魔法少女を引退して……
翌朝――目を覚ますと、隣には裸姿の夏希が眠っていた。昨晩の出来事を思い出してしまい顔が熱くなるのを感じたが、それと同時に幸福感に包まれていたのも事実だった。俺はしばらく彼女の寝顔を見つめていた後で、そっと頬にキスをした後に、起こさないように静かに部屋を出たのだった。
それからしばらくして――夏希が起きて階段を降りてリビングにやってきた。
「おはよう……」
俺が挨拶すると、彼女は笑顔で挨拶を返してくれた。
「おはよう……」
(やっぱりかわいいな)
そんなことを考えていると、不意に目が合ったため慌てて視線を逸らすと、誤魔化すように言った。
「きょ、今日はいつもより遅いんだな。起きるの……」
「え……? ああ……うん。ちょっとね……」
(なんか歯切れが悪いな)
俺は不思議に思ったものの特に追求することはせずに朝食の準備を始めたのだった。それからしばらくして夏希と冬香ちゃんが食卓につくと、三人で手を合わせて『いただきます』をした後で、食事を始めた。すると、夏希が突然聞いてきた。
「ねえ……今日は何か予定ある?」
俺は少し考えてから答えた。
「いや……特にないけど」
俺が答えると、彼女は嬉しそうな表情を浮かべて言った。
「じゃあさ……せっかくの休日だしどこか行かない? 」
「別にいいけど……どこに行くんだ?」
俺が聞き返すと夏希は少し考え込んだ後で恥ずかしそうに言った。
「……遊園地とかどうかしら?」
「遊園地行きたーい!」
話を聞いていた冬香ちゃんが元気よく手を上げる。
「決まりね!」
(まぁ……いいか)
俺は心の中で呟くと、早速出かける準備を始めたのだった――。
遊園地に着くと、夏希が真っ先に向かったのはジェットコースターだった。どうやら一番楽しみにしていたアトラクションのようで、目を輝かせている姿が印象的だった。順番を待っている間もそわそわしていて落ち着きがなかったくらいだ。そしてついに俺たちの番が来たので乗り込むことにしたのだが――いざ乗ってみると想像以上に迫力があって驚いた。
「きゃぁぁぁぁぁぁああ!」
(うわっ!)
隣で夏希が絶叫を上げているのを聞いて、俺は思わずドキドキしてしまった。その後も次々とアトラクションを制覇していったのだが、そのたびに彼女たちは楽しそうにはしゃいでいた。その様子を見ていると俺まで幸せな気分になっていたのだった。
そして――気づけば夕方になっていたので最後に観覧車に乗ることになったのだが、頂上近くになったところで急に黙り込んでしまった夏希を見て、不思議に思った俺が声をかけようとした瞬間、先に口を開いたのは彼女だった。
「ねえ、隼人……」
「なんだ?」
俺が聞き返すと、夏希はしばらく黙り込んだ後で、意を決したように口を開いた。
「私……やめようと思うの」
「何を?」
すると、夏希は俺の耳元で囁いてきた。
「魔法少女……」
「えっ……!?」
俺は驚いて声を上げてしまったが、すぐに我に返って言った。
「本気なのか? なんで急に……」
俺が聞くと夏希は俯いてしまったので、もう一度尋ねようとしたのだが、その前に彼女が口を開いた。
「私ね……今の生活を――普通の生活を維持していきたいの。だから、やめる!」
「そうなのか……」
俺が呟くように言うと、彼女はこくりと小さく頷いた後で話を続けた。
「隼人、一つだけお願いがあるんだけど……」
「なんだ?」
夏希の口から出た言葉を聞いて――俺は目を見開いてしまった。
「これからもずっと側にいてほしい……」
「……え?」
予想外の言葉に一瞬思考停止してしまったが、すぐに我に返って言葉の意味を理解した。
「死んでも夏希の側に居てやるから安心しろ!」
俺は力強く答えると、夏希の頭を撫でてやった。すると、彼女は嬉しそうに微笑んでくれたので、俺も嬉しくなった。そしてしばらくの間、お互いを見つめ合った後でキスをしたのだが、そんな俺達の様子を冬香ちゃんがこっそり見ていたようで……後日からかわれることになるのだった――。
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