第4話 このどうしようもない女神に天罰を!!


「でもさぁ、実際これでこの世界でやらかすの3度目だろ?そりゃ自分で頑張って対処するべきだろ」


「ちょっとやめてよぉ、そんなつれない事言わないでよぉ!私とってもかわいそうな女神様じゃない!助けてよ!今度もまた私を助けてよトール~!!」


「ハハハ、残念!今の俺はヘクトールなんだなぁ、だから知らん」


 そんな俺のそっけない言葉に地団太踏んでピーピー喚いている女神だったが、応接室に備え付けられている鏡を見て何かに気づいたようだ。その顔色から血の気が引き、今までに見たことがないほど白く、いや真っ青になっていく。


「ギェエエエエエ?!?!私の美しい青髪が橙色になってるうううう!!

 女神の神格が二段階も堕ちてるぅぅぅ?現世に実体化したからぁぁぁ?!こんなのあんまりよぉぉぉぉっ!!」


 あぁ、やっぱり。前は水色っぽい髪色してたけど今は橙色に代わってるのはなんでだろうと思ったけれどそうか、現世に現界してなんかペナルティ的なもの食らったのか。自業自得というか因果応報ばつぐんじゃん。


「前は水色だったけど今は橙色になってるから何でだろうって思ってたんだよなぁ。それどうしたんだ?」


「どうしたもこうしたもないわよっ!女神の髪の色は神格を現してるの!!最上位が金色、次が青色、そして赤色。さらにその下の半人前で三流以下の無能な女神未満が橙色ってランク分けされてるんだからっ!

 私は青色だったのにぃ~!現世に実体化したから零落して一気に橙色まで堕ちちゃったのぉぉぉぉぉっ?!いやよこんなのあんまりだわぁぁ!!」


 この女神が上から数えて2つ目のランクにいたとか女神の世界ってどうなってるんだと思わなくもないのはさておき、異世界に落とされた事より髪の心配をしてるのってどうなんだ……?いや、でも髪は女の命っていうしなぁ、女子からしたら大事な事なのかもしれない。

 相手が何者であってもその人が大切にしているものに対して安易に貶しちゃうのは良くないし、これだけ悲しんでいるって事はお手入れとか頑張っていたんだろう。……そう考えると可哀想な気がするので此処は素直に慰めておくか。


「とりあえず……ドンマイ?」


「ンアアアアアア!!うわーん、ひどいわひどいわあんまりよぉ、こんな……赤色にすらなれない出来そこないの色なんて、こんな色は嫌ぁっ!!橙色なんて、何かスキャンダル冤罪かけられてオレンジ呼ばわりされたりしそうな色だし何より生理的に嫌よぉ!!

 そもそも、橙なんて赤になりきれない中途半端で傷んだ赤色みたいじゃない!!こんな傷んだ赤色の髪なんて恥だわああああああああっ!!傷んだ赤色!傷んだ赤色ーっ!!傷んだ赤色ぉぉぉぉーっ!!」


「たわけ。そこまでにしておけよラヴィエル」


 よくわからんけど猛烈に嫌な予感がしたのでなんとなく止める、特に深い意味はないけどなんとなく!


「おーん!おーいおいおい。私は世界一不幸な美女神だわ~っ」


 しなをつくってよよよと泣いて見せるが、ほぼ全部自業自得な気もするんですがそれは……。


「そうか、大変だな。……とりあえずその異変の対処とやらを頑張ってくれ。武士の情けで旅の荷物と路銀は準備してやるから達者でな」


「え?!助けてくれないのぉ!?世界がまた危ないかもしれないのよぉ!?」


 信じられないという表情を浮かべる女神だけどなんで俺がまた働く前提なんだよ。言外に何言ってんだおめぇ……と嫌な顔をすると、女神がピーピーと金切声をあげながら喚き散らす。


「この世界には、たくさんの人が平和に暮らしてるわよね。

 その中にはトールの親友だった勇者エリオットや前世で仲が良かった皆だけじゃなくて、世界を滅ぼしかけた外道王子一味や魔女マルールの犠牲になった子供達も転生して平和に暮らしているのよ?!そんな皆に危険が迫っているのに見過ごせるの?!」


「そ、それは……!!」


 言われればそれは確かに問題だ。

 ぶっちゃけこのポンコツ女神の失敗は自分で尻ぬぐいしろバカタレという気持ちしかないがそれとは別で、今を平和に生きる人たちや、転生しているであろう前世の友人知人達が危ない目に遭ったりよからぬことの被害に遭う可能性があると言われると確かに看過できない。

 ……しかし自分でやらかしておいてこの言い草、本当に女神かよと言う気持ちで正直張り倒してやりたくなるんじゃが?じゃが?


「エリオットは前世勇者だから強く転生してると思うけど、トールの前世の時代に魔女マルールに惨たらしく解体されて命を落とした子供たちはそうはいかないでしょ?転生して平和に暮らしているのに……世界の異変に巻き込まれて命を落とすことになっても良いって言うの?!」


「よくねェよ!よくねぇけど!!………よくねぇさ!!よくねェよなぁぁぁぁっ、ウオああああああああああああああああああああああくっそおおおおおおおおおおおお!!」


 叫びと共に頭を抱えてから頭をガシガシとかきむしる。悔しい……けど応じちゃう、ビクンビクン!!

 この女神にまたいいように使われる事に対しては釈然としない気持ちはある!けど……それで俺の知ってるかつての仲間や友人達、非業の死を遂げた子供たちが生まれ変わって得た平穏な日常を脅かされるのは見過ごせねぇよチキショーメーッ!!……スローライフは夢のまた夢かぁ。


「―――――わかった。やってやるよ異変の調査と対処」


 腹の底から絞り出すようにして答える。断じて女神の、このやらかし癖のぬけないポンコツのためじゃない。この世界を平和に生きる皆のために、だ……!!


「ワァ!トールならそう言ってくれると思った!さすがトール♪今度もよろしくねっ!!それじゃああたしはここに宿泊させてもらってトールが異変を解決して戻ってくるのを待ってるから、お菓子とかお茶とか用意してよね――――」


「何言ってんだこのお馬鹿っ!今回はお前の為じゃねーよ!俺もお前のミスは自分自身が始末つけるべきだと思ってる。毎回何度も何度も人に自分の失敗のケツ拭きを任せようとするんじゃない。……だからお前も来るんだよ!!!!!」


「え゙っ?!」


「え゙っ?!じゃねー!そう言われてるんだろ?現場で汗水流して動け、戦え、苦労しろ。一緒に同行して手伝ってやるけどお前も泥にまみれてあくせく働け」


「えええええええええええええええええっつ?!私女神なのよ?!女神なんですけどぉ?!私超可愛いだけの女の子なんですけどぉ?!可愛くってごめーんね?!」


「やかまシーサー!!今のアンタは半人前で三流以下の無能な女神未満なんだろ?さっき自分で言ってたじゃないか。……嫌なら俺は手を貸さない、自分一人でなんとかするんだな」


「イヤアアアアアアーッ!!どぼじでぞんなごどゆうのぉぉぉぉぉっ!!キィエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!」


 ポンコツ女神ラヴィエルの渾身の叫びは応接室の防音を貫通して館によく響きわたるのだった。うるさぁい!

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