第5話 癒しのデートプラン

 土曜日の朝。


「旦那さま、朝ですよ!」

「……ん」

「起きてください、起きて!」

「分かった。分かったから、あんまり揺らさないで……」

「今日はデートですよ」


 本当に楽しそうだな。

 こんなに喜んでくれるなら、誘った甲斐がある。


「……って、まだ7時?」

「はい。私、5時に起きてメイクしたんです。いーくんとのデート、楽しみすぎて」

「……ありがとう。俺もすぐ準備するね」


 休日にこんなに早く起きるのは久しぶりだ。いつも、平日の疲れのせいでずっと寝ているから。


「今日は1日中、いーくんを独り占めですね」





「で、今日はどこに行きたいの?」


 梢ちゃんは昨日、デートプランは任せてほしいと言っていた。

 その言葉に甘えて俺は何も考えていない。


「今日は、とことん、いーくんを癒すデートプランを考えました」

「ありがとう。俺のこと気にしてくれて」

「だって私、いーくんのお嫁さんですから!」


 得意げな顔で言った梢ちゃんが、俺の手を握る。


「行きますよ、旦那さま!」





「まずはここです!」

「……猫カフェ?」

「はい。可愛い猫と触れ合ったら、癒されるかなって」


 俺は昔から、犬より猫派だ。

 梢ちゃんはきっと、それも覚えてくれてたんだろうな。


 二人で店に入る。

 予約をしているため、スムーズに入店。


「見てください、いーくん。可愛い猫がいっぱいですよ?」

「本当だ」

「餌も買えるみたいです」

「せっかくだし、あげようか」

「はい!」


 猫カフェにくるのは初めてだ。

 気にはなってたけど、一人じゃこようなんて思わなかったし。


 これも、梢ちゃんのおかげだな。


「いーくん、いーくん。どの猫が1番可愛いですか?」

「そうだなあ……」

「ちなみに私のおすすめは……」


「にゃん!」


 これ、突っ込んだ方がいいのか?


「梢にゃんこおすすめですよ、旦那さま。にゃー!」


 あーもう、可愛いな、本当に。





「お昼ご飯はここです!」

「土鍋ご飯……?」

「はい。SNSで調べたんです。あったかい味に癒されるって評判なんですよ」


 梢ちゃん、本当に俺のことを癒そうとしてくれてるんだな。


「ありがとう、梢ちゃん」

「旦那さまのためですから!」


 梢に引っ張られ、店に入る。


「いーくん、どれにします?」

「そうだなぁ」

「お肉系も美味しそうですし、魚介系もいいですよね」

「いっそ両方頼んで半分ことかする?」

「わ、いいですね!」


 梢ちゃん、今日ずっと笑ってるな。

 俺もだけど、梢ちゃんも今日のデート、楽しんでくれてるんだろうなぁ。


「梢ちゃん」

「はい」

「デート、楽しいね」

「はい、旦那さま!」

「……ちょっと声大きいかも」


 周りの視線が痛い。

 そりゃあそうだよな。こんな冴えない男と、こんな美少女が一緒にいるんだから。


 だけど……。

 梢ちゃんが笑ってくれるなら、周りの視線なんてどうでもいい。


「私、これがいいです。鮭といくらの炊き込みご飯!」

「いいね。じゃあ、お肉系は鶏めしとかどう?」

「最高です! 私たち、食の好みも一緒ですね」

「そうだね」

「これはもう、入籍待ったなしです」


 ……本当ブレないなあ、梢ちゃんは。





 店から出て、少し歩く。

 そして、梢ちゃんが足を止めた。


「そして、今日のメインはここです!」

「わ……プラネタリウム?」

「そうです。プラネタリウムです」


 プラネタリウム……か。

 確かに癒されそうではある、けど……。


「もしかして、寝ちゃうかもって心配してますか?」

「……うん。ごめん」


 小学生の頃、学校の行事でプラネタリウムへ行ったことがある。

 でも、内容は全く覚えていない。

 俺、すぐ寝ちゃったんだよね。


「眠かったら、寝てもいいんですよ?」

「え?」

「今日の目的は旦那さまを癒すこと。だから別に、プラネタリウムで寝ちゃったっていいんです」

「梢ちゃん……」


 ぎゅ、と梢ちゃんに手を握られる。


「ちなみに、カップルシートで予約してますから」

「……ありがとう」

「もしかしたら、私も眠っちゃうかもしれませんけど……その時は、許してくださいね」





「プラネタリウム、面白かったですね!」

「うん。寝ちゃうかなとか思ったけど、全部聞いちゃった」

「私もです。旦那さまと一緒だったからかも」


 梢ちゃんがナチュラルに腕を組んできて、声が近くなる。


「スーパーに寄って帰りましょう。夜はお家でのんびりです」

「いいね」

「まあ、今すぐ休憩できるところに行っちゃってもいいんですけど?」


 挑発するような声だが、どこか照れもある。


「そういうこと言わないの」

「……はーい」


 今日のデート、本当に楽しかったな。

 こんなに楽しい休日、いつぶりだろう。


「ねえ、いーくん」

「なに?」

「私、男の人とデートしたの、今日が本当に初めてなんです」


 ふふ、と幸せそうに笑う梢。


「初めてが、いーくんでよかった」

「梢ちゃん……」

「他の初めても全部、いーくんがいいな」


 梢ちゃんには、俺なんかよりいい人がいるよ。


 その一言が、どうしても言えなかった。

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