第5話

「莉乃、そろそろ起きろ」


ぼんやりとした意識の中で、誰かの声が聞こえた。目を開けると、


そこには…


「んん、、うえぇぇ、なんで、シェフが…!」


シェフが立っていた。


驚きと混乱で声が裏返ってしまった。


シェフは苦笑しながら答えた。


「すごい声」


シェフがいるってことは、ここはシェフの家…?

いや、何で!?


思い出そうとすると、頭が痛くなる。


「すみません、えっと、どうして私はシェフの家にいるんでしょうか、」


昨夜の記憶がぼんやりと蘇る。


お酒を嗜んで、調子に乗って沢山飲んでたら酔っちゃって、寝ちゃって…


そして、目が覚めたらここにいた。


「昨日莉乃が寝て、どれだけ起こそうとしても起きなくて。誰もお前の家がどこにあるか知らなかったから連れて来た」


「本っ当に、すみません!」


顔が真っ赤になるのを感じながら、深く頭を下げた。


またまた迷惑をかけてしまった。


「別にいい。それより、朝ごはん作ったから冷めないうちに食べて」


シェフの声は優しかったが、その言葉に驚きが隠せなかった。


「朝ごはんまで用意させてしまって、すみません、」


申し訳なくて、頭が上がらない。


「いいって。一人分も二人分も変わらないから」

「すみません、、ではお言葉に甘えて、いただきます」


やっぱりシェフの腕はすごい。

こんな美味しい朝ごはん初めてだ。


「…実は、お前に話があるんだ」

「何ですか?」


いつにも増して真剣な顔。


そんなシェフの顔も好き…


なんて言ってる場合じゃないんだけど。


「そろそろキッチンに立ってみないか?」


その言葉に心臓が跳ね上がる。


それってつまり、

「私が料理を…?」


「あぁ」

シェフの返事は簡潔だったけど、その目は真剣だった。


「えっ、でも…まだ無理です。シェフの店で料理を作れるような技術なんて、まだ私にはありません」


そう言って貰えて嬉しい。


だけど、不安と戸惑いが胸に広がる。


「莉乃はきっとうまくできる」


「でも、どうして…」


なぜ私にそんなことを?


「残って練習してたところを何度も見てきたが、莉乃にはその素質がある」


シェフの言葉には、経験からくる確信が感じられた。


練習してたところ見られてたんだ。

私に関心なんてないと思っていたのに、


ちゃんと、評価して認めてくれてる。


「ですが…」


「直ぐにとは言わない。月曜日の夜、少しだけ時間を取って、一から教えてやるよ。だから、そんな心配すんな」


シェフの真剣な眼差しに心を動かされる。


「分かりました。お願いします、シェフ」



心の中で決意が固まった。

シェフの信頼に応えたい、その一心だった。

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