第2話


朝から電話が鳴り止まない。


電話の着信音で目が覚めた。


こんな時間まで寝ていたのはいつぶりだろう。


そうだ、私今日から無職なんだ。


毎日5時半に起きて店に行って働いて、それでも…一度もしんどいと思ったことはなかった。



初めは無視をしようかと思ったけど、あまりにもかかってくるもんだから、


「もしもし、」


「莉乃!?やっと電話に出た!」

「律…」


「急に辞めるなんて言い出すし、電話にも出ないし、すっごく心配したんだよ!」


弁解の余地もございません。


「ごめん、」

「それより、シェフがすごく怒ってるよ」


当たり前だよね。

急に辞めたりしたら、仕事に支障をきたしてしまうのに。


分かってる。

けど、どうしても…


「迷惑かけてごめんね、」

「急にどうして、あれだけ頑張ってたのに、」


「それは…」

どれだけ頑張っても、努力しても、無意味だから。


「ほんとに辞めちゃうの....?」

「うん」


「今ならまだ間に合うよ。今まで一生懸命働いて来たのに、辞めちゃうなんて勿体ないよ。俺も一緒に謝るからさ、戻っておいでよ」


シェフの気持ちを知ったのに、それでもあそこで働くなんて無理だ。


「気持ちは嬉しいけど、もう戻れないよ」


「そんなこと『莉乃と話してるのか』あ、シェフ…」


電話越しにシェフの声が聞こえる。


「代われ」

「莉乃、シェフに代わるね」


い、いやいや、ちょっと待って

「え、ちょっ、」


代わらなくていいのに、何を話せと…


「おい莉乃」

「…はい、」


声を聞いただけで分かる。物凄く怒ってらっしゃる


「お前、今どこにいるんだ」

「…」


そんなこと、どうして


「どこにいる」

「ど、うしてですか」


「会いに行くからだよ」

「どうしてですか」


会いに行くって、

どうしてただの従業員にそこまで...


「納得いかねぇからだよ。置き手紙一つであぁそうですかって、なるわけないだろうが。どんな理由でも、お前の口から直接聞きたかったんだよ」


来るって言っても、お店を放っておくわけには


「でも、お店は、」

「今日は開いてない」


それって、まさか


「もしかして、私のせい、ですか?」

「そうだな」


私のせいで。私が何も言わずに辞めたりなんかしたから。


「ほんとに、すみません」

やっぱり私は辞めてよかったんだ。


最後の最後まで迷惑かけてる。


「今日を無駄にしないためにも、会って理由聞かせてくれよ」

そんなこと言われて、断れるはずない。


「はい、」

「会いに行くからどこにいるか『 私がお店に行きます』..分かった」




こんなことになるくらいから、初めから直接言えばよかった。



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