memory7 レイジー・ボーンズ

「♪・♯♪〜♪♪♪♭♪♪〜♪♪〜♪〜」

今日も今日とてダルい仕事が続いてく。って事で、鼻歌効果で少しでもテンションを上げようとしたオレの耳に、同時に二つの音が聞こえて来た。

「うるさい、この音痴」

……因みに、これが一つ目。

もう一つは――

「……? どうしたんだ、急に黙って。レイズらしくも無い」

らしく無いってのは余計だ。オレだって仕事中くらいマトモにしてる時もある。

けど、とにかく今は黙っていて欲しくて、オレは人差し指を立てて口元にあてた。か細くて、流石に聞き取り辛い音を拾うには、静かにしているのが一番ってモンだ。

ジョーもよく判らないなりに、オレの意図を汲み取って話すのをやめる。

さて、音はどっちの方向から来たのかな……?

「……ジョー、あっちから信号らしきものが来た」

「何だ、難破船でも見付けたか?」

「さあなぁ……。そこんトコは判んねぇが、取り敢えず『助けを求めている』って事は確かだ」

「それなら行ってみないと」

「あいよ」

船の進路を変えて、オレ達は『声』のする方へと向かった。


進めば進むほどに、音もクリアになっていく。

「――『誰か、出来れば機械に詳しい方、助けに来て下さいませんか』……だってよ。何か一ひねりあるSOSだなオイ」

「ま、別に良いじゃないか。取り敢えず条件は満たしているんだし」

「う~ん、そりゃそうだけど……」

「距離は?」

「 もうそろそろ映像が見える範囲だ」

ジョーがパネルを操作して、外の風景を映し出す。けど、何も見えない。

「おい」

「いやいや、ホントもう近いって。多分向こうの明かりが故障してるんだよ」

「……」

「確かに、全部そろって点いていないのはおかしいけど……ホラ、きっと凄ぇズボラな奴が管理者なんだって」

「お前じゃあるまいし」

「うっさい――あ、ホレ見えた」

こちらの照明が届く範囲になってようやく、向こうの姿が確認できる様になる。船かと思ってたけど、意外にもそれは星だった。

「何か書いてあるな」

「え〜っと、なになに……」

「……随分と古そうだが」

「大丈夫だって。職業柄、この海に浮かんでる筈のモンは一通り頭ん中に入ってっから」

「へえ、お前の事だから最近のデータしか取り扱っていないのかと思ってた」

「いやホントはオレもそうしたかった所なんだけど、駄目って言われちまって……」

「ああ良かった」

「良くねぇよ。面倒臭い」

「でも、今ここで役に立ったじゃないか。早く照合してくれ」

「マーなんて人使いの荒い。……え〜っと、あぁ、アレだな。外壁にライトが一つも無かったのも、仕方が無かったっぽい。……簡単に言うと、『第二夢の島』ってヤツ?」

「何だそれは」

「むかーし昔、地球の日本にはゴミとかで埋め立てた場所があって、そこが『夢の島』っていうんだけど。こっちは産業廃棄物とか破棄処分された機械とかの置き場として造られた、人工の星なんだよ」

「聞いた事無いな、そんな話」

「まあ何百年も昔に造られた物だからな。言ってみれば、星が丸々一つのゴミの塊みたいな感じ?」

「じゃあ、何でそこから救難信号が出されているんだ」

「だよなぁ。ん〜……」

「その時に捨てられた機械が、ずっと助けを求めていた……とか?」

「おっ、違う違う。これ、その後一人の人物によって買い取られてる」

「なんだ、そうだったのか――って、ちょっと待てよ。『ゴミの星』だろ? 物好きにも程があるな」

「あ!!」

「?」

「オイ、しかもその買い取り手、あの『セーナ』だぜ!?」

「あのって……ロボットの人権を訴え続けてた?」

「イエス」

「――一応聞いておくが、今のって、もしかしてシャレか?」

「ちッ、外したか……」

「そんな事はどうでも良いから、もっと何か判る事は?」

「へいへい。……えーっと、セーナがこの星を買い取ってからは……凄いな、そこで事業に成功してる」

「まさか、セーナって元は廃品回収業者……」

「違う違う。ゴミすら利用して、次々と新製品を作っていったんだ。……なんでも、当時のトップメーカーだったらしいぞ」

「流石はセーナ、って所か」

「でも、最終的には行方をくらませてる。星ごと移動させて消えちまったみたいだな。……それも最初に発令された『ロボットの人権に関する国際法』が発表された年にだ」

「なるほど。……でも、それって確か三百年ほど前の話だろ?」

「そう。だからここで何か見付けたら、オレ達も出世できるんじゃないかな♪」

「……まあ、取り敢えず確実に取材はされるだろうな。何しろ随分と謎の多い人物だったみたいだし……」

そんな事を話しながらも、オレ達はその星へと降り立った。船の発着場は、思いの外に汚く無い。

『あの、すみませんが……』

船の外に出たオレ達に、さっきから聞こえていた声が届く。

『そこの左手にある扉、その向こう側にある乗り物を使って、ここまで来て頂けないでしょうか』

……確かに、オレらの船を使ってこの星の中を移動するのはマズイ。

って事で、ここは言われるままに乗り換える事にした。一応オレが運転席に座って、ジョーは隣に座る。

『良いですか? じゃあ、動かします』

声がしてから数秒後、目の前の大きな扉が開いた。

「……寒ッ!!」

「我慢しろよ、男の子だろ」

「だってオレは暖かい所が好きなんだもん。こんな雪の積もりまくってる様なトコは嫌い!」

「はいはい」

くそう、ジョーめ。オレの言う事を無視しやがって。

でも、自動運転になっていたから機体を揺らして嫌がらせをする事も出来ない。オレは仕方なく、膨れっ面で流れる風景を見る事にした。


元はゴミの星だと記録にあったから、一体どんなに汚らしい所かと思っていたが……ここは思いがけず、とても綺麗な場所だった。

遠くに見える街並みも海も山も、どれも本物に比べて遜色が無い。

「……きっと雪が溶けたら、もっと美しい所なんだろうな」

ジョーが呟いたがオレもそれには賛成。この辺は全て白・青・緑系統の色で統一されていて、まるで何処かのリゾート地みたいだ。


――ん? そうこうしている内に、進行方向には(昔のヨーロッパで造られていた様な)『城』っぽいものが見えてきた。

「あれが目的地……かな……?」

「まあ、このまま真っ直ぐに行ったら、そうなるな」

お互いに顔を見合わせて、もう一度『城』へと目をやる。

巨大な敷地を迂回するのかと思いきや、『城』の裏手にあった機体置き場へ停まり。やはりここが終点なのだと判ったオレ達は、共に降りて辺りを見回した。

銀色の内装。どこも鈍く輝いていて、手入れは怠っていない様子だ。

『あの、そこに扉がありますよね?』

「……コレ?」

『そうです。そこから入ってきて下さい』

「じゃ、失礼しまーす……」

オレが先に立ち、聞こえてくる声を頼りに廊下を進む。どうも向こうはオレ達の姿を見ながら案内しているらしく、エレベーターまでは何の問題も無く進む事が出来た。……ただ、広さがあるから移動が面倒ではあったケド。

そして上の階へ進み(今度は水色っぽい内装だ。ここの設計者は色に統一感を持たせるのが好みだったらしい)、指定された部屋へ。すると、声が直接耳に入り込んで来た。

「そのまま、奥の扉へ向かって下さい」

どうやら、声の主は隣の部屋にいるらしい。……ここは一応『用心』って事で、ジョーにはこの部屋で待機しといてもらうとするか。

という事で、オレが一人で扉をくぐると――そこには一人のロボットが床に座っていた。

「迎えに行く事が出来なくてすみませんでした。僕はこの国を管理している、ラストといいます」

「オレの名前はレイジー・ボーンズ。一応、この界隈の警備をやってるっていうか……まぁ、そんなトコだな。要は見回り中にラストの声を拾ったんで、ここまで来たって訳だ」

「ええ、本当に助かりました。信号を送り続けて9ヶ月になりますが、二日前から足の調子が悪くなりまして」

「……は? 何でそんなに前から助けを求める必要性があったんだ?」

「一応、自分の体もそろそろ限界だって判っていましたから」

「だったら他の奴に治して貰えば良いじゃん」

「それが、生憎ここに住んでいるのは僕一人なもので……」

「えぇ? ……じゃあ、お前の親も?」

「大分前に、亡くなりました」

「そりゃ気の毒に。……てか、足だけか? 調子が悪いのは」

「いえ、実は体中なんですけど……」

「なんだそれ。じゃあ、どうしてもっと早くに助けを求めなかったんだ」

「それは……」

ラストは途端に言い淀んだ。何か語れない理由でもあるんだろうか。

「どんな訳があるのかは知らないけど、死んじまったら元も子もないだろ?」

「……」

「ホレ、同じロボット同士なんだから。おにーさんに言ってみ?」

「え!?」

突然ラストは驚いた。……なんだよ、オレってそんなに老けて見える?

「……あ……あなた、ロボット、だったんですか……? それに……僕の事も、ロボットって……」

「へ? なんだ驚いてたのってソコなの?」

「そうですよ! ……だって、まるで人間みたいで、とても……」

「いやラスト。お前だって充分に人間そっくりだから」

「それは確かに、そうですけど……。もしかして、レイジーさんって『一人の人間』として扱ってもらったりとかしてるんですか?」

「だってオレ、こう見えても生まれてから三十年以上経ってるもん。それなのに人権獲得できて無かったら違法じゃん」

「……」

「まー、よくオレの名前聞いたヤツは『まだ作った人間の付けた名前か』って勘違いして未成年扱いしてくるケド、これでもこの名前は自分で登録したものなんだぜ? 立派なのを付けるよりもオレらしくて良いかなって……」

「……レイジーさん」

「あ、別にレイズって呼んで良いから」

「じゃあレイズさん……あの、それじゃあ今は、ロボットも人間と対等になっているんですね……?」

「まあ、完全にってワケじゃ無いけどな……」

話しかけたオレは、そこで言葉を切った。何故か、ラストが顔を覆って俯いてしまったからだ。

「お……おい、ラスト……?」

震える肩を見て、もしかしてオレが泣かせてしまったんじゃないかと焦ってくる。でもオレ、何か悪い事言ったっけ……?

「なんか、よく判らないんだけどオレが悪かったんなら……」

「……良かった……」

「は?」

「結局、マスターの考えた通りになったんですね……」

どうやらオレは知らない内に、ラストにとっての『良い事』を言っていたらしい。彼はとても嬉しそうだった。

「うーん、えっと……ラスト? なんかよく判らないから、オレにも判り易く説明してくれるか……?」

「あ! ……すみません、つい……」

「てかそもそも『マスター』って誰。……それ、名前?」

「い、いえ、マスターというのは僕を造って下さった方で……」

「なに、お前そんな風に呼ばされてんのか!?」

「マスターの事を悪く言わないで下さい! それにこれは、僕が好きで呼んでいるんですから」

「そっか、そうだよな。しかもその『マスター』って、もう死んでるんだったっけ?」

「はい」

「その人ってロボット?」

「いえ、人間です」

「もしかして、あの『セーナ』の子孫とか?」

「……子孫じゃ無いですけど……」

「なぁんだ……」

「……と言うより、僕を造って下さった方の名前が『星那』っていいます」

「へー。流石に有名人ともなると、同じ名前を付けたがるもんなんだなあ」

「え? ……あの、レイズさん?」

「はいな」

「何か勘違いをされている気がするのは、僕だけでしょうか?」

「どういう事?」

「確認しても良いでしょうか。……レイズさんの言っている『セーナ』さんって一体誰なんです? 有名な方なんですよね?」

「そりゃー有名だろ? なんてったって今オレらがこうやって暮らしてけるのも、その人がロボットの人権獲得の為に頑張ってたからなんだし。そんなん小学生の歴史教科書にだって載ってるっつーの」

「……その方なんですが」

「?」

「僕を造って下さったのが、その『セーナ』さんです」

「――プッ!」

思わず吹き出しちまった。ラストって、意外に夢見る少年だったんだな……!

「あの、何がおかしいんでしょうか」

「だって、お前って既に頭の方が悪くなってきてんじゃないのか? セーナっていったら三百年くらい前の人間だろ。それが、どうしてラストみたいなロボットを作れるんだよ」

「造れたんですよ、マスターは! ……でも、当時の地球でそんな事がバレたら大変だからって、絶対にこの国から外に秘密を漏らす様な事はしませんでしたけど……」

「もしかして、セーナが行方不明になってたのも秘密を守る為に?」

「はい、マスターが亡くなってからは僕が国を動かして……」

「……ラスト。お前ってホントに冗談が上手いよな」

「本当の事ですってば!」

「なら、お前のメモリーを見せてみろよ。そしたら信じてやるから」

「良いですよ」

おいおいおいおい、ちょっと待て。これは本気じゃ無くって、それくらいの覚悟を持って嘘をついているのかって聞いてるだけなんだけど。そんな常套句も知らないのかよ、コイツ。

って、よく考えたら知らなくて当然なんだっつーの。なにしろラストは何年もこの星と共に雲隠れしていた奴等に作られたんだ。みだりにメモリーを覗く事は禁止事項だって事、判らないに違いない……。

「……よーし、それじゃあホントに見せて貰うぞ?」

「はい」

オレは興味本位でラストの記憶を見る事に決めた。違法行為なんて、バレなきゃ良いんだよ、うん。それに、これで『セーナ』の手掛かりが掴めるかもしれない。ラストの親でも誰でも、何かしらのヒントでも喋っていてくれたら……!

「ところで、お前さ……端末装置は?」

「え?」

「こんなやつ。もしかして、付いて無いのか?」

オレは耳の後ろを押して、そこからコードを引っ張った。重要だったり大容量な時だったら、普通はこれを繋いでデータを読み込んだりするもんだけど……。

「すみません。情報は、全て手から読み取ったり出来る様になっているので……」

「……手?」

「はい」

そう言ってラストは掌を見せるが……なんの変哲も無い。

「レイズさんは、ここからなんですね?」

「あ、ああ、そうだけど……」

「では、失礼します」

ラストがオレの端末を握る。

何考えてるんだ――と思った瞬間、本当にラストの考えている事や過去の出来事が、オレの中に流れ込んできた。


「……これで全部です」

「――」

「あの……レイズさん……?」

「――」

「レイズさん、ちょっと大丈夫ですか?」

「――大丈夫なワケあるかー!! こんな短期間に二百五十年以上のデータを流し込みやがって、このバカ!!」

「良かった、平気みたいですね……」

「これでもオレは現役ロボットの最新機種なんだよ」

しかし、そのオレの情報整理力が追いつかない程の速さで送ってくるなんて。流石はセーナの作ったロボット……マジ侮れん。

「でも、これでラストの言っている事が正しいって判ったよ。今まで、たった一人で星も自分も全部整備してたなんてな。気が遠くなったよオレは」

「でも、流石に寿命というか……。これ以上自分一人では生きられないと思って」

「そりゃそうだ。てか、むしろ長生きのしすぎだよ、お前」

「けれど、マスター達を放っておく訳にはいかなくて。それで助けて欲しかったんです」

「そう言われてもなぁ……。当然オレはラスト以上の技術力なんて持って無いし。しかもこの場所を他の奴にバラしたら、きっとセーナの嫌がる結果になると思うぞ」

ラストの心を知ってしまった以上、彼の力になってやりたいとオレは思った。けど、『オレなんかの力じゃどうしようも無い』って事の方が多いんだ。ラストの落ち込む気持ちも判るが、なにしろセーナっていえば……

「あ!」

「?」

「そうだ、コレだよ!」

「……『これ』?」

「ラストは知らないだろうけどさ、ある宗教があるんだよ。ロボットと人間とが共存するのを望む内容でさ、死んだ後も共に暮らしていける……とかなんとかっていうやつ!」

「そんな宗教まであるんですか」

「世の中はラストが思っているよりも変わってるんだよ。……でな、それが人間の遺体を燃やす時、ロボットのメモリーなんかも共に焼くとかだった気がするんだけど……とにかく、そんな感じなワケ」

「はぁ……」

「ま、今んとこロボットを認める宗教なんてコレぐらいしか無いんだけど。……てか、この宗教上の神が笑えるんだけどさ」

「神様なのに……?」

「だって、お前の『マスター』だぞ、神」

「ええっ!?」

「しかもこの宗教、ロボットの7割は信仰してるし人間の信者もかなりの数いるんだぜ。ま、言ってみれば今一番の旬な宗教って感じ?」

「……確かに、実在の人物を神に見立てる宗教もありますけど……。まさか、マスターがそんな事になるなんて……」

「キリスト教のシンボルは十字架だろ? こっちのシンボルは頂点が七つある星形でさ」

「あ、それはマスターの好きなマークです」

「そう、よく使っていたらしいな。確か左側の三つの角が人間特有の能力、右側の三つがロボットの能力で、てっぺんのは互いに持っている『人格』を現すらしいぜ」

「へぇ……」

「もっとも、そこまでセーナが考えていたのかは知らないけどな。でも、折角だからラストもこの方法に則ってセーナと一緒に葬ってやろうか? なんならシェナって奴も一緒に」

「あの……。出来れば、この星ごと全部やっていただきたいんですけど……」

「え、やっぱり……?」

「はい。皆、マスターの事が大好きだったから」

その事はさっき判ったよ。でも、ここを丸々焼失させるなんて……よく考えたら重要文化財を消す様なモンだよなぁ。間違いなく犯罪者じゃん、オレ。

「う〜んう〜ん……」

ラスト達の気持ちを考えると全部一緒に燃やしてやりたい。けど、それじゃあ……

「何を悩んでいるんだよ、レイズ」

「うお!? ジョー、お前いつの間に!!」

「え? さっきからいらっしゃいましたよ」

「……そうだったのか……」

「レイズが悩んでいる意味が俺には理解出来なくてな。……こんなの考えるまでも無いだろう。この星の事は全てを保存したまま、正確に報告する。それで良いじゃないか」

「良くねぇよ! オレはコイツの気持ちを知っちまったから……」

「じゃ、ラスト君の希望を叶える。決まりだな」

「……へ?」

「どうせレイズは既に犯罪者なんだぞ? 勝手にメモリーを読み取ったりして」

「うッ! ……痛い所を……」

「じゃあ、その犯罪の痕跡を消せば良いんじゃないか。ラスト君も幸せになれて、一石二鳥」

「……ジョー、お前……。いつもは人間のクセに細か過ぎると思っていたけど、こういう時だけはアバウトなんだな……」

「お前には言われたくない。それに、どうせこの星の事を別の奴に知らせても①信用されずにインチキ呼ばわりされる②手柄を別の人間、多分上司に横取りされる……このどっちかだろ」

「むぅ、シビアだが、もっともな意見……!」

「という事で決定、だろ? そういえばレイズ、消すのはあそこでも大丈夫なのか?」

「ん、この星のサイズなら余裕で平気だよ」

「……あの……すみません……」

「はい? 『それって何か』って? ……ラストにも判り易く言えば、超巨大な太陽の親戚みたいなトコだよ。そこなら、まとめて……」

「いえ、そうじゃ無くって……。失礼ですけど、こちらの方の事も教えて頂けませんか……?」

「ジョーの事か? コイツは、まあ、良く言えばオレの相棒かな」

「悪く言えば、俺はレイズの尻拭い係だ」

「ひでぇ……」

「えっと、僕には見分けが付かないんですが……。ジョーさんもロボットなんですか?」

「いや、俺は人間」

「そーだよコイツ人間なんだぜー。あ〜あ、仲間はずれー」

「うるさい」

「……そうですか、人間の方ですか……」

「ん? どしたラスト」

「いえ、実は葬って頂く前に、マスターのお参りをして欲しいな、なんて思ってしまいまして……」

「そういえば、セーナが死んでからはラストしか墓参りしてないんだよな。……別に良いぜ?」

「俺もだ」

「あ、あの、それが……。ジョーさんは、ちょっと……」

「何で……」

「はいはいはい、なるほどね。言いたい事は判った。じゃあ、オレら二人で行くとするか」

「オイ、何を一人で納得してるんだよ」

「拗ねるなって。ジョーはこの辺に居な。……ラスト、起こすぜ?」

「あ、でも僕、重……」

「オレのブースターを甘くみるんじゃねえっての」

ちょちょいとリミッターを外して――って、ホント見かけによらず結構重いなコイツ。

でも不可能な重量じゃ無い。オレはラストを抱えて(ジョーを部屋に残し)、エレベーターへと向かった。


ラストのメモリーを覗いた都合、セーナとシェナの棺の在処は判っている。……という事で、オレは今のロボット事情なんかを話しながら城の最上階へ行った。

「……マスター、ご紹介します。こちらの方はレイジー・ボーンズさんといって……」

「はじめまして。これでも一応ロボットですんでヨロシクお願いします」

お辞儀をして、棺の中を見る。シェナはきっと、当時で最も技術力のあるロボットだったに違いない。今なお、セーナは死んだ時のままの姿を保ち続けていた。

「それから、オレが今からこの星の皆をあなたの所にお送りしますんで。どうぞオレが死んだ時には御贔屓にして下さい」

ロボットも容認してくれる神様なんてセーナだけなので、別に何の信仰心も無いオレだったが一応お願いしてみた。『調子良すぎるわよ』とか言われそうだが、彼女の事だからきっと最後はオッケーしてくれるだろう。

「それから、シェナだっけ。あんたも安心して眠ってくれや」

傍らの棺も覗き込んで、オレは言った。セーナと同じ日に亡くなったシェナ――多分、自分で逝ったんだろうな。結局、セーナが考えている以上にシェナはセーナの事を愛していたんだ。

「あの……レイズさん」

「なんだ?」

「僕を、二人の間に降ろして貰えますか」

「オッケ」

言われた通り、オレは二つの棺の間にラストを降ろした。やっぱラストも、最期はここで迎えたいんだろう。

「じゃあ、今から星を移動させるから」

「あ、その座標は……?」

「ラストは何もしなくて良いって。オレもここの管理機能が使える様になっただろ? 後は何も心配しなくて良いから、ここで待っててくれよ」

「……はい、ありがとうございます」

「でも、この星ちょっと移動速度が遅いから……多分2時間と少しかかると思う」

「判りました」

「それじゃ、そろそろ行くな。何かあったらまた信号でも送ってくれや。オレ達も見送りに付いて行くから」

「はい、……本当に、お世話になります」

「良いって事よ。じゃ、縁があったら『あの世』で会おうぜ」

オレの冗談に、ラストが笑って応える。

手を振りながら、オレはエレベーターに乗り込んで墓所を後にした。


「おとなしく待ってたかい、ジョー?」

「いや、この辺の物を色々と見てた」

「オイオイ、一応ここは死んだ人の部屋だぞ……」

「それより面白い物を見付けたんだよ」

ジョーに誘われ、オレは隣の部屋に行った。……スマン、ラスト。人間の知的好奇心ってのは厄介なんだ。もう少し待っていてくれよ……!

「ここ、これなんだけど……あれ?」

案内されて来てみるとそこは、ばかでかい鏡が置いてある場所だった。

「へぇ〜。……これはラストも知らない新発見だな」

「何が。お前だけ普通に映っているのがおかしいって事か?」

「いやいや、その反対だよ。ジョーだけ変わって見えるんだ、この鏡」

「……は?」

鏡に映っているのは後ろの風景と、オレと、一人の少女。この瞳の色、髪の長さ――間違い無い。

「これは人間の動きに合わせて映像を作り出す装置なんだ。だからロボットとかには普通の鏡だけど、ジョーだと別の人間が映って見える」

「別のって……」

「ま、これが本物と同じだったのかは謎なんだけどな。……ここに映っているのが『星那』だ。作ったのはシェナって奴。セーナへの誕生日プレゼントとして贈られた物の一つなんだぜ」

「……本当なのか?」

「嘘ついてどうするよ」

「じゃあ、この鏡を持って帰ったら……いや、設計図を……」

「ダメダメ。鏡は大きすぎるし設計方法はシェナしか知らないし、第一全部一緒に消してやんないと意味無いだろ」

「それはそうだけど……勿体無いな」

「でも仕方ないって。ホラ行くぞ」

ここを離れていた時の音声はジョーにも聞こえる様にしていたし、次に何をするべきなのかも知っている筈だ。……という訳で、オレはサッサと歩きだしてジョーを促す。

ジョーも未練はある様だが、結局はすぐにオレと一緒に部屋を出た。そしてオレ達は再び城の裏手に向かって、広い廊下を歩き出す。

……こうしてオレ達二人は(今度はオレの運転で)船の発着場を目指し、出発したのだった。


オレ達の船に乗り込み、星の進路を定めてから離陸する。

船も星に追従する様に行路を設定してから、オレはジョーに話し掛けた。

「なあジョー。聞いてくれないか?」

「何を」

「あの星の事やセーナの事。……確かにラスト自身のメモリーは一緒に消せるけど、『ラストのメモリーを見たオレの記憶』は残る訳じゃん。オレ一人で秘密を抱え持つなんてヤだよ」

「……小心者」

「何とでも言え」

「でも、まぁお前ならそう来ると思ってたよ。俺も興味あるしな。話してくれ」

「うんうん、そうこなくっちゃ。……じゃ、まずはどれから話そうかな〜…… 」

「だったら雪の事から。あれって気象装置の故障か何かか?」

「いや、違う。ラストは皆の悲しみの心を表現するものだと思って定期的に降らせてたんだけど、元は気象管理ロボットの自殺的行為が始まりなんだ」

「わざと降らせていたって事か」

「そう。あの国にいた全てのロボットはセーナの事を慕っていた。というか、慕い過ぎてセーナの死を受け入れたまま生活できなくなってたんだ。……それでも、自らの意志で機能を停止させる事は不可能だった。それで、氷の中で何もかもを停止させようと考えたんだと思う」

「……そんな事をしても、すぐに異変に気付かれて人間に止められるだろ。なのに……」

「いや、誰も――ラストしか、止める者はいなかった」

「どうして……」

「何故ならあの星には、最初からセーナ以外の人間は存在しなかったからだ」

「あの星をセーナ一人とロボットだけで管理していたのか? 三百年前の話だろ!? そんな高性能なロボットを作る技術なんて……」

「それが、セーナにはあったんだよ。『反ロボット運動』があってからというもの、何年もロボット開発は見向きもされなかったが……セーナだけは人に隠れて研究をし続けていたんだ。自分の理想を叶える為に」

「理想?」

「セーナが子どもの時に拾った、あるロボットの雛形みないな奴がいたんだ。それは人間の話し相手になる為に開発されていたものの、ロボット自体が批判される様になった事もあって、試作段階にしてアッサリ捨てられちまってな。それにセーナが手を加えて、少しずつ能力を持たせていったんだ。……そのロボットの名前はシェナ。セーナはやがて、自分が作ったロボットであるシェナに恋心を抱く様になる。そして、もっとシェナを完璧な人間に近付けようと、研究を重ねた」

「当時、機械のトップメーカーだったのは、その副産物か……」

「それもあるが、この星を買い取ってからのセーナはロボットにも仕事を手伝わせていたからな。精確さは折り紙付きだったって訳さ」

「星に人間を入れなかったのはその為だな。あの頃、ロボットを使っていたなんて知られたら凄い事になっていただろうし」

「……でも人間がいなかったのは、それだけじゃ無い。セーナは人間の事が信用できない人物だったんだ。幼い頃から、外面は良いが心の中ではいつも他人を疑っている。そういう奴だったんだよ、セーナは」

「もしかして、星中のロボットが皆セーナを慕っていたというのも――」

「セーナの作ったロボットだからな。そう仕向けられていたんだよ。ただ二つの例外を除いて」

「例外?」

「それがシェナとラストだ。この二人だけは、セーナを慕う様な具体的プ ログラムが入っていない。……晩年、セーナは持てる技術の全てを使い最後のロボットとしてラストを作り、彼だけには自由意志を持たせようとし た。それは他のロボット達に対する罪滅ぼしでもあったし、自分が見捨てられないかを試す気持ちもあったんだが……やっぱり、完全には心を許せなかったのかもしれない。ラストにすら、ロボットの作り方を教えようとはしなかった」

「それでラスト君は他のロボットを作って自分の仕事を託すことも出来ず、寿命を悟って救難信号を送ってきたのか」

「しかも他のロボットの意見を尊重して、死にたい奴を無理に使う事もしなかったんだ。だからずっと……今までラストは一人で星を守っていたんだよ。どういう訳か、他のロボットとは桁違いにラストは高性能だったからな」

「……待てよ。でも、セーナはどこにロボットの設計図を隠していたんだ? まさか人間の頭脳で全てを記憶していた訳でもあるまいし……」

「そうだなぁ……。どうも、セーナってあんまり記憶力が良い方でも無かったらしいし。あ、でもセーナの個人用パソコンにそれっぽいファイルがあったぞ。ラストは日記を見てからというもの、凄く後悔してパソコンを開く事は二度としなかったけど」

「だったら、そこにあったんだろ、ロボットの作り方。……でもバックアップデータを取らないなんて、普通しないだろうし……。もしかしたら、そのシェナって奴のメモリーにもロボットの作り方は入っていたんじゃないか?」

「どうだろうなぁ。……でも、可能性としては大かも。シェナはいつもセーナのロボット作りのサポートをしていたみたいだから……」

「じゃあラスト君の謎もそれで説明が付くんじゃないのか」

「へ?」

「ラスト君だけ、異常に高性能だった理由だよ。シェナが手を入れたんだ、多分。セーナの死後、星を管理し続けられる様に」

「そっか、自分の身代わりってやつ? ……そういえばセーナ、まさか自分が死んだ後にシェナまで死ぬなんて事は考えて無かったしなぁ……」

「……そうだったのか?」

「だってラスト、もしシェナに何かあったら助けてあげて欲しいって、 直接セーナに言われてるから。それにラストの性能を把握していなかったセーナが、ラスト一人に星を任せても大丈夫なくらいの機能があるって思う筈も無いだろうし」

「それだと、ロボットの作り方を明かさなかったのは、別にラスト君を信用していなかったから……って訳でも無かったのかもな」

「どうして?」

「だってシェナがいるじゃないか。シェナが直接ラスト君にロボット作りのデータをコピーした方が効率が良いだろう」

「……そうか、そういえばセーナのパソコンは外からのアクセスが一切出来なくなってたからな。中のデータをアウトプットするのも一苦労なんだよ」

「それなのに日記だけはコピーしたのか? ラスト君も好奇心旺盛だな」

「好奇心ってよりも、いつもセーナの事を気遣っていたシェナの代わりを果たす為に、セーナの好みなんかを知ろうとしたんだ。セーナとしては冗談だったのかもしれないけど、自分が死んだら日記でも何でも見ても良いって言っていたから」

「え、『何でも』? ……それなのにラスト君はセーナのパソコンに入っている他のものは見なかったのか?」

「だって、その日記を見て『セーナが個人的に使っていたものをこれ以上覗く事は出来ない』って思ったんだもん。日記の一部に、ラストからすれば衝撃的な事が書いてあったから……」

「それはどんな記述なんだ?」

「うッ……」

どうなんだろ、言っても良いのかな。

だってコレって人間に共通の悩みだろうし……ジョーも、聞いたら落ち込むかもしれない。

……うん、やっぱ隠しといた方が良いよな。でも、どうやって嘘つこう……。

「ええっと、……あ、そうだ。アレだよ。こう書かれている所があるんだ。日記の一部を読むぜ」

俺は思い出した箇所を探し当てて、声に出した。

「――私は常に懼れていた。

私を愛すると言ってくれたシェナ。けれどそれは振りだけでは無いのか? ……いや、人間では無い以上、そんな事は無いだろう。

しかし……彼の思考プログラムも又、私によって造られている。『シェナの愛が偽りでは無い』と、どうして言い切る事が出来るだろう。

ここにいる全ての者が私を愛する様にと、仕向けたのは私なのに――」

「……」

「セーナはシェナの心すら疑いながらも、一つの約束をした。それが『ロボットの人権を獲得した暁には結婚する』という事だ。元々、セーナはシェナとの絆をカタチにしたくってプロポーズしてたんだが、それを断わられてな。……シェナは多分、セーナがロボットと結婚するなんて世間的にマズイって思ったんだろうけど、セーナは『だったら世の中にロボットを受け入れさせれば結婚してくれるのか』とかって詰め寄ってなぁ。自分に自信が無いからこそ固執したんだろうけど、そんなもので愛を計ろうとするのもバカだよな、セーナ」

「……おい」

「それとも、閉じこもって生活していたものの、やっぱり他人にも認めて貰いたかったんだろうか。それこそ、人間のエゴってやつなのに」

「おい」

「そもそも、他のロボットからすればあの星は『世界』そのもので。そこにセーナはたった一人だけ君臨していたんだ。……これって、本当に幸せって言えるのか? 他のどの人間にも心を開く事が出来ず、自分の都合の良い世界を作り上げて、そこに暮らし続けたなんて……。誰よりも偽りを重ねていたのは、他でもないセーナ自身……」

「おいってばレイズ!」

「え、何!?」

「違うだろ、それ」

「は? ……まあ、確かにセーナがそうやって『ロボットを認める様に』と働きかけたからこそ今のオレ達があるんだから、もう少しセーナの悪口は控えた方が良いのかもしんないけど……」

「そうじゃ無くって。他にあるんだろ? ラスト君が日記を読んで後悔したって所が」

「なななななな何でだよ??」

「いい加減、お前が何かを誤魔化そうとしている事ぐらいバレバレだって自覚しろ。……何で遠慮してるのかは知らないが、構わないから言ってくれ」

「でもよお……」

「俺だったら何とも思わないから。話してみろよ」

……どうやら、ジョーにはホントにオレの考えなんてお見通しみたいだ。

仕方ない、ここはやっぱり正直に話すとしよう。

「まあ実は今の所について、ラストは何とも思わなかったんだ。ってよりむしろ、セーナに好意的な意見を持ってたっていうか。人間味があるっていうのかなぁ……。それにシェナがセーナの事を本当に大切にしていたって事を、ラストは判っていた訳で。どっちかっていうと可哀相に感じてたんだよ。……とにかく、ラストが気にしたのはここじゃ無い」

何て説明したもんかな。婉曲に言ってもダメ出しされる気がするし。もしかしたら、あの時のラストの気持ちから話すのが良いのかもしれない。

「……あのな、まだセーナが生きていた頃なんだけど。ラストってセーナとちょくちょく会話したりしてたんだ。セーナって、どうも他人に弱い所を見せるのが嫌いみたいで、ラストの前でも余裕シャクシャクって感じで……死ぬとかいう話が出た時も、ラストの方が落ち込んじまったから慰めたりして。だからラストも、セーナは『死』なんて恐れていないものなのかと思ってたんだ。避けられないものなんだから、受け入れるべきだって。……実際、その時セーナはラストにそう伝えたかったみたいなんだが、本心は違っていた。セーナは死、そして老いる事についてをとても嫌悪していたんだ。しかも、周りにいるロボット達は自分と違って変わったりしないだろ? だから、セーナはロボットに対して嫉妬すらしていた。それ も、そんな自分を批判しながら。……相反する気持ちの中で苦悩するセーナの気持ちを目の当たりにして、ラストはとても後悔したんだ……」

「なるほど」

「シェナはセーナの一番の理解者だったから、そんなセーナの事を考えてあの棺を作ったんだと思う。死んだ後なら、セーナの外見が衰えるのを止める事ができるから」

「……そういえば、お前は直接セーナを見たんだったよな。どうだったん だ?」

「ああ、変わっていなかったよ。ラストの記憶にあるセーナの生きていた頃の姿と、棺に入っていた人物の外見は」

「だったら、あの鏡に映っていた様な感じで……?」

「……」

そうか、ジョーはセーナの『あの姿』しか知らないんだ。

「何だよ、急に黙ったりして」

「いや……ホントは、言わない方が良いんだろうな……って思って」

「どういう事だ?」

「セーナの姿。あの鏡に映っていたのは、実はセーナの理想なんだ。多分、他のロボット達は皆、セーナがあんな姿をしている様に見えていたんだと思う。だから服をプレゼントする時も、あの姿に似合う物ばかり贈っていたんだ」

「え……?」

「ラストも、セーナの外見はそういう風だと言う事を、仕込まれてはいた。セーナの好きな『エメラルドブルー』という表現を使って瞳の色を表したりな。……ただし、見えていたのは本来の姿。虚像を見させる様なプログラムは無かった」

「それは、つまり……」

「ああ。セーナは、あの鏡に映っていた様な外見じゃ無い。とっくの昔に老いて、おばあさんになっていたんだ」

「……じゃあ鏡は、シェナがセーナを喜ばせる為に……いつでもセーナが自分の姿を理想と同じに見える様にと作った物だったのか?」

「そういう事。だって、あれが贈られたのはセーナが死ぬ十数年前なんだぜ? 絶対に、その頃にあの若さを保っていられる筈が無い」

「ロボット達は、『老婆』を『美しい少女』だと思い込まされていたんだな……」

「ラストも見えていたのはおばあさんの姿だったが、年齢だけは『17歳』だとインプットされていた。多分、セーナの性格からいって老人扱いされたく無かったのかもしれない」

「……気持ちだけでも若々しくありたかったんだろう」

「セーナは、あの星の中でだけは自分の夢を実現させる事ができたから、誰にも近寄らせずにとても大切にしていたんだ。……ほとんど自作自演の夢だがな」

「醒めれば虚しくなるなるだけの、偽りに溢れた『夢の島』か……」

「それをセーナも判ってはいたんだが、どうしても手放せなかったらしい。結果、自分を責めたりする事になるんだけど」

「……それが『人間』ってものさ」

ジョーが自嘲的に笑った。でもその感情、今ならオレも少し判るぜ。なんてったって、セーナの日記が頭に入ってるんだから。

「――あ」

「?」

「ちょっと待てよ。セーナは、つまり『ああ見られたかった』んだよな?」

「そだよ。だから他のロボット達には視覚プログラムを……」

「いや、あの星の連中の事はもう良い。俺が思ったのは、今の『セーナ像』の事だ」

「今のって……あの宗教の?」

「そうだ。確か、女神像……。結構な年齢の人物になっていた様な……」

「えーっと、どうだったかな。そういえば、あれもおばあさんだったっけ? しかも本物ともかなり違ってる気がするぞ」

「……考えてもみろよ。セーナは、自己嫌悪に苛まれながらも理想を押し通したんだろ? だったら、あの姿で普及しているのって、相当に嫌がるんじゃ……」

「ホントだよ!! てか、むしろあれって嫌がらせみたいなもんだぜ」

「それなのに救いを求めてもなぁ……。絶対に拒否されそうだ」

「うん、する。セーナならやりかねん」

しまった、ロボット救済の唯一の神がソッポ向くなんて……それじゃ人間は良くてもロボット達が報われねえ。

「俺はセーナに頼らなくても、他にもイエスとか釈尊とか色々いるから良いんだが……お前達は困るよな」

「多分オレだけは平気かもしれないけど……」

「いや、ここまで知っておきながら放っておくんなら、他のロボット達よりも重罪だろう」

「そんなぁ……」

どうしよう、言われてみれば怒られそうな気がする。なんか、地獄みたいな所で苛められたりな――それも、未来永劫。

「ジョ〜……」

「馬鹿。なんて情けない顔してるんだ。冗談だよ」

「いいや、冗談じゃ済まないって。セーナって根に持つタイプだし。……何か良い案ないか?」

「おいおい、お前って神様とかは信じない方じゃなかったっけ?」

「それはそうだけど、万が一って事もあるだろ!?」

「……やれやれ……」

ジョーは肩をすくめて苦笑した。

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