第25話



「はぁ、」


ぼんやりとした頭で、シェフのことを考えていた。元カノのことが頭から離れない。


あれから何度もシェフに元カノのことを聞こうとした。だけど無理だった。


元カノとよりを戻したいなんて言われたら…。


「…乃!莉乃!」

律の声が遠くから聞こえてくる。


「っ、あ、ごめん。なに?」

ハッと我に返り、律の顔を見る。


「さっきからずっと呼んでるのに」


律が少し怒ったように眉をひそめる。


「ごめんごめん。で、何の話?」

律の怒りを和らげようと、笑顔を作る。


「最近ぼーっとしてること多いけど」

「そうかな、」


無意識のうちにシェフのことばっかり考えてるのかも。


「…やっぱり俺のせい?」

律の言葉に、少し驚く。


「え?」


どうしてそんなことを…。


「俺が莉乃にシェフの元カノの話したから」


律の言葉に、胸が締め付けられる。


確かに、その話を聞いてからずっと気になっていたのは事実だけど…。


「えーっと…、」

言葉が詰まる。


どう答えたらいいんだろう。


「悪い。莉乃がシェフのこと好きなの知ってるのにあんなこと言って」

律の謝罪に、少し申し訳ない気持ちになる。


「いいよ別に、気にしてないから」

無理に笑顔を作る。


シェフに本当のことを聞けずにいる私に責任がある。


「とか言って、気にしてるくせに」


「そりゃ、気にはしてるけど、」


別に律のせいかって言われたらそうでも無いし。


「よし。行くか」

律の突然の提案に、少し驚く。


「え?行くってどこに」

何を言い出すんだろう。


「この前言ってたとこだよ」

律の目が輝き、期待に満ちた声で言う。


「この前…あ、新しく出来たカフェ?」

思い出しながら、律の提案に興味を示す。


「そうそう。こういう時は甘いものに限るだろ」

律の言葉に、少し笑顔が戻る。


甘いものなら気分も少しは晴れるかもしれない。


「でもあそこ結構人気でしょ?」

平日でも30分以上待たないといけないって、この前誰かが言ってた。


私のために付き合わせるのは申し訳ない。


「並ぶの苦手?」


「いや、平気だけど…」


律はいいんだろうか。


「じゃあ決まりな」

「律はいいの?並ぶのしんどくない?」


律が甘党なのは知ってるけど、並んでまで甘いものが食べたいんだろうか。


「俺この前二時間並んでパンケーキ食べたけど」

「え、そうなの?」


それは初耳


「俺のことは気にすんな。もちろん詫びも兼ねて俺の奢りだから」


「ふふ、ありがとう」


シェフは甘いもの好きじゃなさそうだし、相手が律なら気にしないだろう。


もちろん律と出かけることを伝え、ちゃんと許可ももらい、お目当てのパフェを食べに行くことにした。


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