第13話
「おじいちゃん。刀持ってあげるよ」
左手で杖、右手で刀を持っている。
両手が塞がってる今、その申し出がありがたかった。
「重いから気をつけてな」
麗は小さい身体で受け止めるように刀を抱えた。
「どこに売りに行くの」
「駅の近くの骨董品屋じゃよ。名前は」
思い出せない。顎に手を当てていると助け舟。
「ぼくが調べてあげる」
「本当かい。ついでに一休みしよう」
近くのベンチに腰掛ける。
麗がポケットから板状の物を取り出し、指を滑らせる。
「何してるんだい」
「スマホで検索してる」
「ん、スマホ」
「おじいちゃん、知らないの」
画面いっぱいに地図が映っている。
「あ、携帯電話の事か」
麗が下から覗き込んできた。
「もちろん持ってるよね」
「これより古い型だったかな。半分に折れてボタンがいっぱいの」
「今度見せて」
「分かった。探しておくよ」
「約束だからね」
どこにあったか思い出そうとしている間に、麗が店を調べてくれた。
「今度スカイツリー行ってくる」
「あんな高い所に行くのか。登るだけで一日過ぎてしまいそうな」
「何言ってるの。エレベーターで上るんだよ」
「てっきり階段で登るかと」
「もう。お土産は何がいい」
「楽しい土産話を聞かせてくれれば充分じゃよ」
お月見階段に差し掛かる。
夜になると間近に迫った月がとても綺麗に見れる場所。
しかし足腰の弱った望にとっては難所でしかない。
手摺に捕まり、石橋を叩くように杖と両足を使って降りていく。
「手、貸そうか」
「いや、一人で降りれるよ。ありがとうな」
残り半分まで降りたところで息が上がり動けなくなってしまった。
「すまん。ちょっと休憩してもいいかな」
「うん。登ってくる人いないから、座って座って」
腰をおろし、痛む足をさする。
「歳なんて取りたくないなぁ。夢も叶わず、金ばっかり無心されて。なんで生きてるのかなぁ」
「おじいちゃん」
「すすまん。つまらない話を聞かせてしまった。今のは忘れてくれ」
麗が隣に座る。
「おじいちゃんは、叶えたい夢はあったの」
「夢か、麗と同じくらいの頃は」
「おじいちゃんがランドセル背負ってたの想像できないや」
「わしにだって子供の頃はあったんじゃ。何の話だったっけ」
「叶えたかった夢」
「そうそう。わしが小さい頃はテレビでたくさん時代劇がやっていた。テレビは見るかい」
麗は首を左右に振った。
「主人公が刀を振るう度、悪者がバッタバッタと倒れていく。わしも刀を振り回したい。そう思った時期もあったんじゃよ」
今や刀を持っただけで息が切れる身になってしまった。
「麗は夢あるのかい」
「あるよ。おじいちゃんとお父さんお母さんが仲直りすること」
望は「えっ」と声が漏れたきり口が開きっぱなしで固まる。
「理由は教えてくれないけれど、おじいちゃんに会っちゃ駄目っていつも言われるんだもん。そんなのやだよ」
麗が望の腕を掴む。
「ぼくも手伝うから。仲直りしようよ。そしてみんなで暮らそう。ね」
麗の両親との関係は修復不可能。
だが、この子が間に入ってくれるのなら。
「分かった。今度、みんなで話し合ってみよう」
「やった。今日帰ったら二人にも伝えておく」
「頼んだぞ」
麗の笑顔を見たら、足の痛みが嘘のように引いていた。
「じゃあ、ささっと刀を売りに行こうかな」
「うん。えっ今の声なに」
上から聞こえてきた悲鳴は思わず首を動かすのに十分な効力を持っていた。
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