第5話 癒しのデートプラン
土曜日の朝。
「旦那さま、朝ですよ!」
「……ん」
「起きてください、起きて!」
「分かった。分かったから、あんまり揺らさないで……」
「今日はデートですよ」
本当に楽しそうだな。
こんなに喜んでくれるなら、誘った甲斐がある。
「……って、まだ7時?」
「はい。私、5時に起きてメイクしたんです。いーくんとのデート、楽しみすぎて」
「……ありがとう。俺もすぐ準備するね」
休日にこんなに早く起きるのは久しぶりだ。いつも、平日の疲れのせいでずっと寝ているから。
「今日は1日中、いーくんを独り占めですね」
♡
「で、今日はどこに行きたいの?」
梢ちゃんは昨日、デートプランは任せてほしいと言っていた。
その言葉に甘えて俺は何も考えていない。
「今日は、とことん、いーくんを癒すデートプランを考えました」
「ありがとう。俺のこと気にしてくれて」
「だって私、いーくんのお嫁さんですから!」
得意げな顔で言った梢ちゃんが、俺の手を握る。
「行きますよ、旦那さま!」
♡
「まずはここです!」
「……猫カフェ?」
「はい。可愛い猫と触れ合ったら、癒されるかなって」
俺は昔から、犬より猫派だ。
梢ちゃんはきっと、それも覚えてくれてたんだろうな。
二人で店に入る。
予約をしているため、スムーズに入店。
「見てください、いーくん。可愛い猫がいっぱいですよ?」
「本当だ」
「餌も買えるみたいです」
「せっかくだし、あげようか」
「はい!」
猫カフェにくるのは初めてだ。
気にはなってたけど、一人じゃこようなんて思わなかったし。
これも、梢ちゃんのおかげだな。
「いーくん、いーくん。どの猫が1番可愛いですか?」
「そうだなあ……」
「ちなみに私のおすすめは……」
「にゃん!」
これ、突っ込んだ方がいいのか?
「梢にゃんこおすすめですよ、旦那さま。にゃー!」
あーもう、可愛いな、本当に。
♡
「お昼ご飯はここです!」
「土鍋ご飯……?」
「はい。SNSで調べたんです。あったかい味に癒されるって評判なんですよ」
梢ちゃん、本当に俺のことを癒そうとしてくれてるんだな。
「ありがとう、梢ちゃん」
「旦那さまのためですから!」
梢に引っ張られ、店に入る。
「いーくん、どれにします?」
「そうだなぁ」
「お肉系も美味しそうですし、魚介系もいいですよね」
「いっそ両方頼んで半分ことかする?」
「わ、いいですね!」
梢ちゃん、今日ずっと笑ってるな。
俺もだけど、梢ちゃんも今日のデート、楽しんでくれてるんだろうなぁ。
「梢ちゃん」
「はい」
「デート、楽しいね」
「はい、旦那さま!」
「……ちょっと声大きいかも」
周りの視線が痛い。
そりゃあそうだよな。こんな冴えない男と、こんな美少女が一緒にいるんだから。
だけど……。
梢ちゃんが笑ってくれるなら、周りの視線なんてどうでもいい。
「私、これがいいです。鮭といくらの炊き込みご飯!」
「いいね。じゃあ、お肉系は鶏めしとかどう?」
「最高です! 私たち、食の好みも一緒ですね」
「そうだね」
「これはもう、入籍待ったなしです」
……本当ブレないなあ、梢ちゃんは。
♡
店から出て、少し歩く。
そして、梢ちゃんが足を止めた。
「そして、今日のメインはここです!」
「わ……プラネタリウム?」
「そうです。プラネタリウムです」
プラネタリウム……か。
確かに癒されそうではある、けど……。
「もしかして、寝ちゃうかもって心配してますか?」
「……うん。ごめん」
小学生の頃、学校の行事でプラネタリウムへ行ったことがある。
でも、内容は全く覚えていない。
俺、すぐ寝ちゃったんだよね。
「眠かったら、寝てもいいんですよ?」
「え?」
「今日の目的は旦那さまを癒すこと。だから別に、プラネタリウムで寝ちゃったっていいんです」
「梢ちゃん……」
ぎゅ、と梢ちゃんに手を握られる。
「ちなみに、カップルシートで予約してますから」
「……ありがとう」
「もしかしたら、私も眠っちゃうかもしれませんけど……その時は、許してくださいね」
♡
「プラネタリウム、面白かったですね!」
「うん。寝ちゃうかなとか思ったけど、全部聞いちゃった」
「私もです。旦那さまと一緒だったからかも」
梢ちゃんがナチュラルに腕を組んできて、声が近くなる。
「スーパーに寄って帰りましょう。夜はお家でのんびりです」
「いいね」
「まあ、今すぐ休憩できるところに行っちゃってもいいんですけど?」
挑発するような声だが、どこか照れもある。
「そういうこと言わないの」
「……はーい」
今日のデート、本当に楽しかったな。
こんなに楽しい休日、いつぶりだろう。
「ねえ、いーくん」
「なに?」
「私、男の人とデートしたの、今日が本当に初めてなんです」
ふふ、と幸せそうに笑う梢。
「初めてが、いーくんでよかった」
「梢ちゃん……」
「他の初めても全部、いーくんがいいな」
梢ちゃんには、俺なんかよりいい人がいるよ。
その一言が、どうしても言えなかった。
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