さりげなく録画用の水晶もセット、準備を万端にしてエレノーラの父・ターセッキを執務室に迎えた。
部屋に入ってきて遠慮なく上座に座ったターセッキは、開口早々にため息とともに悲しそうな声色で嘆く。
「まったく……君には失望したよ、ヘクトール君。まさかこんな事になるなんて……君なら娘を幸せにできると、そう思っていたのだけれどね」
ファーッ、娘が冤罪婚約破棄暗殺未遂した第一声がそれかよ!詫びより先に責任転嫁の他責とかいい歳してるだろうに。それがオッサンのいうことかっ!貴様ーっ!!
あぁ、そういえばこのオッサンが知る限りエレノーラと仲良くしていた貴族学園入学前まではごく普通の子供らしく過ごしていたから親が居ない今なら言いくるめでも出来ると思ってきたのかな??俺を丸め込めるとでも??あわよくば減刑の話に持ち込もうってところなんだろうけど―――馬鹿かコイツ。
このオッサンは自分の立場を理解してないっぽいけど、そうは問屋が卸さない。今更この中年に気を遣う必要もないから遠慮しないよ。
「失望?はぁ、まるでこちらが悪いかのようにおっしゃいますがこちらには何も非難される謂れは在りませんよ。そもそもご自分の立場、お分かりですか??」
静かな侮蔑を声音に込め、呆れたように首を振りターセッキのおっさんに視線を返すと瞬間湯沸かし器みたいに顔が真っ赤になった。わっかりやす~い♪いいよ、来いよ!!赤っ恥かかせて落とし前つけてやんよ!!
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