第10話 現実逃避

僕が目覚めると外で鳥が鳴いていた。

周りには地面に転がりながら寝ている神と精霊以外誰もいない。

チャンスだと思い二度寝をしようとすると部屋の扉が勢いよく開いた。


「アニキ!おっはよー!」


部屋に入ってきたのはジェナだった。

いや、僕のことをアニキと呼んだのならジェナではなく,,,


「アニキ!起きろ!」


そう言って僕の毛布を乱暴にひっぺがし、妹が安眠を妨げる。


「,,,おはよう。ヴィー」


この乱暴な妹はヴァイオレット。

ジェナの別人格。

ぼくの妹は二重人格でありひとつの体にふたつの精神が同居している。

二人の精神に優劣はなく、体の主導権は二人の話し合いで決まる。


「アニキ、お袋達が呼んでたぜ?多分ゆ,,,いや、昨日の件だと思う。」


ヴァイオレットは言葉は乱暴だが、賢く周りに気を使える優しい子だ。

その証拠に昨日僕が『勇者』という単語にダメージを受けていたのに気づき、その言葉を使わないように伝えてくれた。


「僕はこんなに優しい妹に恵まれて幸せだよ」


「な!?ば、馬鹿なこと言ってんじゃねぇ!くそ兄貴!さっさと行くぞ!」


顔を真っ赤にしたヴィーと一緒に僕は母の元に向かった。


「おはよう。ルイダ。」


「おはよう。親不孝者の息子よ。」


教会の客間のような場所にはいつも通りの母と明らかにやつれている父が挨拶をしてきた。


「おはようございます、母上、息子を生贄にしようとした父上」


僕は笑顔で挨拶を返す(父には睨まれた)


「早速だけど、今日の正午に腰抜,,,国王陛下に謁見するから準備をしておくのよ」


今国王陛下のことを腰抜けと言おうとした?


「嫌です!」


自分の意見を伝えると同時に体に魔力を纏い、窓に向かって走り出す。


「させないわ。『アンチマジック』」


「ルイダ!これ以上面倒を起こすな!『スリープ』」


父と母が僕に向かって魔法を発動する。

いつもなら身体強化が無効化されて眠りにつく。

しかし今日は魔力が霧散せず眠気も襲ってこない。

それどころかいつもより身体が強化され一瞬で窓を割り外に出ていた。


「なるほど、これが勇者スキルか。」


昨日の夜神が言っていた。

勇者スキルはユニークスキルの集合体。

ならば魔法への抵抗やブーストがあってもおかしくない。

スキルの知名度さえなければとても良いスキルかもしれない。知名度さえなければだが。


しばらく走り、振り返るともう教会は見えなかった。

これで謁見は逃げられるだろう。

しかし、ろくに金も持たずにでてきてしまった。

これでは城下街の中にいてもしょうがない。

そう思い僕は城壁を飛び越え寝心地の良さそうな森の木陰まで走った。


しかし、50mはある城壁を飛び越えられるとはさすが『勇者』スキルである。

昨日までなら30mも飛べなかっただろう。

そんな事を考えている内に木陰に到着する。

今はまだ朝の9時くらいである。

謁見をすっぽかすには少なくとも正午まで時間を潰さなければならない。

ならば昼寝をしようとそこに寝そべると横から声が聞こえてきた。


「おひるねするの〜?」


「おひるね〜」


「すやぁ」


誰かと思ったら昨日の精霊たちである。

この速度について来れるのは大したものである。


「あぁ、ちょっと嫌なことがあったから寝て忘れようと思って。」


「そっか〜。じゃあぼくたちもいっしょにおひるねする。」


「する〜」


「すやぁ」


という訳でみんなでお昼寝することが決まった。(もう1人既にねているが。)


「じゃあ僕は暗くなるまで寝るから君たちが起きた時に空が暗かったら起こしてね。」


「わかった〜。おやすみ〜。」


「おやすみ〜。」


「すやぁ」


精霊たちをアラームにして僕は目を閉じた。


「じゃあ、おやすみ」

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