第二章 炎の中を進め 第7話
「コミックみたいなクソ任務だ」
俺が会議室の扉をノックしようとした時だった。
悪態を吐きながら男が出てくる。
ぶつからないように脇にどくと、眼中にないようでこちらを見ようともしない。
胸元を扇ぎながら、金髪のオールバックで全く同じ顔をした四人が、文句を言いながら遠ざかっていく。
首からドックタグを提げている。初めて見る交差した槍のワッペン。ここにいるという事は不法侵入ではないだろう。
「入ったらどうだね」
開けっ放しのドアの内側から、呼びかけられた。
「はっ。失礼します」
ドアを閉め、用意されたパイプ椅子に座る前に敬礼。
「
「
階級章から曹長だと判断。
「失礼します」
手近な椅子に腰を降ろし、ハンカチで汗を拭う。
作戦会議に似つかわしくないポータブル冷蔵庫が置かれている。
今度の任務の事を考えると喉が渇いてきた。
任務に集中するために雑念を振り払っていると、残りの三人が入ってくる。
五人が集まったところで玉鋼曹長が立ち上がる。
俺たちも続いて席を立った。
「任務の指揮を担当する
初対面の男が最初に立ち上がる。
「では、一番遅く到着した自分から。
玉鋼曹長に言われるまで、棒が入ったように背筋を伸ばした敬礼姿のまま微動だにしない。
次は唯一の女性隊員。
「
額に添えた手は真っ直ぐ伸び、まるで鋭いナイフのようだ。
猫鮫二曹は玉鋼曹長だけを見て、俺たち三人には目もくれない。
彼女が着席すると、前の席に座っていた顔見知りが会議室を見回す。
「オレは
上官がいるにも関わらず、猫鮫二曹にウィンクする。
あいつ、相変わらずだな。
「ねえねえ。苗字に猫がつくなんて可愛いね。この任務が終わったら飲みに行かない」
「猫鮫って何か知ってる」
蛇革の奴、顔を寄せられて鼻が伸びている。
「さあ、サメの着ぐるみを来た猫、いや猫の着ぐるみを着た鮫だろ」
伸ばした蛇革の手を猫鮫二層が掴む。
鼻の下を伸ばした蛇革の表情がしわくちゃの梅干しのように歪んだ。
猫鮫二曹に思いっきり手を握りしめられたからだ。
「猫鮫は別名サザエワリともいうの。今度近づいたら全身の骨を握りつぶす」
大きな音がした。見れば後ろにいた鼯二曹が椅子から転げ落ちている。
蛇革は自分の手に息を吹きかけている。
俺は声を出して笑いそうになるのを何とか耐えていた。
上座からの咳払いに俺たちは一斉に姿勢を正す。
「この作戦を成功させる為に君達が打ち解けるのは大いに結構。だが時間が限られている。始めてもいいかな」
玉鋼曹長は額の汗を拭った。
俺を含めて皆、異論はない。はずだったが、蛇革が手を挙げた。
「曹長殿。質問があります」
「任務に関係ない質問は遠慮してもらいたい」
「大いに関係あります」
引き下がろうとしない。
「分かった。しかし手短に」
「ありがとうございます。エアコンをつけてもよろしいでしょうか。蒸し暑いのですが」
確かに室内にいるのに汗が止まらない。エアコンはあるのに節電中か稼働していない。
「この部屋の空調は故障しているんだ」
「それは残念」
舌を出した顔に向けて、手で送風をし始めた。
「代わりにこれを受け取ってくれ」
同じように汗をかいている玉鋼曹長が、側にある小さな箱のドアを開ける。
中から冷気が溢れ、近くにいた俺の肌を冷やす。
「一人一本ずつある。今回は緊急事態なので、これを飲みながら話を聞くことを許可する」
「自分が運びます」
鼯二曹が勢いよく飛び上がる。人数分の飲み物を受け取ると、俺達に配ってくれた。
水滴のついたペットボトルは視覚でも触覚でも冷たさが伝わる。
上官の前とはいえ、喉の渇きに抗えず開封すると、パキッと小気味良い音を立てて封が開く。
一口飲むと、冷えた水分が細胞に染み込んでいくようで心地良い。
「みんな一息つけたようだな。では今作戦の説明を始める」
プロジェクターが光を発し、スクリーンに投影する。
画面いっぱいに真上から撮影された炎が現れる。
「四人にはこの中に突入してもらう」
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