第18話 和平交渉
今、地下牢ではカオスな状況が繰り広げられている。
天井には穴が開き、2人の人物を取り囲んで皆放心している。
そしてその中心にいるのは大魔王とそれを愛でる公爵夫人だ。
「馴れ初めはいつ?どこで?あの子のどこに惚れたの?」
普段からは想像も出来ないくらい興奮した母がディアにマシンガントークを仕掛ける。
「,,,会ったのは今日が初めて。,,,壁の外の木陰でお昼寝してたから声をかけた。,,,,,,,,,私にかわいいって言ってくれた。」
ディアは自分のペースで質問に答える。
もちろん顔は真っ赤だ。
「カーム、彼女は僕に話があるみたいだからそろそろ,,,」
足を震えさせながらおじさんは立ち上がり母に話しかける。
「そうだったわね。ごめんなさいね。出来ないと思っていた義理の娘に興奮して,,,」
「,,,いえ、お義母様。,,,とても楽しい時間でした。,,,これからも末永くお願いします。」
その言葉に母は撃沈した。
ディアは国王に向き直り深呼吸をして顔を元に戻す。
「,,,初めまして。私があなた達が恐れる大魔王ジエル=ディアブロスⅢ世。今日の話は単純。」
国王は必死に考えた。
たとえ自分があまり賢くないとはいえ、魔王がすることはただ1つ。
破壊である。
この魔王は礼儀を重んじるようだから、わざわざ宣戦布告をしに来たのだろう。
しかし、この国は先の革命によりまだ戦争ができるほどの余裕はない。
ここは自分の首で戦争を回避しようとした。
(まだ子供は成人すら迎えていない。成長を見届けられぬのは心残りだが、子供が生き残るのならば親として本望。悔いは無い!)
「どうかわしの首1つで,,,」
しかしその言葉を遮るように大魔王は口を開く。
「,,,和平を結びに来た。」
「へ?」
思いがけない言葉に国王が間の抜けた声を出す。
しかしその場にいたドイメーン家以外の者は同じ思い出あった。
「宣戦布告に来たのでは無いのか?」
「なんで?」
国王の質問に心底不思議そうに答える大魔王。
「魔族は魔物を生み出し、操り、人を憎み殺戮を楽しむのでは?」
国王が言ったのはこの世界の常識だ。
しかし、その問いに頬を膨らませ不満そうな顔で魔王は答える。
「,,,私たちは姿形が違うだけの人種。,,,魔物を生み出すなんで出来ないし、操るのはテイマーだけ。,,,手を出さなければ穏やかで優しい種族。」
衝撃の事実が発覚した。
ディアが話した内容は100年以上の間違えを正すものであった。
「そろそろ私たちも迷惑。戦争は無駄な死傷者を増やす。だから和平を結ぶ。」
「しかし、魔族は安全だと言う証拠は,,,」
「私たちが本気を出せば誰も生きて帰れない。私たちは強いけど自分から手を出さない。」
確かに魔族の目撃情報は多いが、被害報告は少ない。
それに、被害報告も『魔族のせいで雨が降らない』や『魔族のせいで植物が育たない』など魔族ではないような報告ばかりだ。
魔族のせいで死傷者が出たとしても先に手を出しているのはこちらばかりだ。
「わかった。しかしここではい、そうですかとは言えぬ。城の資料を片っ端から調べる故明日まで待たれよ。」
「,,,わかった。ここで待つ。」
すると王は気の抜けたようにため息をつく。
しかし、それは当たり前である。
目の前の少女は自分とは生物としての格が違う魔王である。
どれだけ自分が安全だと言われても、蛙は蛇の前では震えるしかない。
その威圧の中で話が出来るだけでも大したものである。
そして、蛇が安全であるなら蛙は蛇の不興を買ってはいけない。
その為、王は魔王を最大限もてなすことを決意した。
「部屋が必要だな。暫し待たれよ。すぐに用意をさせよう。」
「,,,その必要は無い。,,,ここで明日まで待つ。」
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