シェフが私のことを好きになる確率

第17話

「律お疲れ様」

「おつかれー！気をつけて帰るんだよ」

「はーい」

今日も忙しい一日が終わった。

肩を回しながら店を出るとそこには人影が…

まさか、と思いながらも、足がすくんだ。

「莉乃」

人影の正体は、恭介さんだった。

「恭介さん…？どうしてここに、」

驚きと戸惑いが入り混じった声が出た。

心の中で再び嵐が吹き荒れた。

「話があって」

もう来ないだろうと思って油断していた。

「帰ってください」

視線を逸らしながら、冷たく言い放った。

「莉乃、」

彼の声が私の名前を呼ぶたびに、心が締め付けられるようだった。

「お願いだから帰って！今更、会いに来られても迷惑なだけなの…！」

ようやく恭介さんのことを忘れて、新しい道を歩き始めたのに、また過去に引き戻されるなんて。

「そうだよね、ごめんね。だけど、これだけは受け取って欲しいんだ」

「な、んですか」

彼の手には小さな箱があった。

「ネックレスだよ」

ネックレス？

どうして私に？

もしかして、これを渡しに待ってたの？

そうだとしても、貰う理由がない。

「こんなの貰えないです」

心の中で葛藤しながら、拒絶の言葉を口にした。

「受け取って欲しい。三年前から莉乃のものだから」

三年前って、まだ私たちが付き合っていた時、

「何言って…」

恭介さんの言葉に、心が揺れた。

「杏奈と浮気なんてしてないんだ。信じて貰えないかもしれないけど、これが真実だから」

彼の真剣な目を見つめると、心が揺れ動いた。

だけど、今更そんなこと言われても、信じられない。

「恭介さんは私に嘘をついて杏奈さんと出かけてた」

その時の私の気持ちなんて恭介さんには分からない。

怒りと悲しみが交錯する。

「え？」

「男友達と遊びに行くって言ったくせに杏奈さんと会ってるところたまたま見たの」

それも、私の誕生日の前日に。

思い出すだけで胸が痛む。

「それは、」

恭介さんの顔が曇った。

「誕生日に杏奈といた事は事実だよ。それには訳があって、」

私だって、初めはそう思った。

恭介さんは浮気なんて絶対にしないって信じたかったから。

どうしても会わないといけない訳でもあるんだろうと思ってた。

だけど、

「そうだと思って、恭介さんのことを信じて、何も言わずに家に帰った。だけど、何時間待っても恭介さんは家に帰ってこなかった。私、ずっと待ってたんだよ…？」

涙が溢れそうになった。

恭介さんは何も言わない。

「なんとか言ってよ、」

彼の沈黙が、さらに心を締め付けた。

「その帰りに事故にあったんだ」

「…え、」