解放
ねぱぴこ
解放
母は、厳格な人だった。
私は、あらゆることを母から
同級生とは家庭について話したことなどなかったので、私は、どの家も同じで、それが当然なんだろうと思っていた。
私は母の期待に必死に応えようとしたが、言われた通りに上手くできず、自分が嫌になることも多々あった。
いつしか私は、母に言われたのと同じことを、唯一自分で選んで買った、お気に入りの人形に指示するようになっていた。
人形の名前は、『みぃちゃん』。美紗子という、私の名前の頭文字を取ったものだった。
私はみぃちゃんに、母から言われたすべてのことを教え込んだ。おかげでみぃちゃんはいつも礼儀正しく、優雅に身をこなす、私と母にとっての理想の女性になっていった。
——それから時を経て、私は大学生になった。
私は同級生の男性と付き合って、大学を中退して結婚した。お腹には子供がいた。
こんな歳にもなって少し恥ずかしかったけれど、私はいまだにみぃちゃんのことが手放せなかった。奇異の目で見られることもあったが、私は外出時にはみぃちゃんをバッグに入れ、家の中では持ち歩いていた。
みぃちゃんがいないと、自分がどこを目指して、何をしたらいいのか、すぐにわからなくなってしまうのだ。
私が結婚してから——私とみぃちゃんの主人は、母から夫へと変わった。
結婚から半年も経たないうちに、夫は私に暴力を振るうようになった。
私の言動に苛つくと、夫はすぐに私を殴った。夫が怒る理由は様々で、同じことをしても怒ることもあれば、そうでないこともある。私は、何が正解なのかがわからなくなっていた。みぃちゃんもなぜか、以前の母のようには夫の言うことが聞けなかった。
私は仕方なく、罰としてみぃちゃんを殴った。それまで丁寧に扱われ、古いながらも綺麗だったみぃちゃんは、私の手によってぼろぼろになってしまった。
ある日ふと、私は気が付いた。私はみぃちゃんを傷付けているはずなのに、殴りながら、私の心も傷付いている。ならば、夫も——。
私はみぃちゃんを抱え、台所に向かった。夫は居間で寝そべって、酒を飲みながらテレビを見ていた。
「なんだよお前、また変な人形連れてんのか。気持ちわりぃ——」
夫の背中に裂け目ができ、そこから真っ赤な血液が溢れ出した。夫はそのまま姿勢を崩し、仰向けになって床に倒れ込んだ。
私の目の前には、大きな血溜まりができていた。
——これで、夫は私から解放された。
私は、みぃちゃんを連れて外に出た。風が心地良く頬を撫でる。自分の心がこんなにも達成感で満たされるのは、生まれて初めてのことだった。
私はみぃちゃんの髪を撫で、公園のベンチの上にそっと置いた。みぃちゃんは、嬉しそうに顔を
——さようなら、みぃちゃん。
私たちと同じように、どうか、もう何者にも縛られず、自由になってね。
解放 ねぱぴこ @nerupapico
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