第3話 こいついつも土下座してんな、ハーッ…(クソデカタメ息)
「ぼえええええええ、ぶえっ、ヒッグ、ウェエエエエン」
ズタボロのボロ雑巾みたいになった女神(様)をとりあえず宥めて家に連れ帰ると、深夜なのでもう寝付いていた筈の妹が飛び起きてきてギャンッと目を見開いていた。何その目でかっ、めっちゃ見開いて女神様を凝視している。
「お兄様の傍に女の気配を察知したので起きてきました」
……わぁい。
だが女神の方は、今年7つになる俺の可愛い妹を前にして涙も引っ込んで大興奮。まぁ実際うちの妹は銀髪色白でお人形さんみたいで可愛いからね!仕方ないね!!世界が変わっても時代が変わっても子どもを前にしたリアクションなんて皆一緒なのであるッ!
「わぁ!ちっちゃい、可愛い!トールの妹?はわ~はわわ~かわいい~かわいい~」
「お兄様この人は?」
警戒心バリバリMAXナンバーワンで訪ねてきたのでどう紹介したものかと考えていると、空気を読まずに女神が笑顔で答えた。
「私はラヴィエル、この世界の愛と平和を司る大女神ラヴィエルよ♪よろしくねっ」
空気を読まずにどストレートに自己紹介をする女神もとい大女神ラヴィエル。だがそんな女神の言葉に、妹はというと可哀想な人を見る目で見た後、心配そうに俺の方を見て来た。
(この人は頭がちょっとアレな可哀想な人ですか?)
目線で問いかけてくる妹に、その誤解を利用させてもらおうと沈痛な面持ちで頷く。実際ポカをやらかして何度も世界を窮地においこんだ駄目な女神ではあるので頭がアレな可哀想な人というのは間違ってないんだよな!!
そんな俺の頷きに、自分を大女神と思い込んでいるちょっと頭がアレな感じの可哀想な浮浪者と認識したのか部屋に戻っていく我が妹。おやすみと声をかけてその背中を見送った後、使用人に頼んで汚物状態の女神を湯船に入れさせて汚れを落とさせ、元々の服はもうぼろきれみたいになっていたので余っていた侍女服を着せた。
それから皆は先に寝てもらい、応接間に通して話を聞くことにした。騎士の血痕とかさっきまで命だったものが辺り一面に転がっていてもひとまず気にしないでおこうねoh!yeah!
「は~、お風呂っていいわねサイコー!汚れもおちて綺麗さっぱり、身体はポカポカ。人類が産みだした文化の極みだわ~」
「――――で、何でアンタがここにいるんだ女神様」
大満足という様子で風呂上がりの感想を語る女神……ラヴィエルの話を遮り、単刀直入にズバっと聞く。俺の言葉に対して、ラヴィエルはごくり、と唾を飲んだ後、躊躇なく地面にへばりつき……コメツキバッタのような動き、いや違う土下座のポーズをとり額と掌を地面にこすりつけながら叫んだ。
「……またやらかしましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「お前やらかすの何回目だよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」
ラヴィエルの叫びに思わず怒声で返す。応接室を選んだのは重要な話をするときもあるので防音がよく効いているから、この叫びも館の皆には聞こえない安心設計☆いや、それはいい。この女神またやらかしたっていったよなぁ?!
俺が知る限り、1回目はこの世界で人と魔族が戦争をしている時に戦を止めようと博打をうつノリで一か八か神託で勇者パーティを結成したら失敗して悪い奴らに勇者パーティをいいように利用された事。
具体的に言うと勇者の仲間だった女達は諸悪の根源の外道王子と姦通し、勇者の婚約者の魔導士、いや魔女マルールまでも外道王子に寝取られて勇者を戦争の中で使い潰して用済みになったら謀殺しようとしていたというクソみたいな状況だった。
そのどうしようもない状況を打破するために俺は勇者の援軍として異世界召喚されて、この世界と勇者を救うために奔走しまくった。もう本当に頑張った、勇者との旅の中で諸悪の根源の外道王子に謀殺されかけたり戦闘能力を喪ったりしながら旅を完遂して我ながら凄く頑張ったねと自分をほめたくなるほど頑張った。頑張らさせられた、このポンコツ女神に。
そして2回目はそんな戦乱が終結した後人と魔族の間に和平が結ばれて、一旦は平和を迎えた世界の中でこの女神が適当に世界を操作した時にあろうことか戦乱を起こした諸悪の根源の外道王子になんか色々と凄いパワーを注ぎ込んで魔物化させて暴れさせた。その王子自体は勇者やかつて人と闘った魔族の猛者や人類側の英傑が大集結して討ち取ったけど、一歩間違えば大惨事を起こすところだった。
……で、またか。またやったのか。もうこの女神がダメすぎるので張り倒したくなるけど文句言っていても仕方がないのでとりあえず話の先を促す。
「……で、今度は何をしたんだ。そんでもってどうしてこの世界にアンタがいるんだ」
「実はずっと前からこの世界のマナの管理を……その、適当にやっていたせいで……バランスが、根本的な所で崩れていて、で、誤魔化しながらやってたんだけれどなんか限界越えちゃったみたいで負の煮凝り的な、“変なもの”が現れてるの……」
「“変なもの”って何だよ絶対ロクなもんじゃないだろ!!そんな事を……また戦乱を起こしたいのかアンタは!!流石やらかしは女神のお家芸だなって?ふざけんなこの御馬鹿ァ!」
もうこの時点で絶対ロクでもない事になってる確信がある。この女神がやらかすのはいつだって最大級の厄介ごとばっかり的確に巻き起こすんだ!俺は詳しいんだ!!前世で2回も対処させられたから!!
「ひーんそんなに怒らないでよぉ、私だって頑張ってたんだもん!だけどぉ、女神補佐のリィヨちゃんは私が適当な仕事して失敗するとすごく厳しく注意するしぃ、転生担当のジェーンは私がミスしないかチェックしにきてプレッシャーかけてきてぇ、実はまだミス隠してますって言いずらかったんだもの」
「ば~~~~~~~~っかじゃねーの?!
ミスがバレて怒られるのが嫌だからミスを隠して爆弾を大きくしてとりかえしがつかなくなってから爆発させて露見するとか、仕事で一番やったらいけないタイプのトラブル対応じゃねーか!!!!」
同じ職場にいたら巻き添えで酷い目に合うタイプの厄介社員かよ!!!!!!こいつこれで女神かよぉ!?ちょと女神免許とかあるなら没収してくれない??むしろ女神免許とか剥奪できないのぉ??!
「ウェーン、そんなに大声で怒らないでよぉ、私だって反省してるんだからぁ」
「反省しているって言って何回やらかしてんだよ」
「うぐっ」
おっとぐうの音もでないか、そらそうよ。
「それでぇ、補佐のリィヨちゃんについにバレちゃってぇ、無言のジト目でじーっと視てきてぇ、転生担当のジェーンは今までにないくらい凄い剣幕で怒ってぇ、もう完全にブチ切れって感じでェ、『3回も同じ世界でやらかすとか信じられないっ!今度のトラブルは現地にいって自分でなんとかしてきなさいっ!!』てお尻を蹴り飛ばされてこの世界に落っことされたのよぉ……」
「ざまぁ!!!!!!!!!!!!!!!」
思わず心からの気持ちを隠せず叫んでしまったけど、前世この女神のやらかしのせいでものすごく頑張る事を要求された俺はこの女神にざまぁって言ったって良い筈、自由とはそういう事だ!
成程、度重なるやらかしにこの女神様と業務上関わりのあるメンバーが怒って女神自身に自分の失敗の尻拭いをさせるべくこの世界に落っことしたんだなよくわかった!
ジェーンは世界間の転生を担当しているゴスロリ服のお嬢様(?)で、俺も転生する時はお世話になったし転生チートを貰った。
リィヨちゃんはこの女神があまりにポンコツすぎるから仕事の補佐につけられたしっかり者の良い子で俺の前世とも関わりがある女の子だ。またいつか会えたら良いなー。
しかしついにあの2人の堪忍袋の緒が切れたか。いや~マジで超グッジョブ!!
この駄目な女神にも天罰が落ちたか~、いや天罰というか人罰というか天誅というか人誅というか……もうこれわかんねぇな。誅〜罰である!!
でも人に迷惑かけまくったんだから残念でもなく当然だよね。
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