前世は勇者の親友として一緒に世界を救いましたが、転生した今度の人生もざまぁしながら世界を救う事になりそうです。
第2話 オレ大勝利!今度こそスローライフへレディーゴ……あれ??何でこんな所にあんたが?
第2話 オレ大勝利!今度こそスローライフへレディーゴ……あれ??何でこんな所にあんたが?
「……剣より拳が強いだとぉ?そんなアホな事があるかぁぁぁぁ!!伝説の大英雄トール様じゃないんだぞぉぉぉぉぉっ!!!」
半狂乱になりながらのムーノの叫びに、この状況でまさか“トール”の名前を聞くことになるとは思わず少し驚いた。むずがゆいというかこそばゆいというか。
―――なんかごめんなムーノ。今お前が叫んだ“伝説の大英雄トール様”な、……俺の前世なンだわ。
そんでもって生まれた時から、前世でトールとして活動していた時に与えられていた身体能力超強化等の各種チート能力が万全の状態で使えるのである。ユーの目の前にいるのは全盛期のトールなのデース!ユーの負けデース!
一度目の人生は、地球の東京で会社員の下北沢透流として地球の東京で、幼馴染を寝取られたりしながら社会人になってから事故死するという負けの多い人生を。
そして、2度目の人生は先の行き詰まった世界を救うために、勇者の仲間の戦士若しくは遊び人のトールとしてこの世界に転生して何度か世界の危機を救った。
そして今は割と平穏な領地で貴族の次男として人生三周目を過ごしている。
……そういえば前世で、この世界の危機の大半は世界を管理する女神がポンコツすぎる故にしでかしたものばかりだったなぁ。
あの駄目な女神様今頃どうしてるんだろう……なんて色々と思い出し始めると、頼むからもう面倒を起こすんじゃないぞと遠い目をしながらそんな思考に没頭してしまいそうになったけれど、ムーノがガタガタ震えながら叫んだ言葉に意識が引き戻される。
「ハーッ、ハーッ、そうか、この屋敷に強化フィールド魔法が付与されていたんだな!!?そういうことか、……子爵ごときがぁ!この卑怯者の下種野郎がァァァァァァァッ!!
お前は貴族学園で学生していた時もずっと冴えないヤツ扱いされていただろう!! そんなお前が俺より強いなんてあるはずがないんだぁぁぁ!」
荒い呼吸で震えていたムーノが、そうかすべて理解したぞ!とでも言いたげな顔を浮かべながら俺を指さしてあれこれ色々と喚いている。うーん、だけど残念全然違うし俺は物理技能が強いんだって言ったじゃん?単純に物理を強化して物理で殴ればよい戦法で素早く殴り倒しただけなんだけど人の話聞いてる??聞いてない?あ、そう……しょんぼり。
「貴様ァァァッ、正々堂々戦えこのクズ野郎が!!軟弱者ぉっ!!
お前ッエレノーラを奪われたことを知って、俺達が乗り込んでくるのを察知して、正面から勝てないからとこうやって下劣で卑怯で品性の欠片もない罠を仕掛けて、俺達を罠にかけたんだろう!!正面切って戦っても勝てないと思ってなッ!!お前はゴブリンにも劣るクズだぁ、この最低の臆病者がッ!!!」
絶体絶命の状況だと思うんだけど流れるように罵詈雑言を飛ばすそのメンタルとそのガッツには見習うべきところがあるような気がしたけど冷静に考えるとそんな事は無いな、パニックになって喚き散らかしてるだけだし気のせいだったわ。
「途中までは正解。お前達が乗り込んでくるのを察知していたから使用人たちは父さん母さんや俺の兄妹と一緒に離れた場所に退避してもらってたんだよ。真夜中の密かな行軍だから道中も略奪はしないと思ったけど、一応この館の周りに住んでる家の住人と一緒にね。……だからこの館も無人だったろ?」
空城の計ならぬ空館の計ってところだけど、無人なのに気づかなかったのか、おかしいと思わない当たり迂闊だよなぁ。
ぶっちゃけ俺一人で余裕で返り討ちに出来るから余計な被害を出さないために皆には避難してもらっている。血の気の多い父さんは残ってムーノ一行をギタギタにしてやると意気込んでいたけれど、いい歳した父さんや、大事な兄妹に怪我されても困るので俺一人で残らせてもらったんだよね。
「自分に有利なフィールドに誘い込み、俺の騎士達に一方的な暴力を振るうとは……そんな最低のクズだからエレノーラにも見限られるのだぁ!!子爵ふぜいがぁぁぁぁぁッ、この俺様に、侯爵家に無礼を働いてェッ!詫びろ!ひれ伏せ!自害せよヘクトールッ」
まさか人生を生きている中で自害せよと言われるとは思わなかったのでシュールすぎて吹き出してしまった、マジうけるんですけど。
怒りと混乱と屈辱と羞恥とかそういうのが色々と混じって顔真っ赤にしながらギャースギャースとムーノくんが喚いてるけど血圧すっごい上がってそう。
「落ち着けよ、お前滅茶苦茶言ってるなぁ。……まぁなんでもいいや。俺は此処でお前達を返り討ちにして、現行犯で捕まえて証拠と共に法廷に叩き込む。あぁ、そのまえに拷問で色々自白させられるかもしれんけどな。拷問官の拷問はエグいらしいぞ?……で、お前は内乱罪なりで死刑になるだろうしお家は御取りつぶしってところかな」
「……フッ、フフフ!マヌケェ!そう思い通りになると思うな。俺が今まで無為にわめき散らしていたと思うのかぁっ!貴様を油断させてその間に技を発動するためだぁ!予定は変わったが俺自ら始末してやるぞぉーッ!!」
そう言いながらムーノが羽根のように軽やかな動きで天井近くまで高く飛び上がった。おおっ、びっくりしたけどこんな事も出来たのか!とはいえ別に油断していたわけではないので即座に迎撃の構えをとる。
「かかったなアホがぁッ!!我がゴミルカス家に伝わる秘剣・超穿孔破壊剣でその腹に風穴あけてやるぅ~ッ!!」
なんか死亡フラグっぽいセリフだけどもムーノが秘剣と謳うだけあり、剣先に螺旋を描くように魔力を収束させて突貫してくるその突きの威力は凄まじいものを感じさせる。……なので俺はその突きが届く瞬間、ひょいっと横に身体をずらし、魔力の螺旋の隙間を縫うようにしながら回避して左肘と左膝で突き出された剣を上下から挟み込んで叩き折る。剣に魔力を纏わせてるなら剣を破壊してやれば技も消失するだろうと思ったけど、案の定魔力の渦は霧散した。戦いの経験が違うんだよなぁ、こっちは人生3周目なんでねー。
「うわぁ、折れたぁ!?我がゴミルカス家に伝わる名剣ゴミスカリバーがぁ?!?!」
おっと、そんな大事な剣だったのか。まぁでも戦場で武器破壊されるのは仕方ない、悪く思わないでくれよな。そうして剣がおられて驚愕し叫んでいるムーノの首へすかさず左手を伸ばして掴み、空中に吊り上げる。
「うぐっ?!ぐ、ぐるし……やめろ……離しぇぇ……はなしぇぇぇ」
このままチョイと手に力を籠めたら(首が折れる音)みたいなテロップが出そうな良い感じの音がなりそうだけど、ムーノにはこれから吐くもの吐いてから刑に処されてもらわないといけないしとりあえず全身打撲で再起不能にしとくか。
「ゆ、許すぅ、見逃してくれたらゆるしゅ!ゆるちてやるからぁっ!!」
鼻水垂れ流して泣きながら命乞いするムーノ、しかし何をどう見逃したらどう許すのかよくわからない。とはいえその問いに対する俺の答えは決まっている。
「寝取りどころか冤罪で他家を嵌めて取りつぶそうとした奴を見逃すなんて駄目でしょ。……というわけで百裂滅多打ちの刑だおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!あたたたたたたーっ!!テーレッテー!」
左腕で宙吊りにしたままのムーノの全身を右手でボコスカと殴りまくっていく。死なない程度に適度に力を抜きつつ、全身の骨がいい感じに砕けるようにきっちりくまなく殴る。
「動くと当たらないだろ!おらじっとしてろあくしろよ!」
「はっ、ぎゃっ、ぶげっ、ぴっ、ぱにゃ、ぽにょぉぉぉぉぉっヤッダーッバァーッ!」
途中から左腕も使って左右の拳打に切り替えてムーノの身体を空中に浮かせながら壁と拳で挟んで殴る。
右の拳で殴ってから落ちてくる前に左拳で殴って打ち上げればずっと滞空出来るって寸法で、途中でコンボが途切れて落下してしまいそうになったら膝蹴りや蹴りあげを織り交ぜて再度ボディの位置を調整して空中に固定しなおす。たまにもがいて抜け出そうとするけどそこは頑張って格闘を当てるんだよ。
こうしてると格闘ゲームの無限コンボみたいだなぁ、地球の東京で過ごした若かりし頃、ゲームセンターで遊んでいた時を思い出す。
負けると『相方ァァァァッ!!』とか叫んで動物園の猿みたいに暴れる珍奇な発狂プレイヤー達と格闘ゲームでエクストリームに対戦していた記憶がよみがえってきて楽しくなってきた。ジョインジョインオレェ!命は投げ捨てちゃ駄目だけどお前みたいなクズの命は投げ捨ててもいいよ!!
「や、やめっ、いだっ、いだいぃっ、ひでぶっ、ゆるしちぇぇぇっ」
一方的にボコボコにされてムーノが泣き叫びながら何か言ってるけど気にしないでおこう。
「フゥン!ホォン!ホォン!!クルルァ!お前も鳥になるんだよ!パンチは効くぜぇっ?!」
リズミカルに俺のコンボ気持ちよすぎだろとリアル無限コンボチャレンジをしていると宙に浮くムーノの股間から微妙に香り漂う液体が零れだした。どうやら滅多打ちにされながら宙吊りにされる中で意識を失いながら失禁したらしい。おぉ、無様無様。
「ふぅ……ま、後は魔族の拷問官と法廷に任せるとするか。拷問に正気でいられるといいね〜?あぁ、今の殴打は、曲がりなりにも幼馴染で婚約者の女を寝取られた恨みってことにしておいてくれ」
既に意識を失っているムーノに聞こえるはずはないだろうけど、そう言ってからパンチの連打を止めるとムーノの身体が力無く落下し音を立てた。
……ハァ~~~~~、今回の人生は平穏に過ごせると思ったのに成人して一発目からコレとかな~~~~~あ~~~エレノーラにも落とし前つけさせないといけないし、やること一杯だ。
それから家の外にいるムーノの騎士を蹂躙した後、ちょうど友人が派遣してくれていた信頼できる役人さん一行が到着したのでムーノ一行を引き渡した。昼夜行軍でうちの領地まで向かってきてくれていて、ついでにタイミングばっちりで到着するあたり友人の手腕さすがである、そして役人の皆さま夜分遅くご苦労様です。
それから周囲の安全を確認した後で、避難してもらっていた家族や領内の住人の所に行き心配と手間をかけた事を詫びつつ事の顛末を話した。
兄さんは万一にも俺が負けることは無いと思っていたけれど、もしもの時は館ごと魔法ぶっ放してムーノ一行を塵も残さず消滅させるつもりだったとかしれっと言っていて兄さん優しいし俺含む弟妹にはでろでろに甘いけど怒らせたら怖い人だよなぁと思って震えたり、泣きながら飛びついてクンカクンカと匂いを嗅いできた妹をあやしたり、一方で父さんはブチ切れて絶対にゴミルカス家とダランソン家―――エレノーラの家にも落とし前をつけさせると息巻いていたけど、うちの一家皆キャラが濃くて面白いよなぁ、今は亡き母さんもイカした人だったし。
という訳で冤罪事件は友人達も協力してくれているので順当に決着するだろうから一件落着である。
落ち着いた所で夜も遅いので住人をそれぞれの家に送り届け、父さんや兄妹も先に家に帰して周囲に最後に異常がないか見回りを済ませたが異常はなかった。
もう帰って寝よう、としたところで、暗がりから何か……いや、誰かがはいずりながら俺の足にしがみついてきた。だ、誰だ?!テケテケか?!ホラー展開か?!……等と思いつつ身構えると、泣きながら涙と鼻水で顔をべちゃべちゃによごして情けない顔をしながら縋り付いている顔には見覚えがあった。
……薄水色をしていた髪は今は微妙に退色したようなオレンジ色に変っている。着ているものも白いドレスなのは変わらないが、ドロだらけで薄汚れてボロボロで、女神様というよりは浮浪者とか物乞いみたいな恰好をしている。
「やっどみぢゅげだぁぁぁぁ~……だじゅげでドールゥゥゥ~!!」
「うわぁ……マジかよ」
もうなんかロクでもない事に巻き込まれる嫌な予感がするゾ~これ。
―――そこにいたのは、この世界に転生する時や、その後天寿を全うして3周目の人生に送り出される時に会った……とっても駄目なポンコツ女神様だった。
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