第3話
「莉乃!」
「律、シェフは?」
「あそこ」
見るからにすごく怒っていらっしゃる。
当たり前に私が悪いんだけど
「…シェフ」
「座れ」
「失礼します」
「…」
私から、話さないと。
「急に辞めてすみませんでした」
「どうして、俺に何も言わなかった」
「…」
「理由を話してくれたら、それでいい。無理強いしようなんて思ってない」
やっぱり、そうだよね。
「...だから言えなかったんです」
「は…?」
「止めてくれないだろうと思ったから」
「...どうして辞めたいんだ」
「私が、何の役にも立ってないと思ったからです」
それどころか、迷惑をかけてばっかりだった。
「そんなわけ...!」
律が何か言いかけた時、シェフが手を挙げて言葉を遮った。
「なんでそう思ったんだ?」
私はちっぽけな存在だったんだって思い知らされるから。
「私は毎日謝ってばっかりだったけど、一度も感謝されたことがなかったからです。毎日怒らせて、迷惑かけて...それに....」
「それに?」
「昨日シェフに、お前なんかが気にするなって言われて、私はなんともない存在なんだなって。同じ店で働く仲間として思われていないんだなって気づいたんです」
気づかないふりをしようと今まで頑張っていたけど、口にされたらやっぱり、、
「それは…」
「今だって、止める程でもない、無理してここにいて欲しいと頼む程のものでもないんだなって」
それが嫌だった。
私のことをどう思っているのか実感するから。
「はぁ、」
私が言い終わるや否や大きなため息をついた。
「すみません。あまりにも自分勝手ですよね、」
「そうじゃなくて、悪かった」
「え?」
どうしてシェフが…
まさか謝られるなんて、
「そんな風に思わせてるなんて知らなかった」
「いえ、シェフが謝ることじゃないです。迷惑かけてばかりの私が悪いんです」
「俺なりに気遣ってたつもりだったんだけど、」
「え?」
「俺はあの時、お前がそんなこと気にする必要はないって言いたかったんだ。客が数人減ろうが、そんな事よりもお前の方が大事だし、もっと自分のことを大事にして欲しいって。それぐらいで店は潰れたりなんかしないから安心しろって…そういう意味だったんだけど、言葉足らずだったな」
つまり、私を励まそうと…?
「そう、だったんですか?」
「今だって、別に莉乃が思ってるような事じゃなくて、俺が今までお前に何かしてやれた事なんてなかったから、嫌になるのもしょうがないし、そんな俺にお前を止める資格なんてないから」
違う。そんなことない。
「そんな、シェフのそばにいさせてもらっているだけでもすごくありがたいし、勉強になるのに、」
「嫌で辞めるなら止めないけど、今の話の内容を聞く限り、そうじゃないみたいだな」
そんな事あるわけない。
「私はここが大好きですし、何より皆のことを大切に思っています。なので嫌で辞めるなんてありえません」
だからこそ離れようとしたんだけど
だけど、私の勘違いだったなんて。
後悔しても遅い。
勘違いしてたのでやっぱり辞めません。なんて虫が良すぎる。
「それなら莉乃が辞めることは認めない」
「え....?い、いいんですか、私、迷惑かけたのに、」
「あぁ。その代わり明後日からはまたみっちり働いてもらうぞ」
「ありがとうございます...!」
心配そうに見ていた律の顔が明るくなった。
「良かったね莉乃!」
「うん!」
「このまま辞めちゃうかと思ったよ」
「迷惑かけてごめんね、」
「迷惑よりも心配したんだからね」
あ、そうだ。
「ごめんね。ところでどうして臨時休業を?私なんかがいなくても、店は回るでしょ?」
あれ、なんか律怒ってる?
「また私なんてって言ってる」
「あ、口癖で。シェフにも言われたのに、治すように頑張るね」
「うん。実はね、お店休業しようって最初に提案したのはシェフなんだよ」
「シェフが…?」
どうして、
「こんな気持ちのまま営業したらお客さんに失礼だって。シェフなりに莉乃の事、ちゃんと大切にしてたんだと思うよ。すれ違っちゃっただけでね」
シェフの方を見ると、彼は少し照れたように目をそらした。
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