第3話 手も足も出なかった4年間

 ところで、そのような美人と、どうして知り合えたのか、皆さんは、疑問に思われる事だろう。



 これには、実は、ある大きな理由があった。

 何の事は無い。

 彼女の父親と、私の父親は、小学校の同級生であった。

 両親とも大正生まれで、当時は、小学校卒が当たり前だったらしい。



 それだけでは無い。彼女の父親は、職に運が無く、会社を変わる事に会社が倒産。



 当時は、高度成長期の真っ盛りの筈で、めったにそう言う事態は起きない筈なのだが、3回も続けて会社が倒産した事実に、まず倒産はあり得無い筈の市役所勤務の私との「見合い」に、彼女の父親が大賛成したと言うのが、どうもホントのところの話なのだ。



 彼女、上田安子ちゃん(仮名)は、その頃、丁度、満20歳で、正に、女性として最も美しい時代だった。

 彼女は、商業高校を卒業後、県庁所在地にある今でも名を変えて存在する大手の損害保険会社に勤務していた。 



 ここで、彼女の美人さを、どれ程強調しても、中々、信じて貰え無いだろう。

 そこで、現在のタレントさんに例えれば、浜辺美波さんや今田美優さんと同等、いや、軽くそれより上かも知れない、とここまで言えば、あるいは理解して貰えるかも知れないが……。



 ただし、小松菜奈さんとは、目付きが全く似ていない等で、比較出来ない事はここで言っておきたい。



 なお、「カクヨム」に投稿している、私の愚作『隣の殺人鬼!!!』の第一話に、この彼女をモデルにした女性を書いた一説が載っている。



 さて、彼女からの付き合いOKの返事があったので、私からデートに誘ってみた。



 国鉄(現、あいの風鉄道)の駅で、待ち合わせ。そのまま金沢市まで遊びに行く事になったのだが、この時の彼女のスタイルも、極簡素で、Tシャツに、例のミニスカート、スニーカーである。

 だが、思った以上に、胸が、大きいのだ。

 そして、彼女の自慢の真っ白い生足が、向かい同士で座ると、モロまる見えで(実はミニスカートのため、下着まで見えそうで)、こちらの心臓がバクバクして、目のやり場に困った程だ。



 金沢市で見た映画は、実在した見世物小屋の人物を題材にした『エレファント・マン』だった。



 映画を見終わって、香林坊や竪町あたりを一緒に歩いたのだが、

 ここで、私は、フト、ある恐怖に襲われた。



 それは、あまりの美人の彼女を連れて歩いているこの私と、彼女とは差がありすぎた事だ。何人かの男性が、このヘンテコなカップルを振り返って見て行く。

 だが、もし、チンピラグループに絡まれたら、果たして、この私は、彼女を守り切れるかとの、いらぬ心配が湧いてきたのだ。



 大学の入学当時、大学の空手部や日本拳法部に、入部を条件に見学に行くも、いかにも青白い文学青年のようなこの私の身体を見て、キャプテン自らが、「死ぬ危険がある」からと入部を断った程である。



 で、それから、三年間、猛烈に身体を鍛えた。勿論、勉強もだが。



 当時、漫画『空手バカ一代』や、映画『燃えよドラゴン』を見て発憤した私は、最盛期、親指と人差指の左右二本、計四本のみで、床から両足を持ち上げ逆立ちしたまま数歩ぐらい歩けるまでの、肉体改造に成功。

 で、下宿近くの剛柔流空手の私塾と、日本少林寺拳法を、週に一回、習いに行っていた。少林寺拳法では、茶帯(当時、確か3級)まで取ったが、黒帯を取る前に、大学を卒業。



 私の得意技は、自由自在に操れたヌンチャクと、独自に編み出した空中二段蹴りである。

 右足で相手の睾丸を蹴るそぶりを見せて、その真横を左足を伸ばしきって、相手の顎を蹴るワザである。想定身長、180センチの男性を倒す、必殺ワザだ。



 だが、この黒帯を持っているかいないかは、実に、心の余裕に差が生じるのである。

 私には、黒帯を取れなかった事が、どうしても心の底から強気になれなかったのだ。



 まあ、その日は、何も無くて、お互いの自宅に帰って来た。



 それがあってからは、彼女の送り迎えは、私の車で迎えに行った。



 さて、約2年間、あっと言う間に過ぎた。



 しかし、よくよく考えてみると、何とかこちらからデートに誘えるようになったとは言え、私は、彼女と手を握った事も無く、キスした事も無く、あの大きくてふくよかな胸を触った事も無かった。ましてアソコもだ。

 超奥手であった私には、それは結婚してからする事だと思っていたように思う。



 で、ある時、彼女が、それと無く、この私に言って来たのだ。



「私って、それほど、女性として魅力が無いのかなあ?」



 私は、彼女の言っている意味は、即、理解できたので、



「だって、ヤッちゃんは、僕には、天使のように見えるから、ちょっと、気後れしてねえ……」と、そう弁明したのだが、実は、私は更に入らぬ心配をしていたのだ。

 まあ、気が小さい、いや、神経質過ぎると言えば、それだけの事なのだが……。



 既に、両親も公認だから、ラブホにでも連れ込んでとの考えもあったのだが、果たして、これ程の美人に対して、緊張してアレが本当に起つのか、一抹の不安があったのである。



 ここで、しかし、彼女は、更にとどめの一言を言ったのである。



「あのう、私は、高校一年生の時に、既に男性と経験しています。立花さんの言われるような、天使では無くて、極、普通の女なんですよ……こう言う、女性は、イヤですか?好きになれますか?

 どうですか?」



 この時、車を運転中だった私は、あやうく事故を起こす程の衝撃を受けた。

 車が、一瞬、ドリフトした程だったのだ。



 一体、何処の誰だ。こんな美人と、Hをした人間とは?



 一応、やんわりと聞いてみると、もう別れてしまった高校の先輩らしかった。

 高校入学時の右も左も分からない彼女を、口上手く誘い出し、そのまま、アソコを触られて、抵抗する間も無い内に、入れられたのだと言うのだが……。



 この話を聞いて、私が更に自信を無くしたのは、容易に想像できるであろう……。



 結局、この一言が、最後のとどめとなったのか、この私は、徐々に、彼女との距離をおいて行く原因となったのである。



 と言って、二人とも、相思相愛だった事は、間違いが無かったのだが……。



 何故、そう断言できるかと言うと、何度誘っても一度も断れた経験も無く、また、彼女の私を見る目は、いつもいつも、もの凄く優しかったからだ。



 だが、結局、約4年間の交際中、手も握らず、キスもせず、あの大きくてふくよかな両胸を触る事も無く、ましてやHもする事も無く、この交際は、事実上、自然消滅となったのである。



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