memory4 シェナ

「お誕生日、おめでとうございます」

「……有り難う」

少し苦笑しながら、星那様はプレゼントを受け取る。それは、ドレスやアクセサリー等の入った、この国の皆からの贈り物だった。

包みを開け、中の物を確認していた星那様がドレスを手に取ると、その苦笑は困り顔へと変わる。水色を基調としたそのドレスは、角度によって色彩を変える素材で出来ている。それは別に星那様の好みに反するものでは無いので、この表情はドレスの裾の短さに起因するものだろう。

「皆には悪いけど……これ、とても私には似合いそうに無いわね」

そう言ってドレスを元の箱にしまおうとする星那様を、私は止めた。

「似合うかどうかは、御試着なされば宜しいのですよ」

「で、でも……」

「大丈夫ですから、どうぞ着てみて下さい」

笑顔で言って、私は星那様が着替えを済ませるのを待った。

ドレスを着た星那様は、案の定、とても困った顔で遠慮がちに姿を現す。

「……着たわよ」

「では、こちらへ」

「えっ? ちょ、ちょっと、シェナ!」

半ば強引に星那様を別室へと案内しながら、私は『変わっていない』と考えた。

星那様は『自分がどんどん変わっていっている』と気にしているが、私 から言わせて貰えば本質的には殆ど変わりが無いと思う。……反対に、私こそ随分と変わってしまったものだが。


星那様に拾われる前の事は、今では覚えていないが……拾われた直後からなら記憶にある。幼いながらも、既に星那様は『ある一分野』――すなわち機械工学の事だが、そこにのみ突出した才能を発揮していた。他はともかく、とにかく機械に関してのみは天才的頭脳の持ち主。

……ただ、そんな星那様は同い年の子供からすれば生意気だとしか感じられなかったのだろう。友達は一切おらず、機械開発という名の一人遊びばかりしていた子。それが星那様だった。

星那様は私を拾い、治療を施して、様々な事を教えた。星那様にとって最初の、心を許せる相手。それが私だったそうだ。


反対に私も、初めて自分の存在する意味を見付けられた気がした。――星那様に拾われて何ヶ月かした、ある日。私は一輪の花を摘んで帰り、それを星那様の髪に挿した。『似合わないから』と言って尻込みする星那様を鏡の前に連れていって、『とても似合っています』と声を掛けた時の顔。 それを見て、私は星那様の為に在るべきだと思った。


あの日から何年も経ち、そんな出来事も星那様の記憶からは無くなっているだろう。……けれど、私は忘れない。


「実は、私から……個人的に用意したプレゼントがあるのです」

大きな『鏡』の前に立ち、そのカバーを外して。

「見て下さい。とても、お似合いですよ」

そこに映った星那様を示すと、星那様はとても驚いた顔をして――それから、真っ赤になって照れながら、泣きそうな顔で笑った。

「……有り難う、シェナ……」

心からの感謝の言葉。それを聞く、私の心こそ満たされる。


私の求めていたもの。それは、私を求めてくれる人だったのだ。捨てられた事により、世の中の様々なものを恨み自分を見失っていた私だが、 星那様に必要とされた事で世界が変わって見えた。

そして徐々に、仕えていく中に喜びを見出せる様になる……。


今の私があるのは、全て星那様のお陰。だから、私の生涯も、貴女の為に捧げよう。

――そんな事を言ったら、星那様を困らせてしまうかもしれない。だから、この事は自分の胸に秘めておく事にする。

星那様は、実は私がこんな風に我侭な想いを持っていると、信じてはくれないだろう。……けれど、それで良いのだ。


『何が有ってもシェナだけは私を裏切らない』。

星那様には、そう思って頂いているのだから。

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