何度もキスをして……
茜の家を後にして、俺は夏希の家に帰っていた。夜道を一人で歩き、家に着くと――出迎えてくれたのは冬香ちゃんだった。
「お兄ちゃん、お帰りなさい!」
「ただいま……」
「どうかしたの?」
不思議そうに冬香ちゃんが尋ねてきたので、俺は平静を装って返事をした。
「なんでもないよ」
「そう? なら良かった!」
冬香ちゃんはそう言うと、台所に向かって歩いて行った。その後ろ姿を見送ってから、俺はリビングへと向かった。リビングに行くと、夏希が夕食の支度をしていた。
「お帰りなさい、隼人」
「ただいま……」
俺が挨拶を返すと、夏希は首を傾げた後で尋ねてきた。
「何かあったの?」
「……どうしてそう思うんだ?」
俺が聞き返すと、彼女は微笑みながら答えた。
「なんか浮かない顔してるからさ……何かあったのかと心配になっただけよ」
(鋭いな)
俺は内心感心していた。だが、だからと言って本当のことを話すわけにはいかないだろうと思い適当に誤魔化すことにした。
「いや……別に何もないぞ」
そう言うと夏希は訝しげに俺のことを見ていたが、それ以上追及してくることはなかった。俺はほっと胸を撫で下ろすとソファーに座ったのだが……その際にふと茜のことが頭をよぎった。
「デレデレすぎるだろ……」
俺が呟くように言うと、夏希が不思議そうに聞いてきた。
「何か言った?」
「いや……何でもないよ」
俺が誤魔化すように答えると、彼女は少し不審そうな表情を浮かべていたがそれ以上は何も聞いてこなかったため、俺は安心してテレビを見ることにした。夕食後、俺は夏希の部屋に一人で入ると、布団の上で寝転がっていた。
「はぁ……」
(今日は色々あったなぁ)
そんなことを考えてぼーっとしていると――突然部屋のドアがノックされた。そして……入ってきたのは夏希だった。彼女はどこかぎこちない様子で俺を見つめていたが、やがて意を決したように口を開いた。
「ねえ……ちょっといい?」
(何の用だ?)
俺が戸惑っている間にも夏希はゆっくりとこちらに近づいてくると……俺の横に腰かけたかと思うと、そのままもたれかかって来たため、思わずドキッとした。
「ど、どうしたんだよ?」
俺が動揺しながら聞くと、夏希は恥ずかしそうにしながらも答える。
「キス……してよ……」
「えっ!?」
俺は驚きのあまり固まってしまった。まさかそんなことを言われるとは思ってもいなかったからだ。しかし、夏希は俺の反応を見て不安になったようで、上目遣いになりながら聞いてきた。
「ダメ?」
(うっ……!)
その仕草を見た瞬間に胸の奥がきゅんとなるような感覚に襲われてしまい、理性が崩壊していくのを感じた。そして――気がつくと俺は彼女にキスをしていたのだった。最初は軽く触れるだけのキスだったのだが、徐々にエスカレートしていき……舌を入れるディープキスへと発展していった。そして、お互いに息が苦しくなってようやく口を離すと……唾液の糸が伸びていった。
「はぁ……もう終わり?」
(うっ……)
潤んだ瞳で見つめられてしまい、理性が完全に崩壊してしまった俺は欲望を抑えきれずに再び彼女に口づけをした。今度は先程よりも激しく舌を絡め合うような濃厚なもので、部屋にはお互いの荒い息遣いだけが響いていた。それからしばらくの間キスを続けた後で、ようやく解放された時にはすっかり脱力してしまっていたが、それでも何とか平静を装って言った。
「これで満足か?」
俺が聞くと、夏希は小さくうなずいた後で恥ずかしそうに微笑んだ。
(可愛すぎるだろ……)
俺は心の中で呟くと、彼女を抱きしめたい衝動に駆られたが何とか我慢することができた。それからしばらくの間沈黙が続いた後で――不意に夏希が口を開いた。
「ねえ……」
「なんだ?」
俺が聞き返すと、彼女は頬を赤らめながら言った。
「もう一回……」
(マジか……!?)
俺は動揺したものの断れるはずもなく、結局その後も何度もキスを繰り返していくことになったのだった――。
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