第7話 ブッチッパ!汚物まみれの汚馴染
エレノーラの叫びが響き渡りいよいよ領主の館が踏みつぶされそうとしているその時だった。
「私はこんな所で死んでいいはずがないのよぉぉぉ!私は悪く無い!悪いのはお前らだぁぁぁ!お前らが死ねぇぇぇぇっ!」
そんなエレノーラの他責思考に凝り固まった叫びに呼応するように、ズズン、ズズンという低い音の後に大地が揺れた。地震か?と身構えたがどうやら違うらしく、此処から見える山のふもとのあたりから“何か”が噴出している。遠目からでもハッキリわかる、泥水のような濁って淀んだ汚い液状、いやスライム状のものが、間欠泉から噴き出す温泉のようにのようにピューピューと噴き出ているのだ。
そんな異常事態に白晶虎もハウスふみふみを止めて噴き出す何かの様子を伺っているけど、そこは手を止めずにひといきに猫ふんじゃったしていいのよ??
……しかし汚物が噴出しているものは俺が調査しに行こうとしていた、女神が言っている方角だよなぁ。
「なぁ女神、アレってお前が言ってた“何か”ってやつか?」
「多分そう……かも。えへっ☆トゥルルットゥルー☆」
遠目からでもハッキリと邪悪なエネルギーを感じるけれどあれ絶対ロクなものじゃないだろ!!!目をそらしながらなんかゲル化でもしそうな雰囲気の可愛い語尾で誤魔化そうとしてるけどそんなものは俺に通じぬぅ!
「その雰囲気だとアレがどういうものかある程度見当ついてるんじゃないか?正直に吐け。どうにかしようにも情報がないまま処理するのは無理だろ、今ならそんなに怒らないから解る事正直に言え」
凄みを聞かせながら圧力をかけると、顔中に冷や汗を垂らしながら女神が口を開いた。
「世界の循環で処理し損ねた汚い魂とか魔力の残滓とかが大自然のマナの循環を堰き止めて混じった淀みというか汚物の煮凝りみたいなもので……それ自体は現界化して何か依代にでも宿らない限りは吹き飛ばして消滅させたり浄化したり出来ると思うんだけど……」
「けど?」
「人魔とか精霊とかそういう種族は多分問わず、欲望が強いとか精神性が負に偏ったどうしようもないクズとかエゴイストとかそういうのをみつけると宿って凄いチートパワーを与えちゃうと思う、多分」
「おまえそこまで目星ついてるなら最初に言えよ阿呆!!」
……欲望が強いとか精神性が負に偏ったどうしようもないクズとかエゴイスト、かぁ。あ、すぐそこにおるやんけ。
「なぁ女神、あそこにそれに該当しそうなどうしようもない奴がいるんですがそれは」
いまにも踏み潰されそうな恐怖からか、俺に向かって助けろクズ野郎と罵詈雑言飛ばしているエレノーラを指差す。
「あ」
ポンコツ女神が間の抜けた一言をこぼすと同時、噴出していた汚物がびゅるるっと空中で集合し、ミミズか何かのような形状を取ると超高速でダランソンの家まで、正確には開かれた窓から身を乗り出していたエレノーラの所まで飛来し、エレノーラを取り込むようにして包み込んだ。うわぁ、ウンコ(仮)に取り込まれてる?……観てるこっちが吐きそうになるわ。あれじゃ糞まみれになろうやってやつだ、全身糞まみれだ。えんがちょ!
「ぎゃばっ、おごごごごごご、あじゃぱーっ!!」
糞尿と泥水をブレンドしたかのような茶色いスライム状のものからエレノーラの右手だけが飛び出しているという酷い絵面。だがやがてその汚物はエレノーラの口の中へと吸い込まれるように入っていき、あきらかにエレノーラの体積を越えるほどの量だったがごくり、という音と共にその身体の中に納まり、そこには顔を伏せて立つエレノーラの姿だけが残っていた。うわっ、あいつウンコ(仮)飲み込んだぞキショッ!!
そんなエレノーラがゆっくりと、まるでホラー映画のお化けのように顔を上げた。その顔はにたり、と不気味な笑顔を浮かんでいる。夏のゾナモスprimeのホラー映画特集じゃないんだからさぁ。
「……あはぁっ、何これすごぉい!力がみなぎるのを感じるわ!身体が熱い!こんな気分が良いのなんて初めて……もう何も恐くない!」
さっきまでの怯えが嘘のように興奮した様子だ。汚物キメてブっ飛んじゃった??普通の様子では無いな、ありゃ。
「何かまずい、“一族の母”、離れろ!!」
俺の叫びに反応して“一族の母”が飛び退くが、エレノーラの掌から放たれた爆炎の魔法にその身体を焼かれて軽くないダメージを受けている。おい待て、あの魔法俺見たことあるぞ。具体的に言うと前世で。魔女マルールが使っていた、女神の加護による特殊な攻撃魔法だ。
「おい女神、あの爆炎魔法に俺は見覚えがあるんだけどな。いったいどういう事だってばよ」
「あ、あは、あははー……チンアナゴー」
誤魔化すように両手を上に伸ばす女神の頭を脇にヘッドロックしてこめかみにぐりぐりと捻るゲンコツを押し当てる。
「ギィエエエエエエエエ!!い、痛い!痛いわトール!!DVよ!!さっき、正直に言ったらそんなに怒らないって言ったじゃないっ」
「やかましいいいい!これでもかなり我慢しとるわい!!男女平等万歳!!いいからはやく言え!!
な ん で 魔 女 マ ル ー ル し か 使 え な い 筈 の 爆 炎 魔 法 を エ レ ノ ー ラ が 使 っ て る ん だ よ ! ! ! ! ! ! 」
「ごめんなさあああい、適当に処理してミス隠しながら濾過し損ねた魂の中に魔女マルールとか、勇者を裏切った元勇者パーティ達の魂もあったのよー!!多分あの汚泥の中にマルールの魂の一部があったからそのギフトをラーニングされちゃったんだとおもいましゅうううううう」
「お前それまたクソみたいなパターンのやらかしだなぁ!!!女神のギフトがクズ専用チートになって世界に滞留してるってことかよ、はやく言わんかこのアホンダラァ!!」
エレノーラはというと館の窓から飛び出し、炎を吹き出しながら空中に浮かんでいる。白晶虎が瀕死なのを確認してから、今度は俺の方を見て来た。
「さっきは散々私に舐めた口をきいてくれたわね、トール。……?あれ、あいつはヘクトール、よね。トール?何故かしら。まぁいいわ。どのみちアンタには死んでもらう予定だったもの。ムーノの無能ゴミカスはしくじったみたいだけれど、この力があれば私自身があんたをひねりつぶすぐらい造作もなさそうね」
これは困った事になったぞ。俺自身は物理全振りだから魔法への耐性が高い訳じゃない。エレノーラが魔法特化型の魔女マルールの力を使えるとなると、相性的には俺が不利だ。懐に飛び込みさえすれば制圧することはできると思うけれどはたして簡単に近づかせてくれるかどうか。
「あんたにはここで白晶虎に殺されたことになってもらうわ、トール。ムーノも切り捨てさせてもらって、私は美貌とこの身に宿った超パワーで成り上がるのよ!!」
そうイキイキと喋るエレノーラに対しても他人事のように余裕をみせる女神を不思議に思い訝しげな視線を向けるとムカつくドヤ顔で胸を張りながら説明してきた。こいつ女神だからか胸はデカいんだよな、エレノーラにはサイズ負けしてるけど。
「あ、私は女神だからあれくらいの魔法なら熱さは感じてもダメージは無効になって全然問題ないから大丈夫。トールがんばって~」
「……ほう?」
そいつはいいことを聞いた!!!!!
「何をゴチャゴチャと話しているの?」
「お前のその借り物の魔法は俺には通じないって話をしてたんだよ。ほらどうした、当ててみろよ」
「な……なにを!?ふざけないでよね……後悔しなさいーっ!!!!」
挑発につられて空中のエレノーラが右手の人差し指の先に魔力を集中させ、ビームとかレーザーの如く収束した爆裂魔法をこちらに向かって飛ばしてきた。さすがエレノーラ、煽り耐性低すぎィ!すかさず俺は女神の襟首を掴み前に突き出して盾にする。
「ちょ、ちょっと何するのトールさん!?もしかして私を盾にしてる?!私、盾にされてるんですけどぉ!?」
「近くにいたお前が悪いんだよ!どうせダメージ無効なんだろ」
「でも熱いのよってうわっ、あつ、あつつつつつ!ちょ、燃える!燃えるわ服が!!私はノーダメでも服は燃えるんだからちょっと離してトール!!ギャーッ!アットゥイ!!!」
女神の悲鳴を無視して盾にしつつ、自分の足の裏に闘気を籠めて噴射する。闘気の噴射は俺の十八番、こうやって女神を盾にしさえすれば無傷で空中のエレノーラまで一気に近づくことができる!
まさか俺にこんな事が出来るとは思ってもみなかったであろうエレノーラは、攻撃の硬直のまま空中で制止しながら迫りくる俺に驚愕する表情を浮かべていた。
「な、何よそれ!?インチキ効果もいい加減にしてよ!!」
「そぉい!!」
拳に闘気を集めながら殴るピンポイント闘気パンチでエレノーラを殴りつけると、防御魔法は展開したらしいが魔法障壁を砕きながらパンチが命中し『ぎゃんっ!』と短く悲鳴をあげて墜落していった。
地面にクレーターを造り、身体を横にしながら手足を曲げた形で蹲る、まるで雑魚の自爆でもくらって爆死したみたいなポーズだ。まだ息はあるようだけどこれなら再起不能だとみていいな。
「トールの鬼!悪魔!ちひろ!人でなし!」
こげこげになってかろうじて恥ずかしいところだけが隠れている女神が、襟首を掴まれたまま俺に不満を述べているけどちひろって誰やねん。
「しょうがねーだろ、直撃したら俺だって危ないレベルなんだしこれが現場で働くって事だよ。こうやって皆が命を懸けて戦って平和を勝ち取ったんだよ、勇者エリオットたちが生きた時代でな」
「うっ。……それは……そうね。ごめんなさい」
一応、盾にされたことについての不満は納得してくれたらしい、ヨシッ!今後とも対魔法肉壁として宜しくな!!
エレノーラの結末は結局変わらなかったな、ゲスは何をやっても失敗するもんなんだよ。
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