第18話

「車に轢かれそうになった子供を助けた時に、足を骨折しちゃってね」


「そんなこと…」


事故が起きたなら、知らされないはずがない。


「病院の方が何度も連絡してくれたけど、繋がらなかったんだって」


「そういえば…夜何度も電話が来たけど、言い訳なんて聞きたくなかったから取らなかったんだ…。もしも取ってたら、会いに行けたのに」


後悔が胸を締め付ける。


もしも電話を取っていたら…。


一回でも取れば…。


「俺が電話した時にはもう既に使われていなかったから、」


恭介さんとの思い出を消したくて、だけど消せるはずがなくて。


「ごめん」


もういっその事手放してしまおうと思ったんだ。


「入院してる時も、ずっと莉乃の事を思ってた」


言葉が出ない。


心が揺れ動く。


「誤解さえなければ、俺達は今でも付き合っていたかもしれないね、」


彼の言葉が胸に刺さる。


「そうとも知らず、私は浮気されたとばかり…」


「ごめんなさい。」


涙が溢れそうになる。


「いいよ。莉乃がそうした気持ちも分かるしね。浮気だと思わせちゃった俺が悪いよ」


彼の優しさに、胸が痛む。


「恭介さん…」


「莉乃には彼氏がいるし、諦めようと思ったけど、どうしても誤解を解いておきたくて。これもどうしても受け取って欲しくて。…貰ってくれる?」


感謝の気持ちが溢れる。


「うん。ありがとう」


彼の笑顔に、少しだけ心が軽くなる。


「よかった。ところで、…彼氏ってなんの話し?」


私には彼氏なんていないのに。


「え、彼氏いないの?」


「いないよ?」


誰と間違えてるんだろう。


「じゃあこの前仕事帰りに一緒に帰ってた人は誰?」


「この前…?」


私は常に一人で帰ってるけど?


「1ヶ月ぐらい前に、どうしても莉乃と話がしたくて一度お店を出たものの、店の近くで待ってたんだよ。そしたら男の人と出てきて」


あぁ。


「シェフ…?シェフは彼氏じゃないよ」


思い出しながら、少し笑って答える。


「そっか、彼氏いなかったんだ」


「彼氏じゃないけど…私の好きな人だよ」


「今度は上手くいくといいね。」

彼の言葉に、少しだけ心が温かくなる。


「うん。ありがとう」


彼の優しさに、感謝の気持ちが溢れる。


「こんな時間だし送っていくよ」


「一人で帰れるよ」


「俺が送りたいの。少しでも莉乃と一緒にいたくて」


彼の真剣な表情に、断れない。


そんな顔されたら…


「じゃあ、お言葉に甘えて、」


そうして、家まで送ってもらうことになった。


「…俺と別れてから彼氏できた?」

「出来るわけないよ」


恭介さんと付き合えたのだって奇跡みたいなものなのに。


「ほんとに?莉乃可愛いから、男が逃すはずないのにな〜」


彼の言葉に、少しだけ笑顔が戻る。


恭介さんはいつも、こうして私のことを愛でてくれていたのに。


「そんな風に思ってくれるのは恭介さんだけだよ。 恭介さんの方こそ彼女の一人や二人ぐらいいたんじゃないの?」


人懐こくて優しくて、周りには常に人がいて…、




「できないよ。俺には莉乃しかいないから」


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