第2話 奇跡の出逢い

 あれは、私が満26歳の時の夕方の丁度6時の事である。季節は、春を過ぎ、かといって暑い真夏でも無い、6月中旬の頃である。



 この満26歳と言うのは、この私にとっては、特別な年齢だった。



 高校生の時、上級生から非道な校内暴力を受けていた私は、勉強どころでは無かった。 

 で、高校生時代の2年間は、勉強と言えば、中間試験や、期末試験前の前日の一夜漬けのみだけである。



 これでは、いくら中学時代を学年トップクラスで出ていたと自慢していても、一夜漬けの勉強だけでは、碌(ろく)な知識が頭に残っていない。

 ちなみに、県内最低の普通科に進学した最大の理由とは、中学三年生になったばかりの5月中旬に、急性腎炎になり国立病院に緊急入院。

 その後、約三ヶ月半近く、休学した。夏休みの補修も全欠席。

 しかし、二学期になっても、学年上位は、一歩も譲らなかった。

 丁度、入院中の事とて、非常にリラックスして、病院のベッドで教科書や参考書を読んでいたからなのだろう。



 だが、この事により、体力にどうしても自身が持てず、自宅から、歩いて5分のその高校に行ったのだが……。



 しかし、いくら県内最低の普通科だとは言え、頭から馬鹿にしていた級友達も、高校三年時になって、急に、大学進学を言い始めた。



 これでは、かっての、ど田舎の中学の学年トップクラス卒業の名前が廃(すた)る事になる。

 しかし、私の高校では、まともな進路指導も無く、私は、国立大学一期校も、二期校も、私立大学も、受験科目は皆、同じだと思っていた程だ。



 まあ、このように、進路指導も全く無い、目茶苦茶の高校の普通科だった。



 で、とうとう、高校三年生の10月15日に、地元の警察署に駆け込んで、

「ここらへんで、良く、当たる占い師を紹介して下さい」と、頼み込んだ。



 渋々、教えて頂いた占い師は、四柱推命、方位学の権威で、私の自宅から南西45度の大学を受ければ受かると占ってくれた。家に帰って、三角定規片手に、日本地図を見たら、後に、私が進学する大学名が、小さくポツンと載っていた。



 更に、満24歳にならないと完全に就職出来ない事。(これも見事に的中した。私は、大学卒業後、某ファッション企業に就職し、半年で退職。地元の市役所の試験を受けて、翌年、再就職したからだ)



 最後の占いは、私が満26歳の時に出会う女性と結婚する、と言う予言である。



 既に、二つが的中しているため、この満26歳は、私にとっては、実は、ある意味特別な年齢になったのだ。



 そして、先程の、6月中旬の頃。



 正に、奇跡の出逢いがあった。



 その時の事は、一生忘れない鮮明な思い出として、強烈に私の記憶の残像に残っている。



 丁度、国鉄(現、あいの風鉄道)の、ループ状の駅前の駐車場で、見合い相手の彼女を待っていた私は、午後5時半前に、その駐車場に着いたのだが、今まで、数回、見合いしたものの、思い出すのも、はばかれるような人ばっかりで、全く期待していなかった。



 なので、カーステレオを聞きながら、気が抜けて、寝落ちしてしまった程だ。



 コンコンと、車のドアを叩く音で、目が覚めたのだが……。



 一瞬で、目が覚めた。



 丁度、夕日を背にして、その彼女は、車の横に立っていたのだが、

「何なんだ、この絶世の美人は!!!!」

 そう、思わざるを得ない程の、美しさ。

 しかも、夕日をバック立っているだけに、余計に、彼女のオーラが光り輝いていたように思えたのだ。



 両耳には白い貝殻か何かのイヤリング。白っぽいカーディガンを羽織り、スカートは、これも膝頭ぐらいまでのミニスカートとスニーカーで、彼女の「真っ白い」生足(なまあし)が、もろに私の両眼に飛び込んでくる。身長は、160センチ弱前後かなあ……。

 ともかく、元々、地黒の私には、彼女の白磁のような「色白さ」に、驚愕したのである。



「あのう、立花さんですか?」と聞いて来る声も、また、超絶的に、可愛いのだ。



 いやあ、私も、学生時代は、一学年6千人のマンモス私大に在学していたのだ。

 4学年全部合わせれば、2万4千人も在籍していた大学である。仮に、その1/3が女子学生だったとしても、8千人は、女性だった筈だ。

 超真面目学生だったこの私は、ほとんど授業を欠席した事が無かったのだから、毎日、何千人もの女性達と、学内ですれ違っていた筈だが、彼女の程の美人には会った事が無かったのだった。



 一応、「お見合い」と言う事なので、彼女を車に乗せて、近くのレストランに連れて行って食事を開始。



 彼女は、

「これ、美味しいわね。でも立花さんは食べられないの?」と、パクパク食べているが、こちらは、緊張して、たった一杯のホット・コーヒーを飲むのだけでも大変だった。



「いや、さっき、お腹が減ったので、駅の売店(当時は、「キオスク」と言った。)で、パンを沢山買って全部食べてしまったので、どうにも箸が進まないのです」と、弁明するのが関の山だった。



 まさか、こんな美人だとは、全く想定していなかったから、こちらも、自宅に帰ってから、落ち着いて、ジックリ考えてみた。

 まあ、どうせ一発で断られるだろうとの結論に達し、そのまま酒をガブ飲みして寝てしまった。



 それには、理由があった。既に、数回見合いしたが、もうこちらからお先にお断りしたい程の女性からですら、全て断れていたのである。

 この当時、女性の結婚相手は、『高身長、高学歴、高収入』が、大流行であった。……自分の事は、一切、棚に挙げてだ。



 しかし、この私は、身長は165センチ強前後、二流大学卒、給与は極少ないのだ……。



 しかし、二・三日経っても、仲人さんからは、断りの返事は無い。

 それどころか、何故か、これから交際しても良いとの事。



 だが、ここからが、トンデモ無い4年間が始まるとは、その時の私には、想像も出来なかったのだ。


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