memory6 ラスト Ⅳ

「これで良し……っと」

マスターの隣に、僕はシェナさんの棺も並べた。

あれから少し時間が掛かってしまったものの、これでマスターも安心して眠れる筈だ。

僕は、ゆるやかに降り続ける雪を見ながら、マスターが亡くなった時の事を思い出した。


マスターの死、その報せを聞いて呆然としていた僕だったが、やがて以前に言われた事を思い出して城の最上階を後にした。

それは『マスターが死んだら、この国に関するデータだけでも良いからインストールして欲しい』というもの。シェナさんが残されても、僕なら手助けが出来る筈だからとマスターに頼まれていたので、僕はエレベ ーターのボタンを押して下の階に向かった。そして銀色の通路を通り、データを見付けた順にインストールする。

やがて全てを頭に修めた僕は、ある事に気が付いた。それは、どこにもロボット造りの方法が記録されていないという事……。

多分マスターは別の場所に纏めてデータ化しているんだろうけど、それってやっぱり機密漏洩を防ぐとか、そういう理由からなんだろうか。……そんな事をしなくても、ここには余程の事をしないと外部の者は侵入が出来ないと思うんだけど――

……いやいや、今はそれ所じゃ無い。まずはシェナさんの行方を探さないと。

どうやらシェナさんはこことは別の場所で、マスター用の棺を造っていたみたいなのだ。それはシェナさんの設計した物で、死者を生前と変わらずに保存し続ける事が出来るという代物。

その棺を用意しないといけないんだけど、もしかしたら既にシェナさん自身が取りに行っている可能性もある。

それで僕は今まで数回しか行った事の無い、マスターのプライベートルームに向かう事にした。シェナさんの事だから、今ならマスターの側にいるか棺を取りに行ったかのどちらかだろうと思って。


「……失礼します」

誰もいないかもしれないけれど、ここに入る時には何かを言わないといけない気がして、僕は扉に向かって声を掛けた。

中に入る……けれど、誰の姿も見えない。

そういえば、そもそもマスターって何処でお亡くなりになったのだろうか。心臓発作とかで思いもよらない所に倒れていたりしたら、見付けるのも困難かも……。

けれど、それは杞憂に終わった。マスターは、御自身の寝室で亡くなっていたのだ。しかも、傍らにはシェナさんもいる。

僕は目的の人を見付けた訳だけれども、すぐにその場を立ち去った。何故なら、シェナさんもマスターの横で一緒に死んでいたからだ。

こうなれば、僕が速やかに棺を取りに行かないといけない。そう思い、僕は城の裏手へと急いだ。


マスターを葬るに当たって、僕は棺の置き場所を城の最上階にしようと決めた。あそこはマスターの『お気に入り』だったから、きっとマスターも喜んで下さるに違いない。

けれど遺体を安置してみると、そこはあまりにも淋しい風景に見えた。

何が足りないのかと考えてみると……頭に浮かぶのは一つ。いつもマスターの側にいた、シェナさんだ。

僕はシェナさんもマスターと同じ様にしようと思ったけれど、残念ながら棺は一つしか造られていない。

でも、マスターは美しい物が好きだったから、違う物を並べるよりも同じ棺にした方がバランス的にも良い気がする。……そこで僕は、シェナさんの設計図を元に、マスター用の棺をもう一つ造る事に決めた。


再び城の裏手へ行き、そこにあった乗り物を操って工場へ。

向かった先はシェナさんが個人的に使っていた所だったので、設備は良いけれど誰もいない。――とはいえ、僕は今やこの国で一番の頭脳を持つロボットになっていたから、棺を造る事には何の不自由も無かった(……ただ、気温だけはどんどん下がっていたので、機械を温める時間が余分に掛かったけれども)。


こうして二つ目の棺を無事に造り終えた僕は、ようやくシェナさんもマスターと同じ様に葬る事が出来た。一仕事終え、僕はこの城で生まれてから初めて『自分の能力を生かして働いた』という気になってくる。

マスターはシェナさんより先に死ぬと判っていたのだから、この時の為に僕を造ったのでは無いと思うけれど……結果的には助かった。『マスターの代わりにはなれない』というのは今も変わらない思いだけれども、これからはせめてシェナさんの代わりが勤められる様に頑張らないと。

それには、まず何をするべきなんだろう。……やっぱり、もっとマスターの事を知っておくべきなのかな。

聞く所によるとシェナさんはここに来る前からマスターと一緒だったらしいし、マスターもシェナさんの事は『一番の理解者』だと言っていた。 けど、その二人が居ないのにマスターの事を知るには……?

「……そうだ……」

僕はマスターの付けていた日記の事を思い出した。マスターが死んだ今なら、見る事を許されている――

そう思い、僕はマスターの書斎へと向かった。


寝室の隣にある書斎には、記憶の通りにマスターのパソコンが置かれていた。

それは他のどのパソコンからもアクセス出来ない様になっている。

僕はカバーを開け、まずは『日記』と名付けられたファイルをアウトプットしようとした。……こちらからコネクト出来ない以上、このパソコン自身に出力して貰うしか無いと思ったからなのだけれど……果たして、それは上手くいった。

僕はそれを早速読み込む――すると最後に記録されたものから順に、日記の内容が頭の中に流れ込んだ。

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