第5話 寝取られ幼……汚馴染が勝手に死にそうになってるけど何か問題ある?


「で、この世界に落とされた悲劇の美少女の私は助けてくれそうなトールの気配を探しながら泥水を啜って地べたをはいずりながら生き延びてここまでたどり着いたんだけど、丁度異変も近くにあったので一石二鳥だなって声をかけたのよ♪」


 とまぁ女神が言うには、異変のうちひとつは隣の領地―――森を越えた先の山の麓あたりで発生しているようだった。

 そこは俺の幼馴染もとい汚馴染で元婚約者だったエレノーラの実家、ダランソン家の領地でもある。

 その事を話すと、女神は幼馴染って寝取られたりして難儀ねぇと渋い顔をしていたけど前世では勇者エリオットの幼馴染でもある魔女マルール勇者を裏切ったりしてたし、それには俺も渋い顔しちゃう。


 いずれムーノが拷問にかけられて色々吐かされたら正式にダランソン家も制裁を受けることになるだろうけれど、それはそれとして不貞の落とし前もつけさせなきゃいけない。少なくない額の賠償を支払わさせられるだろうし、その後でお家お取りつぶしもあるかもしれないしな。……まぁ言っちゃうとエレノーラも詰んでるんだよね。


 翌朝、家族にはダランソン領で何か異変が起きてるみたいだからちょっと様子見つつエレノーラにムーノ捕まえた事言ってくるわ!と声をかけて出発することにした。人生は即断即決、厄介ごとはちゃっちゃと片付けるに限る!

 例によって兄さんや可愛い妹もついてこようとしたけれど、女神の起こしたトラブルという事情は説明できないので今回もお留守番をお願いした。一応何かあるといけないので護衛も断ってラヴィエルと2人で向かう事にするが、これは俺自身が強靭⭐︎無敵⭐︎最強という事への信頼から許してもらえる我儘である。

 あと、屋敷の皆からは自分を女神だと思い込んでいる異常者扱いされているラヴィエルだけれど、何故そんなラヴィエルを連れて行くかについては、ダランソン領から来たかもしれないので知ってる人が居たら返却するためと言って適当に誤魔化した。


 ダランソン領までは道の状態や道中に動物や魔物に絡まれたりするかなどで前後するけれど数日あればたどり着く範囲の筈だけど森の中はなんだか不気味なほど静かで移動があまりにもスムーズに進みすぎた。まるで森の中に生き物がいないようなそんな様相で、確かにこれは普通じゃない。穏やかじゃ無いわね!


「はー、楽ちん楽ちん。馬っていいわね~、U.M.A!れっつごー♩」


 隣で馬の背に跨る女神は鼻歌口ずさみながら完全にだらけ切った様子で、自分が言い出しっぺの異変の調査に行くという自覚/zeroすぎる。

 そして道なりに進むと、着の身着のままという様子で逃げて来たであろう村人たちと鉢合わせした。皆、ダランソン領にすむ人たちだろう。ただごとじゃないなと先頭にいた人に話しかけてみる。


「アンタ達はダランソン領の住人だよな?そんな恰好でどうしたんだ」


「あ、貴方はバーイント家の?!……実は、領主様の館が、白晶虎に襲撃を受けたのです。我々は抵抗する事も出来ず、こうして逃げてきた次第でございます」


 おぉぉ?白晶虎といえば高い知性を持つ精霊の一族で、ダランソン領は古くから白晶虎とは友好的な関係を結んでいた筈。なんでその白晶虎がダランソン家を襲撃してるんだ、まるで意味が解らんぞ!!?おいエレノーラお前何やったんだってばよ……?!

 とりあえずダランソン領の住人はいったんうちの領に避難してもらうようにして、手紙を届けてくれる道具「魔法の伝書鳩」を使って父さんたちに避難民が向かう事を連絡しておく。……ムーノの事でエレノーラは軽くない刑罰がまってるし多分ダランソン家もただじゃすまないだろうけど、住んでる領民には罪は無いしなぁ。


「……まぁ落とし前つけないまま死なれても消化不良だしとりあえず急ぐか」


「えー?寝取られ浮気女なんて助けなくたっていいじゃない、面倒だし放っておきましょうよ」


「お前本当に女神かよ……」


 マジでこの女神どうしようもないなと頭を抱えつつ馬を走らせ、ダランソンの街につくと住民は避難したのか人はいなくなっていたが、領主の館がその館ほどの背丈もある水晶を身体の各所にまとった白い虎によって今にも潰されようとしていた。

 白晶虎は雌の方が大きいがアレはその中でも特に大きい、恐らく群れを率いる長、“一族の母(ビッグマザー)”だろう。


「―――白晶虎の“一族の母”とお見受けする。何故ダランソンを襲うのか?貴女達は人と友好的な関係を結んでいたのではないのか?」


 馬を走らせ近づきながらの俺の質問に、館を踏みつぶそうとしていた白晶虎が律儀にこちらを見て、人の声で答えてくれた。


『然り、我が当代の“一族の母”である。人の少年よ、これはそなたには関係のない事。

 我らは古の盟約により100年以上この地を守護してきたが、当代の領主の娘はその関係を反故にし、我が一族の子らを毛皮を剥ぐために次々と殺め、皮を剥がれた無惨な亡骸を森にうち捨てたのだ』


「成程よくわかりました!!!!!恩知らずはその館ごとぶっつぶしてやってくだせぇ!!!!!!!!!!!!」


 俺の言葉に頷くと、死んだ子虎たちを思ってか涙を流しながらギュウ……と館を踏む力を籠める白晶虎。そして館はメキメキと悲鳴のような音を立てている。いけーいいぞもっとやれ!がんばえー“一族の母”ー!!


 ……白晶虎の子供は白い毛皮の虎の子供みたいで、幼体の時は身体に結晶がまだ出来ておらずもふもふで目もくりくりしてとてもかわいい生き物だ。俺も何回か見たり撫で回したりしたことがあるけれど、大体体長50㎝くらい、みゃーみゃー鳴いたり撫でると喉をゴロゴロならしてすりよってきたり、でかめの猫って感じで癒されるんだよな。もふ度がエグい。

 絶滅危惧種でもあり今は乱獲も禁止されている精霊種で、人間とも友好関係を結びやすい穏やかな気性の種族でもある。それを、可愛い子虎を乱獲するとか……お前は人間じゃねぇ!!!!!!!!!!

 っていうかそれ以前に護って貰ってる精霊の子供殺して毛皮剥ぐとか外道すぎて普通に滅びた方がいいと思うよ。


「ま、待って、ちょっと待って?!ヘクトール、助けに来てくれたんじゃないの?!?!?!」


 俺と“一族の母”との会話が聞こえたのか、領主の館の窓が開かれてエレノーラが顔を出してきた。ウェーブのかかった桃色の髪にその胸はとても豊満であった……としか言えないボインボイン。見た目だけでいえばまごうことなく美女と言える、俺の幼馴染であり元・婚約者のエレノーラ・ダランソンだった。

 なんか俺が来たのを救援と勘違いしてたっぽくて声をあげてるけど、まず俺が此処にいる事への疑問を感じて欲しいよね、ムーノの計画がうまくいってたなら俺は死んでるわけだし。


「ね、ねぇ!私信じてたわっ!ヘクトールが来てくれるって!やっぱり貴方が私の王子様だったのね、大好き!だから早く私を助けて?」


「あ~~~~~~~?聞こえんなぁ!!!

 俺を裏切って侯爵家のムーノ君とよろしくやってたんだろ?もうネタは上がってんだよ俺はムーノが捕まって全部ゲロったのを教えてやるついでにお前の様子を見に来ただけだよ」


 冷や汗を流しながら必死に媚びる様子を見せるエレノーラの言葉に対して、耳に手を当てて聞こえないポーズをとりながら煽る。


「そんなわけないじゃない、誤解よ!!私が最愛の幼馴染の貴方を裏切るはずがないじゃない、ひどいわ、可愛い婚約者にどうしてそんな事いうのよ?!子供のころ、大きくなったら結婚しようって忍び込んだ教会で約束だってしたじゃない!!一方的に掌を返すなんてひどい!!今すぐ私を助けて!」


「おっ、サボテンが花をつけている」


 エレノーラがなんか色々言っているけど、近くに生えていたサボテンが花をつけていたのでそっちの方が気になった。

 いやぁ、まさか様子を見に来たら勝手にやらかして殺されかけてるのは予想外だったけど、精霊は嘘をつくという概念がなく事実しか語らない。だから一族の母が語る子供たちの死は事実なのだろう。

 裁判でけじめつけてから断頭台にシューッ!!超エキサイティンが出来ないのは残念だけど子供の仇を取りたい親の無念に勝るものは無し、という訳で白晶虎さんその女は殺っちまってくだせえ!!

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