魔法少女に誘われて……
その後――俺たちは警察に通報したのだが、現場検証やら何やらで結局解放されたのは夕方になってからだった。警察署から出たところで夏希が話しかけてくる。
(ちなみに冬香ちゃんは先に帰っている)
「ねえ、隼人……」
「ん? どうした?」
俺が聞き返すと彼女は恥ずかしそうにしながらも言葉を続けた。
「その……ありがとうね」
「何がだよ?」
俺が首を傾げると、彼女は頰を赤らめながらも答えた。
「私を守ろうとしてくれて……」
「当たり前だろ。夏希は……俺の宝物なんだから」
(つうか、全身包帯人間……奴は俺のことを裏切り者って言ってたけど、何者だったんだ?)
俺は心の中で疑問を抱くのだった。
そして家に帰ったのだが、道中で夏希が話しかけてくることはなかった。まあ仕方ないとは思うけどね……あんなことがあった後だしな。そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか家の前まで来ていたようだ。玄関を開ける前に隣を見る。
「夏希?」
俺が名前を呼ぶと彼女はビクッと体を震わせてからこちらを見た。そして――意を決したような表情になると口を開く。
「ねえ、隼人はさ……私のどこが好きなの?」
「えっ?」
あまりにもストレートな質問だったので俺は思わず動揺してしまった。しかし、ここではぐらかすわけにはいかないと思い正直に答えることにしたのである。
「そうだな……まずはやっぱり顔かな? 夏希は美人だし可愛いと思うし……」
(まあ、性格も好きなんだけど)
俺がそう言うと、彼女は頰を赤らめた後に俯いてしまった。どうやら照れているようだ。そんな様子を見ていると俺も恥ずかしくなってくるのだが、それでも言葉を続けることにする。
「それにさ……一緒にいて楽しいし落ち着くんだよ」
俺が言うと、夏希はゆっくりと顔を上げた後で微笑んだ。
「そっか……ありがとう」
彼女はそれだけ言うと家の中に入っていったので、俺もその後に続くことにしたのだった。そして――夕食を済ませた後のことである。リビングでくつろいでいる俺に、夏希が話しかけてきた。
「ねえ、隼人」
「ん? どうした?」
俺が聞き返すと、彼女は少し間を置いてから言った。
「その……お風呂一緒に入らない?」
その言葉に思わずドキッとする俺だったが、平静を装って答えることにする。
「別にいいけど……」
(始めてじゃないからな……)
俺は心の中で呟く。そう、以前にも夏希と一緒に風呂に入ったことがあったのだ。それはまだ付き合い始めて間もないことだけど……その時のことは今でも鮮明に覚えているんだよな。そんなことを考えながら待っていると、やがて夏希がやってきたので俺たちは脱衣所に向かった。そして、服を脱いで風呂場に入ることになるのだが、そこでふと疑問を抱いた俺は彼女に尋ねることにしたのである。
「なあ、夏希」
「ん? 何よ?」
首を傾げる彼女に対して俺は続けた。
「今日はどうして一緒に風呂に入りたいと思ったんだ?」
俺の質問に、夏希は頰を赤らめながらも答えてくれた。
「えっと……それはね……」
(なんだ?)
俺は首を傾げるしかないのだった。そして――彼女が口にした理由を聞いたところで納得すると同時に、嬉しくもあったのである。何故ならそれは、俺と同じ気持ちだったからだ。それからしばらくの間お互いに無言のまま時間が過ぎていくことになるのだが、その間もずっと手を繋いだままでいた俺たちだったのだが……やがてどちらからともなく唇を重ね合わせることになったわけで――それがまた一段と幸せな気分にさせてくれるのであった。
翌日――俺たちはいつものように朝食を摂っていたのだが、ここでふと夏希が思い出したように俺に話しかけてきたので。それは昨日の出来事に関することだった。
「ねえ、隼人……あの後どうなったの?」
俺はその時のことを思い出すようにして答えることにする。
「ああ……全身包帯人間の体から黒い煙が立ち上がって灰になって死んだだろ。それで、警察としては不可解な事が多いから未解決事件として捜査を終えるらしいぞ」
俺が説明すると、夏希は納得するようにして頷いていた。
「なるほどね……確かに不可解な事が多いわね」
「お兄ちゃんたち、大丈夫なの?」
冬香ちゃんが心配そうな表情で俺たちに話しかけてきたので、俺は笑みを浮かべながら言った。
「大丈夫だよ。別に大したことじゃないから」
「ええ、心配いらないわ」
俺と夏希が答えると、冬香ちゃんはホッとした様子を見せる。そんな姿を見て俺たちは顔を見合わせて笑ったのだった――。
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