前世は勇者の親友として一緒に世界を救いましたが、転生した今度の人生もざまぁしながら世界を救う事になりそうです。

サドガワイツキ

第1話 冤罪処刑?いいやNTR野郎の返り討ちタイムだよ


 夜も更けて静まり返った館の執務室で、机に座って延々と書類仕事に精を出している最中、ドタドタという乱暴な足音と重装備の騎士の鎧がたてる金属音が聞こえてきた。そして、それらは次第に近くなってきたあと俺のいる執務室の前で止まる。

 数回分の呼吸の間の後、バガン、という音と共に扉が蹴破られ……というか破壊されて木片をまき散らしながら吹き飛ばされ、空いた開口から翠に塗られた鎧を装備した総勢5人の騎士たちが足音も荒く部屋に入ってきた。

 それぞれが此方に向かって剣を向けて威嚇しているが、その後ろから薄緑の長髪に騎士鎧を着込んだにやけ面の男が姿を見せる。

 どうやら夜分遅くに部屋に、というか館に乱入してきたのはゴミルカス侯爵家の嫡男ムーノのようだ。人魔連邦国の中でも上位に位置する大貴族の御曹司で、その余裕綽々の態度は対魔法も付与された完全重装備の騎士達に護られて自身も重装備、対する此方は剣も鎧もない丸腰の普段着という状況だからだろうか。


「観念するんだな、ヘクトール・バーイント!!お前の悪行の数々断じて許さん!このムーノ様が我がゴミルカス侯爵家の名のもとに断罪してくれるっ!!」


 観念しろ、なんて言葉と共に俺の名前を呼んでにやにやとこちらを馬鹿にするようにしながら勝ち誇った笑みを浮かべている。

 

「な、なんなんだお前たちは?!こんな夜中に一体何のつもりなんだぁ!」


 夜中に人の屋敷に押し入り、事実無根の一方的な通告とともに剣を向ける相手に対する驚きと恐怖を浮かべながら声を返すと騎士達の奥でムーノが声を上げて笑った。


「ハァッ?!……ハハハハハ!!お前ェ、この状況でよくそんな悠長なことが言えるなぁ~?お前は!国家反逆罪で!ここで!この俺にッ!!無様で惨めで情けな~く惨殺されるんだよ、ドブネズミらしくなぁ。観念しなァぶっ殺してやるよォ!」


 そんなムーノの言葉に、護衛の騎士たちは号令があればいつでも斬りかかれるように身体の重心を動かしている。侯爵家の騎士だけあってよく訓練されているようだ。窓の外の様子をちらりと見てみると、どうやら屋敷の外にも兵士がいるようで、俺を逃がすつもりは無さそうだ。


「国家反逆罪?な、何を言っているんだ、俺はそんな事を企んじゃいない!何かの誤解だっ!!やめろっ、やめてくれぇ!」


 ガタガタ震えて、顔を青くしながら、上ずった声で情けなくみっともなく命乞いをする。そんな様子にとても大変満足そうにうんうんと頷く様子を見せたムーノが、したり顔で俺に話しかけてきた。


「ハハハハハッ、そりゃそうだ。知ってるよォ?冤罪だよ、え・ん・ざ・い!お前は俺にとって邪魔だから死んでもらうってだけだよ。これもひとつの政争だ、悪く思うなよ?安心しろ、お前の可愛い婚約者のエレノーラは俺が引き取ってやる!安心して惨死しなァ」


 にたにたと笑いながら、悪ぶれる様子も見せずに冤罪を吹っかけてきていると吹聴してくる。連れてきた騎士たちもそれは承知済みなようで冤罪で無実の人間を謀殺しようとしているのに動揺は無い。


「そんな、なんてことを……?!冤罪をかけるなんてそれこそ重罪だ!とうてい許される行為ではないじゃないか」


「ハハハッそういうのはロクな権力もないカスの理論だ。俺みたいな上級貴族ってのは国家権力を使って何しても許されるのさ!それが権力だ、地位が高けりゃなんだってできる、だからここでお前には消えてもらう!!」


「い、嫌だ、死にたくない……死にたくない!どうしてもか……?どうしても俺を殺すと言うのか?」


 死の恐怖に怯えながら懇願するが、そんな俺の様子にムーノと騎士たちは鼻で笑って心底愉快そうに声を上げている。俺を一方的に甚振って殺すことを楽しもうとしているような悪辣さを隠そうともしていない。


「どうしてもだよヘクトール。俺はお前をぶっ殺したくてウズウズしてんだからな。

 第一ここまでこうして乗り込んできて、今更やっぱりやめますなんて言うとでも思ったかこの馬鹿がァーッ!!

 ……それになぁ、絶望しながら死ぬためのスパイスに教えてやるが、エレノーラはもう俺のモノなんだよぉ!お前が手を出さずにいたエレノーラの貞操も何もかも、全部俺が頂いちまってるのさ!今じゃエレノーラもすっかり俺の虜だ、お前の事なんてこれっぽっちも頭に残っちゃいねーよ!寝取られゴミカス敗北者らしく、惨めに死になヘクトールゥ!!」


「――――そっかー。それじゃあやっぱり……死ぬしかないな、ムーノ・ゴミルカス」


 ここまで吐かせれば十分か、と思ったので今までの怯えきった態度や表情とうって変わって、余裕綽々と言った様子に切り替えてムーノに言葉を返す。


「な……何だ?!急に冷静になった?追い詰められておかしくなったのか?!」


 ムーノが動揺して怯んだ様子を見せるが、周囲の騎士の一人は俺の様子を気にせず……もしくは空気を読まずか、こちらに怒声を飛ばしてきた。


「貴様ァーッ!!子爵家の次男ごときがムーノ様に対して失礼だぞ!!なんだその口の利き方は?!」


「そんな事を言われてもなぁ。

 礼節を持って相対する人間には俺も当然敬意を持って接するけど、一方的な冤罪を吹っかけて命を狙ってくる輩に忖度なんてする必要ないだろ?

 例えばそれが―――人の幼馴染で婚約者の女を寝取った寝取り野郎で、女を奪うために権力に物を言わせて冤罪吹っかけてくるような奴にはさ」


「おまえ……その態度、まさか俺とエレノーラの事を知っていたのか?!最初から全部承知済みだったってのか?!」


 豹変した俺の態度に、全て承知の上でここまで誘い込んでいたことを理解したのかムーノが驚愕の声を上げる。

 正直言うとそのことを知ったのは最近なんだけど、持つべきものは良き友人ってやつだ。

 きっかけは、貴族学園に通っていた時に出来た友人達とは学園を卒業してそれぞれの領地に戻った今でも連絡をとりあっていて、そんな友達の一人からムーノの怪しい動きについて連絡があった事からはじまった。

 俺自身もエレノーラのそっけなくなった態度について思う事があり調べ始めていた矢先だったので丁度良いタイミングで、友人達の助力もあり色々調べた結果このアホ……もといムーノが、俺の婚約者に手を出してるのがわかった。それも貴族学園に通っていたときから関係があったらしい。

学園自体は半年程前に卒業したが、学園に通っていた時からこのアホと幼馴染は俺に隠れてよろしくやっていたようだ。


 そして人の婚約者を寝取ったというと外聞が悪いから権力にモノを言わせて強引にウチに冤罪を吹っかけて取りつぶして、逆賊を打倒し悲運の令嬢を救いだしたって筋書でエレノーラを妻に迎えるという算段を建てているのを知る事が出来たのだ。


「あぁ。だからお前達を待ち構えて一芝居うったのさ。ほら、よくみろよこの部屋には声や映像を録画する水晶が設置してあるだろ?お前の行いも言葉も全て録画されてるからもう終わりだよお前。

 人の婚約者に手を出したってのは……、まぁそれ自体やっちまった事はしょうがねーからあとは法に委ねて、エレノーラともども裁判を受けて、あとは人の婚約者と姦通した不貞の落とし前と賠償を済ませてから妻に迎えるなりすればよかったんじゃないのか?考えうる限りこれは一番の下策だろムーノ、今更だけどな」


「ハッ、吠えるなよ寝取られ野郎。

 お前は婚約者を奪われた負け犬なんだよ!!

 そんなタンカス野郎に侯爵家の俺が子爵家のお前に頭を下げて裁判なんてできるかボケが!!お前をぶっ殺してエレノーラを奪えば俺の立場もプライドも傷つかずにすべて手に入って丸く収まるんだよ。ここでお前をぶっ殺して証拠も全部波かいすれば問題ねーよなぁ!覚悟しなーっ、ぶっ殺してやる!!」


 駄目だ、話が通じませェん……。そしてぶっ殺すぶっ殺すと連呼してイキりまくるムーノの声に騎士たちが号令を待ってかチラチラとムーノの方を見ているが、その視線を感じてかムーノが満足げに頷き、手を頭上に掲げながら叫んだ。


「滅殺抹殺お前を瞬殺ゥーッ!!お前達、そのゴミカス敗北者を……ぶっ殺せェーッ!!」


「「「「「ウォォォォォォオギャォォーン!!!!!!」」」」」


 騎士たちが雄たけびと共に此方に向かって突っ込んできたが、その雄たけびは中ほどで激痛と苦痛の混じった情けない悲鳴に塗り替わり、次の瞬間には全員壁に叩き付けられるか地面に転がるかしていた。

 痛みに呻くもの、重症に意識を失う者、普通に即死している者それぞれだが、戦闘能力があるものはいない。


「そうだぁ!!ぶっ殺せ……ぶっころ……あ、あぇぇ?あぇぇぇぇぇぇぇっ!??!」


 文字通りに瞬殺された護衛の騎士たちの様子に呆然として、ムーノがパチパチと瞬きしながら間の抜けた声をあげている。


 ―――騎士達が突っ込んできた瞬間、俺は即座に机を跨いでジャンプしながらまず手近な騎士の胴体に跳び蹴りを見舞うと、蹴られた騎士は鎧を陥没させ口から血を吐きながら吹っ飛んでいき壁に叩き付けられて動かなくなった。

 それから近くにいた騎士の剣を持っている右腕をへし折り、そいつが持っていた剣を奪って左腕に突き刺して両腕を潰す。

 次の騎士の方へ飛びかかるように跳躍して胴体に抜き手を突っ込んで貫通させてから引き抜き、背後から近寄ってきていた騎士に対して振り向きざまに手刀を見舞って首を叩き落した。俺は元々1月生まれの山羊座だったから手刀には自信があるんだよネ!

 そして最後に残った騎士の懐に飛び込んで下から顎を蹴りあげて砕き、ムーノの前に立つ。

 この間数秒、文字通り目にもとまらない速さ。俺位強くなきゃ見逃しちゃうだろう。


「ぶっ殺すぶっ殺すとイキってないでさっさと殺すべきだな。まぁ、お前とは踏んだ場数が違うんだよ」


 そんな声をかけつつ手についた血をピッピッと振り払うとその血がムーノの顔に跳び、ムーノがやっと状況を……護衛の騎士があっという間に倒された事を理解し、腰を抜かして絶叫をした。


「ウワァァァァァァァァァァ!!」


 目を見開き、大きく開いた口からは歯や下が見える迫真の絶叫フェイスだ。まるで戦闘中の敵地で武装解除されて丸裸にでもされたかのような情けない顔芸だなぁなんて思ったけど大体あってるな!


「恐怖心、お前の心に恐怖心……って句を閃いたけどあまり良い句じゃないなぁ、季語がないし」


 なんて言って軽口を言っているように装いつつ、逃がさないように油断なく注視しながら距離を詰めていく。獲物を前に舌なめずりするのは三流以下だから俺は慢心しないのだ。


「お前は何を言ってるんだ?!ありえない……こんな事がある筈が……お、お前は貴族学園に通っていた時も、剣も魔法も人並み以下の劣等生のゴミカスだった筈……」


「あぁ、それか。すまんな、俺は素手が一番強くてね」


 言葉と共に満面の笑みのさわやかにこにこスマイルを浮かべると、ムーノは腰を抜かしたままズサササササとものすごい速さで手の動きで後ずさったが壁に追い詰められ、ヒィと小さく悲鳴を上げながら俺から少しでも距離を取ろうと壁に背中を押し付けてガタガタ震えている。


「……それじゃあお待ちかねのショータイム!人の女を寝取ったあげく冤罪で謀殺しようとした愚行に対しての、落とし前タイム……はじめよっか⭐︎」


「ヒ、ヒィィィッ、ひぎぃぃぃっ、い、嫌だァァァァァァァァァァアッ!!」


 ―――恐怖に怯える、幼子のようなムーノの絶叫が響くが、それに応えるものは誰もいなかった。

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