第6話


皿洗いを終えると、疲れた様子でエプロンを外しているシェフが近づいてくる。


「莉乃、お疲れ様」

「シェフ、お疲れ様です」


「じゃあ、早速やるか」

「はい。よろしくお願いします」


「今日は基礎から見ていく。まずは、包丁の使い方からだ。野菜を均等に切ることが大事だからな」


そう言いながら、シェフが手本を見せてくれた。


「こうですか?」

「うん。包丁の使い方はそれでいい。次は…」


その後も、シェフの指導は続いた。


「そうだ、いい感じ。次は火加減の調整だ。焦らずに、じっくりと。」


慎重に料理を進める中、シェフが優しくアドバイスを続ける。


私はメモを取りながら、指示通りに動いた。


「莉乃は本当に真面目だな。その姿勢があれば、きっと上手くいく」


「ありがとうございます、シェフ。少し自信がついてきました」


シェフは微笑みながら、さらに具体的なアドバイスを続けた。


「次はソースの作り方だ。味のバランスが大事だから、少しずつ味見しながら進めてみよう」


シェフの言葉に従い、慎重にソースを作り始めた。


シェフは時折手を貸しながらも、私が自分で考えて進めるように促した。


「そうそう、その調子だ。味見してみて、どうだ?」


「はい、美味しいです。でも、もう少し塩が必要かもしれません」


「いい判断だ」


シェフのアドバイスを受けながら、少しずつ自信を深めていった。


シェフの優しい指導と励ましのおかげで、私は料理の楽しさを再確認することができた。


昔から料理をすることが好きだった。


だけど、周りに置いていかれて、焦って、気づいたら、料理の楽しさをすっかり忘れていたみたいだ。


それを、シェフはまた思い出させてくれた。


「今日はここまでにしよう。明日からは少しずつ実践してみようか」


てっきり今日で終わりだと思っていたのに、まさか、明日も直々に教えて頂けるなんて。


「はい、シェフ。ありがとうございます」


シェフの指導が終わり、私は厨房を後にした。


外に出ると、夜風が心地よく、疲れた体を癒してくれる。


「莉乃、今日は遅くなったから、家まで送っていくよ」

とシェフが優しく言ってくれた。


「ありがとうございます。でも、大丈夫です。家は近いので、歩いて帰れます」


一緒に帰れるのは嬉しいけど、私のせいで遅くなったのに、その上送って貰うなんて気が引ける。


「そうか、じゃあ気をつけて帰れよ」


シェフは少し心配そうに言ったが、私の決意を尊重してくれた。


「はい、シェフ。今日は本当にありがとうございました。お疲れ様でした」


感謝の気持ちを込めて頭を下げると、シェフも微笑んで応えた。


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